Saturday, January 21, 2012

Tiempo de revancha [アルゼンチン映画]

今回はけっこう細かいところまで書いちゃうと思う


アルゼンチンでは1981年7月30日に公開された作品。
監督は私のたぶん好きなアドルフォ・アリスタライン(IMDb - Adolfo Aristarain)。

「たぶん」と書いたのは、彼の11作品のうち今作の他にはまだ2作品(Martín (Hache) [アルゼンチン映画]: CabinaLugares Comunes [アルゼンチン映画]: Cabina)しか観ていないから、少し遠慮してみたわけです。鑑賞済みの3作はどれも素晴らしい。大好きだ。


おはなし
ペドロ・ベンゴアはかつては労働組合員であったが、妻と19歳の娘のある身ではいつまでもそうやって暮らしていけるわけもない。ペドロは経歴を修正してくれる業者に依頼して過去を消し、多国籍巨大企業トゥルサコ社の所有する銅山の労働者の口にありついた。

銅山に着いて仲間を紹介された時ペドロは吃驚する。かつての組合活動仲間のブルーノがいたのである。その場は顔色一つ変えずに素っ気なく自己紹介を交わした二人だが、岩陰で再会を心から喜び合うのだった。

会社の業務命令は安全基準を無視した無謀なものばかりで、死亡事故も後を絶たなかった。会社の不手際が目につき腸が煮えくり返る。ペドロは上司と衝突もしたが、ブルーノも言うとおり、ここでは「不平不満は禁物、抗議はするな、我慢我慢」なのである。

そんな時にブルーノがたいへんな計画を持ちかけてきた。「事故だよ。俺様が事故に遭うんだって。ただしペドロ、お前が精確に計算して事故を起こすんだよ」。

打ち合わせ通りにペドロが事故を起こし、段取り通りにブルーノが救出され、しかし後遺症で声を失ってしまっているという設定で、この巨大企業から金をもぎ取ろうと言うのである。裁判のあいだじゅうずっとそんな嘘をとおせるわけがないと怪訝な顔のペドロにブルーノが言って聞かせる。

「裁判なんかしねえよ。いいかペドロ、トゥルサコという会社はな、金をくれるんだ。法廷に持ち込ませないために金をくれるんだよ」。
・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆


とても面白かった。面白かったというか、じっとりはり付いてくるような怖さで寒気がする。緊張感で息苦しい。


(コメント欄で細かく追っていきます)


Tiempo de revancha (1981) - IMDb
直訳: 復讐の時


監督・脚本: Adolfo Aristarain アドルフォ・アリスタライン

出演:
Federico Luppi フェデリコ・ルッピ ... Pedro Bengoa ペドロ・ベンゴア
Haydée Padilla アイデー・パディージャ ... Amanda アマンダ
Joffre Soares ... El Padre: ペドロの老父; 装丁家
Ingrid Pelicori ... Lea Bengoa レア: ペドロの娘; 歯学部学生
Jorge Chernov ... Jorge ホルヘ: レアの彼氏

Ulises Dumont ウリセス・ドゥモン ... Bruno Di Toro: ブルーノ: ペドロの昔の労働組合活動仲間
Julio De Grazia ... Larsen ラルセン: ブルーノの旧知の弁護士

Enrique Liporace ... Ingeniero Basile: バシーレ技師; 駅まで迎えに来てくれた
Aldo Barbero ... Ingeniero Rossi: ロッシ技師; バシーレの上司

Alberto Benegas ... Golo ゴーロ: 最初に駅まで迎えに来てくれて車を運転してくれた仲間; 常に運転が荒い; 先住民マプーチェかとペドロが聞いたがそれは否定した

Arturo Maly ... Dr. García Brown ガルシア・ブラウン: 会社側の弁護士
Rodolfo Ranni ... Torrance トランセ: 本社社員
Jorge Hacker ... Don Guido Ventura ギード・ベントゥーラ: 社のトップ

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Monday, December 26, 2011

Ausente / プールサイド [アルゼンチン映画]

premios goyaLatin Beat Film Festival 2011 / 第8回ラテンビート映画祭 / ラテンビートフィルムフェスティバル2011 / スペイン・ラテンアメリカ映画祭: Cabinaの上映作品。

