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Saturday, February 04, 2012

Calabuch [スペイン映画]

calabuch

アメリカの科学者ハミルトン教授は核爆弾を開発してきたが、嫌気がさして突然に姿を消してしまった。世界各国の警察がハミルトン教授の捜索を開始した。

彼はスペイン、地中海沿岸ののどかな村カラブーチに辿り着いていた。身寄りもなく学もなく身分証明書の類も持たぬ流浪の老人ホルヘとしてハミルトン教授はこの村に現われたのである。留置場に入れられもしたが、そこはのどかなカラブーチ村のこと、出たり入ったりをして“暮らす”うちに教授は、もとい、ホルヘは村の住人との交流を深める。

この好々爺が村人それぞれに心を配り、彼らの抱える問題の解決を後押ししてあげるものだから、村人もその人柄に魅了されないわけがない。やがて村対抗の花火コンテストの日が近づき、ホルヘはロケット花火造りの指揮を執る。

・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆


昨年から、そうだな、BG“V”としての再生も含めれば10回は観ていると思う。最初の一回、再生しっぱなしという形の“鑑賞”をした時は、「ふつーに」ニコニコしてちょっとドタバタする作品ぐらいにしか見えず、だけどベルランガ作品がそんなわけはないと思うので書くことに悩み、それで11ヶ月ものあいだ書けずに来たのです。山の登り方がわからなかったんだよね。昨年の『Novio a la vista [スペイン映画]: Cabina』の時もそうだった。

今年に入ってまたくり返しくり返し再生している間に、なんとなくわかったような気がしてこないこともない。(←なんだ、この日本語上級生は) 

そしてそうなると、「ニコニコ」「ドタバタ」な作品とばかり見なしてもいられず、「ふつーに」グッと来る作品でありました。終盤なんてちょっと鼻の奥がつーんとなるよ。

ただ、ベルランガ作品というものはブログで知った風な口をきいて済ませられるものではないので、ちょっとずつ調べてわかったようなわからないようなメモをしていくことにします。それしか手がないだろう。


Calabuch (1956) - IMDb

監督:Luis García Berlanga ルイス・ガルシア・ベルランガ
脚本: Leonardo Martín レオナルド・マルティン  Florentino Soria フロレンティーノ・ソリア  Ennio Flaiano エンニオ・フライアーノ  Luis García Berlanga

出演:
Edmund Gwenn エドマンド・グウェン... Prof. Jorge Serra Hamilton ホルヘ・セラ・ハミルトン博士

Franco Fabrizi フランコ・ファブリーツィ... Langosta ランゴスタ: 留置所; 映写係
Valentina Cortese ヴァレンティーナ・コルテーゼ... Schoolmistress 小学校の女先生

Juan Calvo フアン・カルボ... Matías マティアス: 署長; テレサの父; 映画が好き、特にフアニータ・レイナ(後述)が好き; マティアス署長がフアニータ・レイナの映画に夢中になっている時間帯を利用してランゴスタたちは密輸をやっている

María Vico ... Teresa テレサ: マティアス署長の娘; フアンを愛しているが父が猛反対; フアンとはベネズエラに渡ろうと計画を進めているところ
Mario Berriatúa マリオ・ベリアトゥア... Juan フアン: 密輸で小金を作って小舟を買いたいと思っている; テレサと結婚したいが、フェリックス神父に頼んでみてもテレサの父親であるマティアス署長の許可が無い限り認められないと追い返されてしまう

Manuel Alexandre マヌエル・アレクサンドレ... Vicente ビセンテ: 絵描き?と言いたいところだけど小舟に名前を入れたりして過ごしている
José Isbert ホセ・イスベルト... Don Ramón ドン・ラモン: 灯台守; フェリックス神父と電話でチェスの戦いに興ずる; ホルヘのアドバイスであっさりと勝ててしまいフェリックス神父を怒らせる

Félix Fernández フェリックス・フェルナンデス... Don Félix フェリックス: チェスをしてる神父
Nicolás D. Perchicot ニコラス・D・ペルチコット... Andrés アンドレス: 花火師

Francisco Bernal ... Crescencio クレセンシオ: 郵便配達; 密輸仲間
Isa Ferreiro ... Carmen カルメン: 居酒屋の女; 電話交換手
Manuel Guitián ... Don Leonardo レオナルド: 鼓笛隊の指揮をしていた
Pedro Beltrán ... Fermín フェルミン: 留置所の番人; ナポレオンを読んでた; マティアス署長の机の上に足を乗っけていて怒られる