第8回 ラテンビート映画祭 | LATIN BEAT FILM FESTIVAL 2011 in TOKYO, YOKOHAMA & KYOTOより:
高校教師のセバスティアンは、目を怪我したと言う生徒マルティンを病院に連れていく。治療後、車で自宅へ送ろうとするが、マルティンは「家のカギを失くし、親と連絡もとれない」と巧みに嘘をつき、セバスティアンの家へ上がり込む。人目もはばからず、裸で部屋を歩き回るマルティンにセバスティアンは戸惑いを覚えるが…。……略…… 2011年のベルリン国際映画祭ゲイ&レズビアン映画部門(テディ賞)で見事大賞を受賞した。


これは困ったね……。うーむ。「嫌いではない」。私がもともとGLBT作品には比較的やさしい目線になりがちであるということを差っ引かないといけないかもしれないが。

嫌いではないよ、ないけど……書くことがほとんど無いのはどうしたことか。朝一番の上映だったから頭が起きていなかったんだろうか? 一人で観てしまって、直後に友達同士で語らったりせず印象を刻みつける作業が欠けたためだろうか。

好きな系統の作品なんだがなあ。印象的だったことは……と、メモ帳を見てみてもこれといってめぼしいメモが無い。


友人は数日前の上映日に鑑賞を済ませてあった。これから『プールサイド』を観ようという私にただ一つ、「たぶん『こ…れ…は…ど…う…な…の…?』って思うクダリがあるから」ってコメントしてた。そのコメントの意味はわかりかねたが私もあえて尋ねずに鑑賞に臨んだ。だが、観ていて「ああ、このことか。はははは」とわかったよ。音楽がおどろおどろしすぎたんだ。


音楽が怖すぎる、大仰」ってやっぱりメモしてある。


音楽は邪魔だったね。あんなホラー映画のように見せる必要はなかったでしょ、あのシーン。


今年のラテンビート映画祭、アルゼンチン作品はこれだけだったんだよね? ひょっとすると「同性愛的な作品をなにか一つ」と探した結果これを持ってきたのかもしれないが、もしもそういう理由にこだわったとしたならばそれは読みが違うと思う。

同性愛的だろうが異性愛的だろうが家族愛的だろうがなんだろうが、私は面白い作品を持ってきてほしかった。面白いかどうかにこだわって選定してほしかった。


アルゼンチン作品ということならば、愛というか隣人愛というかいや偏愛というか愛憎というか……が実に面白く描かれている『El hombre de al lado [アルゼンチン映画]: Cabina』なんかを持ってきてもらいたかったよ、望むべくんば。映画館に観客の含み笑いがじわじわ拡がる様子を味わいたかった。

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Sunday, May 08, 2011

Rompecabezas / 幸せパズル [アルゼンチン映画]

おはなし
マリア・デル・カルメンはブエノスアイレス近郊のトゥルデラに住む50歳の主婦。夫のフアンとの間にイバンとフアン・パブロという二人の息子がある。

マリア・デル・カルメンは自分にジグソーパズルを解く才能が潜んでいたことを知る。戸惑いながらも彼女はパズルの楽しみを味わうようになる。ささやかなこの趣味が彼女の暮らしに変化をもたらした。

ロベルトという裕福な年上の男性と知り合ったのである。ロベルトはドイツで開催されるジグソーパズルの世界大会に出場するため相棒を探しているところだった。

・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆


2010年のベルリン映画祭(Berlin International Film Festival (2010))の金熊賞にノミネートされた作品で、DONOSTIA ZINEMALDIA / 58 FESTIVAL DE SAN SEBASTIÁN / 第58回 サン・セバスティアン国際映画祭でも上映された。

このところ、ブログ記事の冒頭で《おはなし》を説明する時にわりと具体的にセリフを抜き出して作文をすることが続いていたが、今回はそれは控えて曖昧にまとめておくことにした。この作品は日本でもきっと観る機会があると思うので、その時にマリア・デル・カルメンたちのセリフや表情を是非味わってもらいたいと望んでいます。


面白いです。私、こういうの大好き。愛らしい人々が小さな衝突を地味に繰り広げていく中に、悲しみや苛立ちや喜びが静かに語られていてね。どうしても口元に笑みが浮かんじゃう。