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Comments

語句メモ:

・paso ligero: 1. m. Mil. El de la marcha con velocidad de 180 por minuto y longitud de 83 cm

・alto: 1. m. Detención o parada en la marcha o cualquier otra actividad. Un alto en el camino o en el trab


・密輸の真っ最中のフアンたちを見かけたのでマティアス署長は発砲する。フアンたちが岩陰に身を隠すと署長が「Conque os escondeis, ¡eh! で、隠れるってわけだな!」

→・conque: 【接続】《文頭で》では,さて,結局は.
例) Conque no te gusta, ¿eh? そうか,さては気に入らないんだね.


・マティアス署長は娘のテレサがフアンと付き合っているのが気に入らないので、「Como te vuelva a ver con él, te rompo el cuello. また奴といっしょのところを見つけたらお前をぶちのめしてやるからな」

→・como 《+ 接続法》 は頻出
《条件》もし…なら.(⇒事態の悪化の予告・警告を示すことが多い)


・vivir del aire: 1. fr. Vivir sin recursos conocidos y seguros.

・carabinero1.1. m. Soldado destinado a la persecución del contrabando.
→・2. m. Soldado que usaba carabina.


・マティアス署長はフアニタ・レイナが好き。
Juanita Reina - Wikipedia, la enciclopedia libre
Juanita Reina - Silencio por un torero - YouTube とかなのかな? 私はスペインの音楽に興味がないのだが、こういうのは好きだよ。


・「映画のフィルムはもうempalmadoになっている」
→・empalmar: 1 tr. Unir una con otra por sus extremos dos cosas alargadas, como cuerdas, alambres o tubos. Cosidura. Empatar, empelechar, encabezar, enchufar. Cepo, cinta aislante , golilla, pasador, racor. Atar. Ensamblar. Nudo. Unir.


・monofásico, ca.: 【電】単相(交流)の
・trifásico, ca.: (電流が)三相の


・映画上映の作業をホルヘに任せてランゴスタはフアンらとともに夜の闇に紛れて密輸に出かけていく。ホルヘは科学者であるから、「この機械は単相ですか三相ですか?」と尋ねるんだが、ランゴスタは「わけわかんないこと言ってないでさー、とにかくその輪っか(ruedecita)に集中してればいいんだよ-!」と叫ぶ。

・「¡Déjate de pamplinas! 馬鹿げたことはやめてくれ」
→・pamplina: 3. f. coloq. Dicho o cosa de poca entidad, fundamento o utilidad. U. m. en pl.
例) ¡Con buenas pamplinas te vienes!


・titiritero, ra: 人形つかい; 軽業師
1. m. y f. Persona que maneja los títeres.
2. m. y f. volatinero.

・pitillo: 1. m. cigarrillo

・pillería:
→・pillo2, lla: 1. adj. coloq. Se dice de la persona pícara que no tiene crianza ni buenos modales. U. m. c. s.2. adj. coloq. Sagaz, astuto. U. m. c. s.

・merluzo.1. m. coloq. Hombre bobo, tonto

・Me vas a oír. 覚えてろよ
・me [te, etc.] va [van, vas, etc.] a oír.1. exprs. coloqs. U. como advertencia para expresar enojo o irritación.
例) Si vuelvo a verte allí, me vas a oír.

・ni gorda: 1. loc. adv. coloq. nada.

・monigote: 下手な[傑作な]絵[彫刻].

・majadería: 1. f. Dicho o hecho necio, imprudente o molesto.

・figurar: 4. intr. Destacar, brillar en alguna actividad.

Posted by: Reine | Saturday, February 04, 2012 at 11:32

作品冒頭で語られるのが、「ハミルトン教授はカラブーチに辿り着き、空と海という、彼ですら発明しえなかった二つのものに出逢ったのです」というもの。

ハミルトン教授、またの名をホルヘというこのお爺さんは核爆弾の製造に尽力していたが、疲れ切って逃げ出してカラブーチにやって来た。その村では村人はみな楽しげに笑い友情を大事にし、その暮らしは非常に人間的で穏やかで、ホルヘには理想郷のようにも見えた。

かつては城塞であったこの村には砲台がところどころに見られるが、今ではすっかり錆び付いていて、漁に出るまで小舟を繋いでおくのに使ったり、洗濯物をちょっとかけておいたり、子ども達はおしっこをひっかけたりと、今ではそんな風に使われているばかりである。

ホルヘが理想郷と思ったとおり、この村では時間がゆったり流れている。

“画家”は船に名前を書き入れる仕事を請け負い、一文字を書くのに何日もかけているが悪びれもせず、また彼を責めたり急かしたりする人がいるでもない。

密輸品のやりとりは警察署長も知るところで、主犯格の危険な男ランゴスタはもちろん留置所に放り込まれているが、なんだかんだ理由をつけて署長のマティアスと交渉しては外界に出してもらっている。

ランゴスタが牢の外に出る時の理由は、今日は村の合奏の練習日だからとか、教会で神父さんが電球を換えてくれと言っているからとか、今夜の村の映画上映のフィルムが駅に到着するから受け取ってくるとか、そんなものである。

神父さんと言えば、この神父もなかなか食えない人物で賭事が大好きと来ている。また教会のオルガンの中には酒やタバコが瓶ごと・カートンごと隠してあったりもする。

またこの神父は灯台守の老人とチェスで張り合っているが、負けず嫌いはそれに留まらず、嵐の時に灯台よりも自分の教会のイルミネーションの方が海上からよりよく見えたと言うのをついつい自慢してしまうのである。


………と、まあ、カラブーチとはそういう空間です。

(でもこうした描写は実にのどかな振りをしているけど、けっこう毒が込められているよね?)

Posted by: Reine | Wednesday, February 08, 2012 at 22:50

こんなのんびりした雰囲気をまといつつも、“報道”というものへの辛口なセリフがところどころに出てくるのが面白い。

映画上映のとき、ランゴスタはホルヘと映写室で雑談している。「科学のドキュメンタリー映画は面白い。いろいろ学べるよ」と言ったあとに「NODOはつまらない」とけなす。

eye NODOとは何か?
こちらで説明しました ⇒ No-Do / ゴースト・オブ・チャイルド [スペイン映画]: Cabina


ランゴスタはNODOはずっと遅れて届く新聞みたいなものだと言う。「世界のことがわかっていいんじゃないですか」と言うホルヘに、「そんなたいしたもんじゃあないよ。行列がどうしたこうした、住宅の安売りだ、自転車レースがありますとか、そんなのばっかりさ」。


終盤のシーンでは村人たちが新聞の批判をしている。「新聞なんてどうせ碌なこと書いてないんだからよ」「新聞が言ってるデタラメなんかのせいでホルヘがびっくりしないように」と。

見たくない・見せたくない記事が新聞に出ているのだが、それなら新聞を全部買ってきて隠してしまえばそれで済むじゃないかと村人たちが画策するシーンもある。


こういうの、あの当時(1956年作品)はけっこう際どいセリフだったんじゃないかと思うんだよね。

Posted by: Reine | Wednesday, February 08, 2012 at 23:12

“ちょい悪”のランゴスタは危険人物というわけではないがどういうわけか求心力があるのが厄介だとはマティアス署長の評だが、そのランゴスタと相思相愛なのが学校の女先生である。

この二人は互いに相手のことが気になって気になってしょうがないのに、まともに目を合わせることすらできないようなもどかしい状態をずっと続けてきている。


この美しすぎる女先生を演じたのが、公開当時32、33歳のイタリア人女優Valentina Cortese。

そうすると、あれだ。
同じく1956年の作品であった『Calle Mayor / 大通り [スペイン映画]: Cabina』ね。あの主人公のイサベルは35歳で独身であんな非道い目に遭わされたんだよね。(そしてたまたまだけど、あのイサベルを演じていたBetsy Blairは、今作のValentina Corteseと同い年だ)

つまり今作の女先生もまた『Calle Mayor』のイサベルのようにいきおくれの身の寂しさに苛まれているのだろうよね。

女先生は老ホルヘに花言葉の楽しさを一つ一つ教えてくれる。ホルヘが指した花を見て彼女の表情は掻き曇る。「その花言葉は……“孤独”です」って。

Posted by: Reine | Wednesday, February 08, 2012 at 23:40


(後日また)

Posted by: Reine | Wednesday, February 08, 2012 at 23:48

自分が望んでいるものを「アメリカのおじさん」が気前よくくれるっていう夢が『Bienvenido Mister Marshall [スペイン映画]: Cabina』では遂に叶わなかったのだけど、『Calabuch』でそれがやっと満たされたみたいな落ち(?)になっているよね。

……ってなことをもうちょっと膨らませて書こうとか、他にも幾つか見繕った資料があるので、そこからあれこれ抜き書きしていこうと思っていたのですがなかなか時間が取れずにいたところ、アリ・ババ39さんからコメントが届いたので、まずそちらを載せちゃいます。

以下、アリ・ババ39さんのコメントです。
いつもありがとう!