昨夜、日付が変わってもなかなか中断できずどんどん観てしまっていた私は、マリア・デル・カルメンがパズルに熱中して時間を忘れてしまうのなんてすごく共感できる。

マリア・デル・カルメンのように心の奥に小さな火山を休ませてあるお母さんは世の中にいっぱい居るんだろうなって思った時に、気づいてみれば今日は母の日。こんな夜にこの作品について書くことになったのはなにか心温まる偶然でありました。


Rompecabezas (2009) - IMDb
直訳: パズル

・公式 ROMPECABEZAS | Una película de Natalia Smirnoff ||
音楽を消すボタンはINICIO TRAILER SINOPSIS …… CONTACTO の横の♪のマーク; いやあ、探したよ)


脚本・監督: Natalia Smirnoff ナタリア・スミルノフ
音楽: Alejandro Franov アレハンドロ・フラノフ

出演
María Onetto マリア・オネット ... María del Carmen マリア・デル・カルメン
(『La Mujer Sin Cabeza / 頭のない女』でのマリア・オネットを覚えている人は多いのでは?)

Gabriel Goity ... Juan フアン: 夫
Arturo Goetz ... Roberto ロベルト: パズル仲間募集中

Henny Trayles ... Carlota カルロタ: 姑
Julián Doregger ... Iván イバン: 長男
Felipe Villanueva ... Juan Pablo フアン・パブロ: 次男
Denise Groesman ... Victoria ビクトリア: そのカノジョ

Nora Zinsky ... Raquel ラケル: ロベルトのパズル仲間というかライバルというか
Marcela Guerty ... Susana スサナ: 同じく

Mirta Wons ... Graciela グラシエラ: ロクトリオの受付の女性
Mercedes Fraile ... Carmen カルメン: ロベルトの家のお手伝いさん

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Tuesday, March 01, 2011

El hombre de al lado / ル・コルビュジエの家 [アルゼンチン映画]

El hombre de al ladoおはなし
レオナルド・カチャノフスキーは有名なプロダクトデザイナーで、その作品はミラノなどのビエンナーレでも高い評価を得ている。代表作とも言える“カチャノフスキー・チェアー”は世界各国で売上を伸ばしている。大学でも講義を受け持つなど、レオナルドの活躍の場は拡がるばかりである。

ル・コルビュジエによってデザインされたあのクルチェット邸に住んでいる。ハイセンスなその家で、ヨガ教室を主宰する妻アナと難しい年頃の娘ロラと暮らしている。

ル・コルビュジェの計算どおりに配置された木々の葉音と小鳥のさえずりが心地よい。静やかなレオナルドの朝のひとときを重たいハンマーの音がぶち破る。泡を食ったレオナルドがその鈍い不吉な音をたどってみると、隣家との境界壁に大穴が開けられるところであった。

得体の知れないビクトルという隣人の粗野な振るまいはレオナルドの静穏な日常を脅かす。

・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆


とても面白い。そしてスリリング。

ニヤニヤともヒヤヒヤともするのだけど、ここの会話がこのように面白かったとか、このシーンのあの目つきに驚かされたとか、書くに書けないのがもどかしくなる作品。「観る人それぞれに楽しんでもらいたい。私は今はだんまりでいこう」という点では『Whisky / ウィスキー』の時と似た気分かもしれない。

うん。
そうだね。
もうこれ以上は本文では書かないことするわ。
コメント欄でなにか書いてしまうと思います)

ここが面白かった、ここが怖かったと挙げようにも、そんなのを挙げていったら全部説明することになってしまいそうで、言わないようにことばを飲み込まなきゃいけないのが困る。

そのように次から次へと可笑しい会話やゾクッとするシーンが続くという点ではいったい何の作品に似ているかなあ……。


これ、映画祭などで日本でも観られるようになってほしい。おもしろいと思いますよ。


舞台はココ。ビクトルは自分の住所をCalle 54の320番地だと言っている。

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2012.08.25 加筆
ラテン!ラテン!ラテン!のvagabundaさんのおかげで日本で観られるようになりました。邦題は『ル・コルビュジエの家』です。

9/15から新宿K’s Cinema
地図: ::: ケイズ シネマ:インフォメーション :::