Posted by: Reine | Wednesday, February 15, 2012 at 20:35

diamond カラブッチは江ノ島だ!

A: ベルランガの“Novio a la vista”(1954「一見、恋人」)にコメントしてほぼ1年が過ぎました。そのときは、ベルランガが亡くなったばかりで哀悼の意を込めてお喋りしたのでした。私にとってベルランガはいくら喋っても喋り足りない監督です。

B: スペイン映画を代表する作品を作りながら、映画祭上映は別として何故か日本公開がなかった稀有な存在でした。

A: 「カラブッチ」は、「ようこそマーシャルさん」が紹介された「スペイン映画の史的展望―1951~1977―」で上映されました。米ソ対立など何処の惑星の話なの、と言わんばかりのカラブッチ村を舞台に繰り広げられる伝統的な手法のセンチメンタルなコメディ。

B: スペイン・イタリア合作映画に、ハリウッドからエドマンド・グウェン※oneを呼んで主人公ジョージ(カラブッチでは“ホルヘ”)・ハミルトン教授に起用、ヴァレンティーナ・コルテーゼ(女の先生)とフランコ・ファブリーツィ(ランゴスタ)のイタリア勢のほかは、ベルランガ映画にお馴染みのスペイン勢がかためています。


A: キャスト陣の紹介は後述するとして、「カラブッチ」のロケ地となったペニスコラは、バルセロナとバレンシアの中間にあり、地中海に突きだしたような風光明媚な町。バレンシアに向かって南下していく途中のベニカルロにパラドールがあり、そこから見えるペニスコラは江ノ島に似ています。

B: 江ノ島に要塞はありませんけど、全景が村祭りのドサ廻り闘牛シーンに登場します。

A: 現在は観光に力を入れて毎年5月にはペニスコラ・コメディ映画祭が開催されている。14世紀にテンプル騎士団によって建てられたペニスコラ城も観光の目玉です。ベルランガは殊のほかペニスコラがお気に入りで、約40年後に舞い戻り遺作となる“Paris Tombuctu”(1999)を撮ったのでした。

B: “Paris Tombuctu”には“Tamano natural”(1974「実物大」)で主人公を演じたミシェル・ピコリが出演していましたね。ベルランガの分身ともいえる親友でしたが、二人で20世紀を締め括ったわけです。

A: 「カラブッチ」50周年(?)の2006年には、ベルランガを敬愛する市民たちからメダルが贈られ再び訪れています。(eye Berlanga vuelve a pisar Peñíscola para celebrar el medio siglo de ´Calabuch´ - Espectáculos - El Periódico Mediterraneo) まあペニスコラ名誉市民賞といったところでしょう。現地エキストラの活躍も本作の見どころでした。


one 高名な物理学者ハミルトン教授役のエドマンド・グウェン(エドモンドとも表記)は、1877年ロンドン生れの舞台出身のイギリス人俳優、1939年ハリウッド入りした。

ハリウッド映画『三十四町目の奇跡』(1947)のサンタクロース役でアカデミー賞とゴールデン・グローブ賞の助演男優賞をダブルで受賞、グウェンといえばサンタクロース姿がお馴染み。ヒッチコックのスリラー喜劇『ハリーの災難』(1955)では元船長役、シャーリー・マクレーンともどもハリーの遺体を掘り起したり埋めたりをコミカルに演じた。

1959年脳梗塞のためロスで死去、結局、「カラブッチ」が映画としては最後の出演となった。IQは抜群でもシャイで世事には疎い物理学者を飄飄と楽しげに演じていました。

Posted by: アリ・ババ39 | Thursday, February 16, 2012 at 14:47

diamond 流れ着くよそ者のテーマ

B: ふらりと迷い込んだよそ者が期せずして平穏な村に騒動を巻き起こすというのは、映画に限らず文学でもありますね。

A: 思えば「ようこそマーシャルさん」も同じようなもの、マーシャル使節団は車であっという間に通りすぎてしまうのですが、訪問して村人それぞれに贈り物をするという噂が「よそ者」です。

B: 実際のところ使節団はスペインには来なかったというのを逆手に取ったコメディ。「一見、恋人」では、登場人物たちが日常を離れて避暑地に移動してのてんやわんやでした。


A: 本作は長編4作目。2年前に撮られた「一見、恋人」より面白い。学識豊かな物理学教授ハミルトンは、核開発が人類を幸せにすると信じて、アメリカのバクダン作りに協力した。しかしこれが大きな間違いだったと気づいて怖くなり、ヨーロッパ行きの豪華客船から突然失踪する。

B: 辿りついたところが地中海沿岸はレパント地方の小さな村カラブッチというわけ。

A: 出会ったのが密輸品を仲間のランゴスタに手渡したいフアンとクレセンシオ、包を教授に頼んですたこらさっさ。頼みを律儀に果たすべくのこのこ訪れたところが警察署(駐在所?)、「ランゴスタはおりますか」と尋ねるが密輸品所持でお縄に、目指すランゴスタは既に檻の中にいたのでした。

B: 筋を話しただけでは他愛なくて面白さは分かりません。しかしこれだけでもベルランガ流のペシミズムが横溢しています。

A: 社会が個人のいるべき場所を破壊していられなくしている。ハミルトンは自分を取りまく社会集団の利己主義に耐えられなくなって失踪する。ベルランガは日増しに遠ざかっていく個人の自由を、それは幻想かもしれないが、代償を払ってでも(本作はかなりきわどい)希求していたのだと思います。


B: フアンやテレサのように桃源郷カラブッチから逃げ出したい恋人たちもいる。

A: ユートピアとはいえ父親マティアスの権威が強くて結婚もままならない。二人も居場所が見つからず、遠い外国ベネズエラに憧れて脱出しようと計画するも父親にばれてしまう。留置所を出たり入ったりして落着く場所のないランゴスタも、カラブッチから出ていきたいとホルヘにほのめかす。

B: 気儘に暮らしているように見えるのは表面だけ、ホントの幸せがあるわけじゃない。ここが誰にとってのユートピアかです。

A: 結局ハミルトン教授は絶大な国家権力に屈して帰国する。これが人生、個人にできることなんて限られている。無駄な抵抗はやめろというメッセージが聞こえてくる。ベルランガのこういう頑なまでのペシミズムは何処からきてるのでしょうか。

Posted by: アリ・ババ39 | Thursday, February 16, 2012 at 14:49

diamond 「青い旅団」に志願する

B: スペイン内戦時代について「自分にとっては《長い休暇》みたいなものだった」と語ったことがよく紹介されますが、これはどういう意味ですか。(eye Berlanga y las "largas vacaciones" de la guerra | Edición impresa | EL PAÍS

A: 敢えて言うなら、確かに多くの迫害や死があるカオスの真っただ中にいたのだが、真の友人とは何かが分かったり、画を書いたり、読書に埋没して多くを学ぶ時間があった、ということらしい。1921年12月生れですから内戦が始まった1936年6月にはまだ14歳でした。

B: バレンシアの裕福な地主の家に生まれたとか。

A: その通りですが、父親は第二共和政時代には共和派支持の国会議員という政治家だった。フランコ側が勝利してからは、モロッコのタンジールに逃亡、しかし現地で逮捕、死刑の判決を受けた。

B: 父親の減刑嘆願のためにいわゆる「青い旅団※two」に志願するよう家族から頼まれたわけですね。

A: 公式にはそれも一つなんですが、晩年の告白によると、親友の恋人だった女性に恋をしていて、彼女も同じ考えだった。志願して勇気のあるところを示せば振り向いてくれるんじゃないかと。どこまでほんとか分かりません(笑)。

B: どんな苦境にあっても恋は芽生える。

A: 医療班に動員されたというのもありますが、彼によると任務は見張塔での監視だったらしく、幸いにも人一人殺すことなく除隊できたということです。ホントのテキは想像を絶する寒さ、恐ろしかったそうです。

B: ヴィットリオ・デ・シーカの『ひまわり』でも猛吹雪の中の死の行軍が出てきますが、イタリアやスペインのような南欧の人にはロシアの寒さは想像できない。

A: 戦争体験を他人に語るのは難しい、心の痛みというのは孤独なものですから。カビナさんが「花言葉」のシーンで触れてるように、孤独は彼のテーマの一つです。結局、父親の減刑にはなんの役にも立たず、父親所有の電機工場や別荘など持てるもの全てをヤミで売り払って減刑運動を続けたようです。1952年まで収監されて釈放半年後に他界しています。