10/6からシネマート六本木
地図: Cinem@rt- シネマート六本木 | 劇場情報 | 映画館

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Tuesday, February 22, 2011

Esperando la carroza [アルゼンチン映画]

Esperando la carrozaおはなし
スサナは32歳。夫ホルヘは稼ぎがいいわけでもなく、家の事といえば横の物を縦にもしない男。女の子が生まれ家事が増えたことでヒステリックになっているスサナだが、彼女にとって目下最大の悩みの種は姑ママ・コラだ。いろいろと家事に手を出しては余計な仕事を増やしてくれるだけの姑との同居にスサナは限界を感じている。

ホルヘは弟のセルヒオ、アントニオ、そして妹のエミリアという4人兄妹の長兄。ママ・コラは38歳で夫に先立たれてから4人の子をひとりで育てた女丈夫だったわけである。

実はスサナは義弟セルヒオの嫁エルビラやアントニオの嫁ノラよりも年が若いのだが、長男の嫁であるという理由で今日まで姑の世話を任されてきた。溜まりに溜まったその不満が爆発する時が来た。もともと仲がよくなかったこともあり、スサナは数ブロック離れたセルヒオ=エルビラ夫婦の家に怒鳴り込むのだが、折悪しく今日はこの家にアントニオ=ノラ夫婦がやってくることになっていた。

老いて軽度の認知症を発症していると思われる母親の世話をめぐって3兄弟とそれぞれの嫁の思惑がぶつかり合う。

・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆


わたしはしょっちゅうIMDbを覗いて観るべき映画を探すが、スペイン語映画のコメディではいつも上位にあるこの作品には数年前からそそられていた。製作国をアルゼンチンに絞ったら一位に輝いているわけだから尚のこと。観たくてしかたなかった。

それでたしか一昨年の夏やっと観た。観たというか、その時はまとまった時間がとれなかったので別の作業の時にDVDを回しておいただけだったのだけど。

そして今回あらためてきちんと観る態勢で観ましたが……これはおそらく私がこれまで観てきた約230作品の中でも、

一分あたりの音節数がたぶん最も多い。

セリフの無いカットの占める割合がたぶん最も低い 
(セリフの多さ・慌ただしさはたとえば『Plácido』もそうだけど、『Esperando ~』に比べたら『Plácido』なんておとなしい、おとなしい)

ヒアリング難度はたぶん最も高い 
(発音の特徴とか話す速度のせいでヒアリングがキッツいなあと思ったのはたとえば『Martín (Hache)』のフェデリコ・ルッピや『25 Watts』が思い出されるが、『Esperando ~』は比じゃないと思う。チナ・ソリーリャを筆頭に、みんな難度高い。

もしも『Esperando la carroza』の単語の一つ一つまで聞き取れたら、つまりこの作品の書き起こしができるのなら、その人はヒアリング分野についてはDELEの何級だろうが何っっっにも恐れなくていいと思う。私はこれは字幕無しだったら青ざめるレベル。厳しい)


ぜんぶ“たぶん”だけど、そういう作品だと思う。ひらたく言うと、「最もやかましい」作品。現に、私がこれを再生していたら母がすっ飛んできて「なんか、うるさいんだけど! 御近所迷惑!」と言った。


今回はちゃんとヘッドホンをつけて観ました。
面白いと思う。社会の階層差、人心の乱れ、富裕層の偽善、警察の腐敗、ちょっと前の暗黒時代への非難、人種偏見、高齢者問題、男尊女卑的社会構造への批判などなどなどをこちらに叩きつけてくるように描いている、どぎついブラックユーモアの連打。

ひととしてどうかと思うようなことをケタケタ笑いながら話す人っているじゃん? 怖いじゃん、そういうアンチソーシャルな人。そういう人が目の前でしゃべっているのを内心冷や冷やしながらこわばった笑顔で聞いている時のような気分がする作品。


Esperando la carroza (1985) - IMDb
直訳: 霊柩車を待ちながら

監督: Alejandro Doria アレハンドロ・ドリア
脚本(IMDbのいうところの‘Writer’って何だっけ?): Alejandro Doria
劇作・脚本: Jacobo Langsner

出演:
Antonio Gasalla ... Mamá Cora ママ・コラ(姑; 演じているのは当時44歳のおっさん)

Julio De Grazia ... Jorge ホルヘ: 長男
Mónica Villa ... Susana スサナ: 長男の嫁

Juan Manuel Tenuta ... Sergio セルヒオ: 次男かなあ
China Zorrilla ... Elvira エルビラ: その嫁; 毒舌家
Andrea Tenuta ... Matilde マティルデ: 娘; 16歳; 非処女

Luis Brandoni ... Antonio アントニオ: 三男だろうか? 一番羽振りがよい; 警察とも癒着している様子あり
Betiana Blum ... Nora ノラ: その気障ったらしい成金臭ぷんぷんの嫁; セルヒオにちょっかいを出すのでエルビラは面白くない

Lidia Catalano ... Emilia エミリア: 3兄弟の妹; 未亡人
Darío Grandinetti ダリオ・グランディネッティ ... Cacho カチョ: その息子; 箸にも棒にもかからない、うどの大木; 『トーク・トゥ・ハー』『今夜、列車は走る』のグランディネッティですよ

Enrique Pinti ... Felipe フェリペ: ホルヘたち兄妹の従弟

Cecilia Rossetto ... Dominga ドミンガ: セルヒオの家のお向かいの人妻; 息子はまだ幼い; たぶん夫の目を盗んで日曜の真っ昼間に浮気に出かけるところ
Matías Puelles ... Hijo Dominga: その幼い息子

Clotilde Borella ... Doña Elisa ドーニャ・エリサ: セルヒオ=エルビラ夫婦の家の隣家の夫人
Pina Criscuolo ... Doña Gertrudis ヘルトゥルディス先生: マティルデのフランス語の先生
Mónica Alessandría ... Pocha ポチャ: マティルデの女友達じゃなかったかな

Juan Acosta ... Peralta ペラルタ: 警察の人

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Thursday, January 13, 2011

Tocar el cielo [アルゼンチン映画]

tocar el cieloおはなし
ブエノスアイレスとマドリード。大西洋を挟んだ二つの街のクリスマスの夜空に風船が高く上っていく。ブエノスアイレスでは女たらしのサンティアゴとインペリオお婆ちゃんが、マドリードではペドロとグロリアが、それぞれの願いを書き込んだ短冊をつけて風船を空へ放つ。

・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆ 

まず最初に言っておかないと:
今現在IMDbの『Tocar el cielo』のページにあるポスターは違う作品の写真です。

make a wish『Tocar el cielo』の英題の一つに『Make a Wish』というものがあり、そのタイトルのVシネマの写真(右図)が間違って掲載されているわけです。あんまり品のない画でしょう? このVシネ作品には『Lesbian Psycho』というタイトルもあり、さあ、ホラー映画なんでしょうかね。とにかく、『Tocar el cielo』とはまったく別の作品です ⇒ Make a Wish@IMDbMake A Wish@amazon


私が観たのはアルゼンチン映画の『Tocar el cielo』。


わりとサラっと観たので注意点がいくつかあります


Elsa y Fred / エルサ& フレド』のマルコス・カルネバーレ監督がエルサを演じたチナ・ソリージャを起用して撮った作品。そのほか『Azuloscurocasinegro / 漆黒のような深い青』のラウル・アレバロ、アナ・ワヘネル、『Reinas』のベティアナ・ブルムといったキャストを見れば、それはそれは心温まるコメディだろうと思えるわけです。その面々でつまらない作品ができあがるわけがないって。

そして実際に観てみたらたしかに愛が描かれているコメディだし、クスッとかニヤリと笑えるし、好きは好きなのだけどちょっと私には期待外れだったかな。期待がべらぼうに大きすぎたんだと思う。

チナ・ソリージャの可愛らしく憎たらしいお婆さん像や、グロリアを演じたベティアナ・ブルムの熱演は素晴らしかったけれども、偏屈で愛情の示し方がわからず息子とも老母ともまったくうまくいっていないというペドロのキャラクター設定など、いろいろな人物の設定が説得力を欠いていたように思う。