B: 1952年といえば「ようこそマーシャルさん」が完成した年、しかし翌年のカンヌ映画祭での国際的な成功は知らずに逝ったわけですね。

A: ベルランガの国家権力に反逆しても勝ち目はないというペシミズムは、この後ラファエル・アスコナとの出会いから“Placido”(1961「心優しき者」)“El verdugo”(1963「死刑執行人」)とスペイン映画史に残る名作を生み出していきます。


two 青い旅団:
1940年に行われたフランコ=ヒットラー密談で、第2次世界大戦でのスペインの中立政策、枢軸国との友好関係が取り決められた。しかしフランコは1941年にロシア戦線へ18000人の兵士を派遣、一翼を担ったファランヘ党の兵士が青色の制服を着用していたことが呼称の由来。約2年間にトータルで47000が地獄の戦線に派遣された。ベルランガは1941年に派遣されている。

横道だが、最近ヘラルド・エレーロが青い旅団をテーマにミステリー仕立ての“Silencio en la nieve”(2012)を撮った。監督というより製作者としての活躍が多く、スペインはおろかラテンアメリカ諸国の若い監督たちに資金提供をしている。イグナシオ・デル・バジェの小説“El tiempo de los emperadores extranos”の映画化。フアン・ディエゴ・ボトー、カルメロ・ゴメスなど日本でも馴染みの布陣のフィクション。

ベルランガ映画の理解に彼の「青い旅団」体験は欠かせないと考えているので、今年注目している作品の一つ。

Posted by: アリ・ババ39 | Thursday, February 16, 2012 at 14:50

diamond ベルランガ流ユーモアを体現した役者たち

B: 脚本担当はベルランガを含めて合計4人と多い。

A: 原案はレオナルド・マルティンですが、イタリア勢のエンニオ・フライアーノの参画が大きい。ジャーナリストで小説家でもあったフライアーノは、フェデリコ・フェリーニ映画の脚本家として信望厚く、既に『青春群像』(1953)や『』(1954)などで実績があった。検閲官も外国人の視点を意味なく無視することができない時代に入っていました。

B: 合作は資金調達のためばかりじゃないということか。

A: 心優しい密売人(!)ランゴスタ役のフランコ・ファブリーツィは1926年ミラノ生れ、先述のフェリーニの『青春群像』や『崖』(1955)に出演、女先生役のヴァレンティナ・コルテーゼは1925年同じくミラノ生れ、ミケランジェロ・アントニオーニの『女ともだち』(1956)に出演(ヴェネチア映画祭銀獅子賞受賞作品)、ハリウッド映画『裸足の伯爵夫人』(1954)にも脇役で出ています。

B: 二人はお互い《ほの字》なのに面と向かって言いだせない。ベルランガも例の片思いの女性に告白できなかった(笑)。

A: この二人とエドマンド・グウェンは吹替えですね。イタリア勢はそんなに違和感ありませんが、英語とスペイン語だと大分ずれます。最も欧米ではスペインに限らず吹替えが主流、日本のような字幕入りは少数派でした。「吹替え版の映画でがっかりした」などと登場人物に言わせるフランス映画もあり、おおむねシネアストには不評でしたが。


B: マティアス署長役のフアン・カルボは、ラディスラオ・バフダの『汚れなき悪戯』(1954)が日本でも公開されたから見覚えがある。少々気難しいが根は善人です。

A: 1892年バレンシア生れ、すでにパピージャ神父で有名になっていた。ベルリン映画祭銀熊賞(監督部門)、カンヌ映画祭ではマルセリーノ役のバブリートが特別賞を受賞したので公開された。ベルランガ作品では“Los jueves, milagro”(1957「木曜日に奇跡が」)にも出演、1962年没。

B: 半世紀前の映画だから年々物故者が増えていきます。灯台守ドン・ラモン役のホセ・イスベルトも当然鬼籍入り。

A: 1886年と19世紀生れですから。「マーシャルさん」での村長ドン・パブロ役、カルボと同じく「木曜日に奇跡が」、続いて「死刑執行人」の主人公アマデオ役、1966年没だから二人ともポスト・フランコ時代をみることはなかった。脇役が多かったから100以上の映画に出演しています。

B: フェルナンド・パラシオスの『ばくだん家族』(1962“La gran familia”)も公開されたから、お祖父ちゃんの活躍を記憶しているファンも多いでしょう。

A: ベルランガの回想によると、撮影が始まって少しすると、「どうもペペ・イスベルトはちゃんと脚本を読んできていない」と気づいた。それどころか勝手に赤字で訂正した自分用のを撮影に携えていたという。それで自然に映画の中にとけ込んでしまったそうで、モンスター的天才です。

B: じゃあ、脚本家は4人じゃない(笑)。脚本を変更してしまう監督は珍しくないようだが、セリフを変えてしまう役者は珍しい。


A: 灯台守ドン・ラモンと電話でチェスをするフェリックス神父役が「マーシャルさん」でお医者さんになったフェリックス・フェルナンデス。

B: まだ若くてハンサムなのに驚いたマヌエル・アレクサンドレが絵描きのビセンテに扮している。

A: ベルランガは若い頃は画家を志していたから、たぶんビセンテは彼の分身かな。


B: 闘牛士役のホセ・ルイス・オソレス※threeは、ベルランガがアントニオ・バルデムと共同監督した第1作“Esa pareja feliz”(1951「あの幸せなカップル」)に出てますね。


three ホセ・ルイス・オソレス
1923年マドリッド生れ、44歳の若さで1968年に亡くなっています。ペドロ・ルイス・ラミレスのコメディ“El tigre de Chamberi”(1957「チャンベリの虎」)のボクサー役が代表作。トニイ・レブランクとのコンビが絶妙で笑い皺ができる。スペインでは有名な芸術一家、娘のアドリアナ・オソレスはアントニオ・メルセロの“La hora de los valientes”(1998)でゴヤ助演女優賞を受賞、他に「めがねのマノリート」(1999)や“Héctor”(2004)“El metodo”(2005)などに出演している。

Posted by: アリ・ババ39 | Thursday, February 16, 2012 at 14:53

diamond スタッフ陣も国際色豊か

B: 闘牛シーンは、ペニスコラの長回しの遠景で始まる。闘牛といっても《略式闘牛》ですね。

A: 村祭りの催しなどに招かれるドサ廻りの闘牛。銛打ち士も槍方も省略、マタドール(?)と牛は一緒に巡業する親密な家族だからそもそも闘牛にならない。牛も大人のトロではなくノビーリョといわれる子供の牛のようです。

B: 闘牛はスペインでは「国民の祝祭」だから登場させたい。「マーシャルさん」ではフラメンコをやったしね。闘牛の際に演奏されるパソドブレの軽快なリズムで一行は登場する。

A: この音楽を担当したのがイタリアのアンジェロ・フランチェスコ・ラヴァニーノとグイド・ゲリーニ。ラヴァニーノは映画音楽では超有名。ソルダーティのヒット作『河の女』(1955)の音楽も彼が担当した。原作はネオレアリズモの代表的存在であるアルベルト・モラヴィアと先述したエンニオ・フライアーノが共作し、戦後イタリアが生んだ大女優ソフィア・ローレンの出演でも話題になった。

B: グイド・ゲリーニはイタリア音楽界のマエストロとして、パルマ音楽院を皮切りに、フィレンツェ、ボローニャ、そして撮影時にはローマ音楽院で教鞭をとっていた。

A: 二人はカラブッチの村祭りを楽しくするためにスペシャル・ミュージックを作ろうとした、なぜならカラブッチの人々がユーモアのセンスを忘れずに暮らしていたからだと。


B: 撮影監督はスペインのフランシスコ・センペレ。ロングショットからクローズアップへ、またその逆の切り替え、ローアングルと面白い。

A: 個人的には大写しは嫌いだが、ここでは役者の表情がいいので気にならない。この後「木曜日に奇跡が」や「心優しき者」、イタリアのマルコ・フェリーニやホセ・マリア・フォルケ(フォルケ賞は彼の名前から)とタッグを組んでいる。


B: 闘牛シーンに戻ると、肝心のトロは狭苦しい車から解放され、のんびり渚をぶらぶらしてるだけ。いくらマタドールが「ちゃんとやってよ」と頼んでもバケツの水など飲んで知らんぷり。

A: しびれを切らした見物人が飛び入りして、やっとこさ牛との追いかけっこが始まる。手持無沙汰のマタドールはお弁当のコンビーフの缶詰なんか開けて食べ始める。ここはシュールだね。