彼らの言動も現実味があるとは言い難く、どうもね、好意的に見られなかった。


私は二十歳過ぎた頃から涙腺がぶっ壊れていて、たいがいの‘おはなし’で泣けてしまう。30過ぎてからは日常のニュースで涙ぐんでるから涙が追いつかない。人が殺されたと聞いて泣き、自殺報道で泣き、タイガーマスクのランドセルで泣き、倒れた大銀杏が再生していますと聞けば泣き。

そんな具合で、映画なんて観たらどうせ泣く私だからこそ、‘泣ける作品’というコトバに対しては懐疑的で冷笑的なのだと思う。‘泣ける作品’って何なのか、映画というものは観客が泣くに至りさえすれば佳いとでもいうのか?というツッコミの分を映画の感興から差っ引くべきだって、日頃自分に言い聞かせている。

登場人物が誰か死ねば、そりゃ泣くさ。泣くだろうよ。でも死というものは一般につらい出来事であるから私は人として泣いているのであって、映画の観客として泣いているわけじゃぁない。人物が死んで私が泣いたからってその作品が佳いかどうかは、私は知らない。


登場人物が死ねばいいってものじゃないし、観客が泣けばいいってものでもない。そういう引き算をしていったら、思ったほどお釣りが残らない作品だったというわけだ。私が期待をしすぎた。


(語句メモなどはコメント欄で)

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Wednesday, May 26, 2010

Las Viudas de los Jueves / 木曜日の未亡人 [アルゼンチン映画]

viudas de los juevesこの作品については撮影が始まる頃にちょっとだけ触れておいたのだけど、今あらためて当時のterra.comの記事を読み返してみると、私がストーリー紹介を読み間違っていたことがわかる。読み違えたのかもしれず読み違え“させられた”のかもしれず。

あらためてストーリー紹介
2001年12月17日、アルゼンチン。要塞のように堅牢なセキュリティシステムに守られた高級住宅街のプールに、ある朝死体が三つ浮かんでいた。タノ、マルティン、グスタボ、この地区に居を構える男たちである。完璧な人生を掴み取ったこの男たちの死は事故として処理されたが……。


4組の夫婦の物語なので、公式サイトのTOP画像で夫婦関係を確認。
viudas de los jueves


でもこれでは女性陣が皆サングラスをかけていてわかりづらいので、公式サイト内の人物紹介を読んでみる。


viudas de los jueves
※公式サイトに入ろうとした時すぐに立ちはだかっているのは警備員。このゲーテッド・コミュニティーへの外部からのアクセスをセキュリティー室のモニター越しに監視している。

viudas de los juevesまず、タノとテレサの夫婦。

タノはこのコミュニティー内でも一目置かれる存在。外資系企業の社長。妻テレサとの間に二人の子供あり。仕事も家庭も順調、テニスもポーカーも強く、女にももてるとか。

タノがこのコミュニティーの言ってみれば“王”であるならば妻テレサはさしづめ“女王”であろうか。上流家庭の出である彼女にはその称号もふさわしいだろう。品の良さが全てを物語っている。誰からも沈着冷静と思われている彼女だが…。

viudas de los juevesマルティンとララ夫婦、そして娘のトリナ

マルティンは弁護士。コミュニティーにおいても倫理委員長という役職についている。勤務先は国際的な研究所である。いや、「だった」と言うべきか。リストラに遭ってだいぶ経つが妻子にそれを打ち明けられずにいるのである。

妻のララは気の強い女である。夫のマルティンがおとなしい性格なので発破を掛けるためにも強くあらねばならないと思っているのだろうか。

娘のトリナは生来向う気が強い。家の中でも外でもトリナは好き勝手に振る舞っている。自分がささくれ立っているからなのか、隣人のフアンの柔和なところに惹かれている。

viudas de los juevesロニとマビ夫婦、そして息子のフアン

ロニはタノの親友。もう何年も仕事はしていない。それでこのコミュニティを外から第三者的に眺めるようになったのかもしれない。シニカルなジョークをよく口にする。

ロニの妻のマビは不動産業を営んでおり一家の大黒柱である。この重責がゆえにマビはこの家で父親役を演ずるようになったのか。しかし身近の男たち、つまりロニと息子のフアンを理解し受け止めるのはなかなかに難しく……

viudas de los juevesグスタボとカルラは最近越してきた若い夫婦。

グスタボは会社経営者で、テニスも凄腕ときている。

若く美しいカルラ。まだ子供がいない。このコミュニティに来るのにすっかり納得していたわけではない。


Las Viudas de los Jueves - Una película de Marcelo Piñeyro
Las viudas de los jueves@IMDb