B: 闘牛祭りも終了、夕闇せまる浜辺にマタドールと子牛がポツンと残される。

A: 父親が我が子を慈しむように「わたしの坊や」と、頑張った子牛の頭を優しく撫でてやる。

Posted by: アリ・ババ39 | Thursday, February 16, 2012 at 14:54

diamond 人間はとても危険な生きもの

B: バラ色のネオレアリズモの影響下に作られた半世紀も前の映画を語る必要がありますかね。

A: そうね。でも世の中そんなに変わっていないのじゃない。チェスの世界チャンピオンがコンピューターに負けたとか、チェスより複雑な将棋でも《ボンクラーズ》が米長永世棋聖を下したとか。しかし相変わらず世界は不安定で、貧しい人の数は逆に増えている。

B: 冷戦時代は終わったというけど、世界の対立構図は形を変えて常に私たちを脅かしている。


A: ランゴスタが密売のシゴトをするので突然映写技師にさせられたホルヘ、NO-DOのニュースに自分が映って大慌て、操作を誤って大切な国策フィルムを燃やしてしまう。

B: よく検閲がパスしましたね。映写室には誰もいないのに身元がバレてはいけないと大急ぎでサングラスをかける可笑しさ。こういうアイロニーは今でも古くない。

A: 灯台からドン・ラモンが望遠鏡で覗くと、はるか彼方に数隻の艦船が目に飛び込んでくる。

B: 東地中海を守っている艦隊はアメリカの第6艦隊、ソ連の脅威に対抗して創設された。

A: アメリカの秘密を知りすぎた男ハミルトン引渡しに第6艦隊を派遣してきた。ここで観客は冷酷な現実に引き戻される。ユートピアといえども冷戦構図からは逃げられないのだと。

B: マティアス以下村の知恵者が作戦を練る。村人こぞって古びた槍刀を手に手に兜を被って小舟でいざ出陣。しかし端から勝負にならない。

A: 軍事大国とか国家権力には逆らえないというペシミズム。常にベルランガは政治、宗教、教育などを直球勝負を避けながらソフトに批判している。かつてはバラ色に見えた「※※イズム」も、地球上でもっとも危険な生きものが人間であることを忘れて崩壊した。行き場というか《生き場》を奪われた人々の生き辛さは、今も昔も変わらない。

B: ベルランガ映画のいいところは、決して絶望の押売りをしないということです。

Posted by: アリ・ババ39 | Thursday, February 16, 2012 at 14:55

アリ・ババ39さん、ありがとうございました。
アリ・ババ39さんのコメントで思い出したんだけど、そうそう、この部分ね

・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆

hairsalon フアンやテレサのように桃源郷カラブッチから逃げ出したい恋人たちもいる。

hairsalon 留置所を出たり入ったりして落着く場所のないランゴスタも、カラブッチから出ていきたいとホルヘにほのめかす。

hairsalon 気儘に暮らしているように見えるのは表面だけ、ホントの幸せがあるわけじゃない。ここが誰にとってのユートピアかです。

・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆


そう、ランゴスタは老ホルヘに「俺はこんなちっぽけな村は出て行きたいよ」とこぼすのでしたね。ホルヘの返事は、「カラブーチのようなところは他に無いんですよ。私にはわかるんです。私はいっぱい旅をしてきたんですから」。


女先生もまたそんな憂鬱をホルヘに見せる一人でした。

ホルヘが「どうして私がカラブーチが好きだかわかりますか? みんなが自分の好きなことをやっているからですよ。誰を傷つけもせずにね。もしもこれが幸せでないなら、限りなく幸せに近いナニカと言うほかないですね。ああ、愛しいカラブーチ…」と熱く語るのだけど、女先生は「……『愛しいカラブーチ』ですか…。カラブーチねぇ……」と物憂げに呟くのでした:


先生: 冬に雨が降るのも体験なさったらいいわ。夕方五時には一日が終わってしまうのですよ。光と言ったら灯台の灯ぐらいしかなくて。逃げ出したくなりますわ。

ホルヘ: おやおや、そんな風に考えちゃいけません。そうそう、今日貴女のことを思い出したんです。プレゼントがあるんですよ。

(※注: ここでプレゼントのボトルシップを取り出します)

ホルヘ: お気に召しますかどうか。舟です。貴女のことを思い出しましてね。なんというか、“とりこ”のような。

(※先生は礼を言って受け取ろうとしたがうっかり落として瓶を割ってしまう。謝りまくる先生に対し、ホルヘが…)

ホルヘ: いいんですいいんです。この方がいいじゃないですか。これで自由ですよ。

Posted by: Reine | Friday, February 17, 2012 at 09:18

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