・直訳: 木曜日の寡婦たち 

監督: Marcelo Piñeyro マルセロ・ピニェイロ
脚本: Marcelo Figueras マルセロ・フィゲラス  Marcelo Piñeyro
原作: Claudia Piñeiro クラウディア・ピニェイロ

出演:
Pablo Echarri パブロ・エチャリ ... Tano タノ
Ana Celentano アナ・セレンタノ ... Teresa テレサ
Ernesto Alterio エルネスト・アルテリオ ... Martín マルティン
Gloria Carrá グロリア・カラー ... Lala ララ
Vera Spinetta ベラ・スピネッタ ... Trina トリナ
Leonardo Sbaraglia レオナルド・スバラグリア ... Ronnie ロニー
Gabriela Toscano ガブリエラ・トスカノ ... Mavy マビー
Camilo Cuello Vitale カミロ・クエーリョ・ビターレ ... Juan フアン
Juan Diego Botto フアン・ディエゴ・ボット ... Gustavo グスタボ
Juana Viale フアナ・ビアーレ ... Carla カルラ
Adrián Navarro アドリアン・ナバーロ ... 警備員

木曜日の未亡人@ぽすれん

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Monday, April 05, 2010

La ventana [アルゼンチン映画]

la ventana昨年6月にマドリードで催されたLa Chimenea de Villaverdeというイベロアメリカ映画祭でも上映された作品です。


おはなし
病床で老アントニオが語る。

「変な夢を見たよ。
私は5、6歳だったろうか。綺麗に着飾った母が部屋に入ってきて若い娘を紹介してくれるんだ。私の子守をしてくれる人だって。

父の姿は見えなかった。でも声は聞こえたよ。母のことを呼んでいた。どうもパーティーがあるらしくてね。一階から音楽が聞こえていたよ。お客さんが踊っているのもね。それで私は『ああ今夜はうちでパーティーなんだ』と思うんだ。

奇妙なのは、80年も経った今になってどうしてあの若い娘の顔を再び夢で見たのか、だ。あの顔を私はどこにしまいこんでいたのか。私の心の中のいったいどこに隠してあったんだろうね。もう今度こそしっかり覚えておきたいものだな。また失くしてしまいそうで心配なんだ」


アントニオの横たわるベッドに鎧戸の隙間から微かな光が差し込む。今日は息子のパブロがヨーロッパから帰ってくる。「アントニオさんと息子さんは口をきかないらしいわよ」「どうして?」「どうも喧嘩をしたらしいって」。

昔パブロが使っていたピアノはもう音が出ない。何年も居間の片隅でカバーをかぶっている。今日は修理の職人を頼んである。

・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆


カルロス・ソリン監督作品で“爺さん”ものと来たら、もうほぼ間違いなく私は好きになってしまうだろうと思っていましたが、そのとおりでした。

ただね、これまでの3作品とは一味ちがったように思います。『ボンボン』や『ミニマル・ストーリーズ』や『El Camino de San Diego』の鑑賞直後にはここまでの寂寥感に襲われはしなかったと思うんだ。

『La ventana』は第一印象としては寂しかった。
死生観というのかな。老いかな。生きるということの尊厳だろうか。人生が終着に向かって進行している様を観て、最初は寂しかったね。

その後、何度も何度も観ていくうちに……いや、まあ、そういうことはコメント欄で書き足そうか。


La Ventana@IMDb
(直訳: 窓)

監督・脚本: Carlos Sorin カルロス・ソリン

出演
Antonio Larreta アントニオ・ラレッタ ... Antonio 老アントニオ
María del Carmen Jiménez マリア・デル・カルメン・ヒメネス ... María del Carmen マリア・デル・カルメン: 年長の女中
Emilse Roldán エミルセ・ロビラ ... Emilse エミルセ: 若い女中

Roberto Rovira ロベルト・ロビラ ... Afinador ロベルト: ピアノ職人

Jorge Díez ホルヘ・ディエス ... Pablo パブロ: 息子
Carla Peterson カルラ・ペテルソン ... Claudia クラウディア: その恋人

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Saturday, December 05, 2009

El secreto de sus ojos / 瞳の奥の秘密 [アルゼンチン映画]

secreto de sus ojos来週開催されるスペイン映画祭2009で、12/9水曜日18:30から上映されます。カンパネラ監督作品好きの私としては、本当に楽しみにしてきた作品。


今日の時点では何も書けませんが、一つだけ、スペインの友人からアドバイス受けたことをメモしておこうと思います。


おはなし
長年勤めた刑事裁判所を退職したベンハミン・エスポシトは、ずっと心にあったことをいよいよ実行に移そうとする。自分がかつて深く関わった事件について、ノンフィクション小説を書くというのである。

―――1974年に発生した強姦殺人事件がそれである。 


という作品ですから、退職後と1974年とを行きつ戻りつする作りとなっています。これ、まぁ、余計なことかもしれませんが、「外国人の顔の見分けがつかなくてストーリーがわからない」とかいう人が私の身近にも少なからずいるので、やっぱりね、これ書いといた方がいいと思うわけ。

主役(男)のベンハミン・エスポシト(リカルド・ダリン)が黒髪だったら1974年当時のこと、白髪交じりだったら退職後の‘今’です。

彼の区別は難しいけど、相手役(女)イレーネ・ヘイスティングス(ソレダー・ビジャミル)は髪の長さが明らかに違っていてわかりやすいのでそちらで判断するとよい。


とのことです。


‘今’のベンハミン 白髪交じり
secretos secretos

‘今’のイレーネ 髪短い
secretos secretos

1974年頃のベンハミン 黒髪
secretos

1974年頃のイレーネ ロング
secretos secretos secretos


この作品が観られることになって私は本当に嬉しい。


El Secreto de Sus Ojos 公式
映画『瞳の奥の秘密』公式サイト
El secreto de sus ojos (2009)@IMDb

瞳の奥の秘密@CinemaCafe
瞳の奥の秘密@goo
瞳の奥の秘密@ウーマンエキサイト
瞳の奥の秘密@象のロケット
瞳の奥の秘密@映画生活
瞳の奥の秘密@シネマトゥデイ


監督・脚本: Juan José Campanella フアン・ホセ・カンパネラ
原作・脚本: Eduardo Sacheri エドゥアルド・サチェリ 『La pregunta de sus ojos』

出演:
Ricardo Darín リカルド・ダリン ... Benjamín Esposito ベンハミン・エスポシト
Soledad Villamil ソレダ ... Irene Menéndez Hastings イレーネ・ヘイスティングス
Guillermo Francella ギジェルモ・フランセジャ ... Pablo Sandoval パブロ・サンドバル

Mario Alarcón ... Juez Fortuna Lacalle フォルトゥナ判事
Mariano Argento ... Romano ロマーノ

Carla Quevedo カルラ・ケベード ... Liliana Coloto リリアーナ・コロト: 強姦殺人事件の被害者
Pablo Rago パブロ・ラゴ ... Ricardo Morales リカルド・モラレス: その夫
José Luis Gioia ... Inspector Báez バエス警部: リリアーナ殺害現場にいたでっぷりお腹の警部
Javier Godino ハビエル・ゴディーノ ... Isidoro Gómez イシドロ・ゴメス



Ver El Secreto de sus ojos en un mapa más grande


(あとはコメント欄に少しずつ書き足していきます)

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Saturday, September 19, 2009

Leonera / 檻の中 [アルゼンチン映画]

leonera開催中のLatin Beat Film Festival 09 / ラテンビートフィルムフェスティバル2009 / 第6回スペイン・ラテンアメリカ映画祭で上映されている作品。

明日(日曜日)の夜最後の回(21:00)にまず上映、そして21(祝日・月曜日)の13:00の回にも上映。

「容れ物」として記事をアップするだけしておきます。

のちほど(どれくらい先になるかわかりませんが)体裁を整えます。

こんな横着な形で投稿することについて躊躇もありますが、ひとまず。


※これはたしか昨年の時点でもう候補にあがっていたような気がする。

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