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Monday, August 08, 2011

『苺とチョコレート』(Fresa y Chocolate)について ~3~

(第1章: 『苺とチョコレート』(Fresa y Chocolate)について ~1~: Cabina
(第2章: 『苺とチョコレート』(Fresa y Chocolate)について ~2~: Cabina


diamond ディエゴの部屋は知識のミニ宝庫

A:  ディエゴの部屋に一歩足を踏み入れると、ダビドでなくとも口をポカンです。キューバの守護女神カチータCachitaは前述しました。字幕にあるような聖母マリア像ではない。

B:  中央上部の人物が先ほどのホセ・マルティですね。

A:  その真下で葉巻をくわえているのがホセ・レサマ=リマ、『パラディソ・楽園』の著者、レサマ式ランチが狂言回しになっている。

B:  ダビドが君の「お父さん?」と訊いた人。入る早々目に飛び込んでくる官能的な抽象画は誰のですか。

A:  セルバンド・カブレラ=モレノ(1923~81)というキューバの画家の絵です。ピカソの「青の時代」の雰囲気があった。ニューヨークで美術を学び、スペインやフランスで活躍、ミロやクレー、キュービズム、印象主義、表現主義の影響を受けている。キューバで知ってる画家といえば彼しかいない(笑)。

B:  彼が選ばれたわけは何ですか。

A:  1954年にアレアとフリオ・ガルシア=エスピノサが共同監督して「エル・メガノ」という20分のドキュメンタリーを撮った。それに彼の描いた木炭画のシリーズが使用されたようで、それかな。(⇒ El mégano (1955) - IMDb

B:  アレアの画家へのオマージュが込められている。

A:  それに革命前も後も繊細なエロティシズムあふれる絵を描いた。勿論、革命後は農民、民兵、ゲリラ兵、一般女性も描いて生き延びましたが、革命後も絡み合う男の裸像、剥きだしのペニスを描いた。でも猥褻な感じを受けません。現在多くの作品が世界各地の美術館に所蔵されています。

B:  あの部屋には細かな仕掛けがあるんですね。

A:  2008年生誕85年を祝ってハバナで開催された展覧会には、官能的な方は展示されませんでした。他にソプラノのリタ・モンタネル、フェルナンド・オルティス、フリアン・デル・カサルなど。

B:  オルティスは前述しました。フリアン・デル・カサルはロマン主義のデカダンな詩人と言われています。

A:  19世紀のペシミスティックな感受性豊かな詩人、1863年生れ、30歳という短命でした。モデルニスモの詩「風にそよぐ葉」「降る雪に」「胸像と抒情詩」など。ディエゴと同じホモセクシュアルでした。

B:  アールヌーヴォーのランプ、中国製らしき陶磁器の薬瓶も並んでいた。

A:  オスカー・ワイルドの『サロメ』やフロベールの『マダム・ボヴァリー』の挿絵を描いたビアズリーも。ビアズリーも26歳の若さで一生を駆け抜けた。

B:  ワイルドも同性愛者でしたね。大拙の禅の影響か、ディエゴの法被は泣かせる。

A:  欧米では禅は宗教ではなく哲学です。ドアの内側に眼の形の張り紙があった。“Te estan mirando”、いつも誰かがお前を見張っているという意味。

B:  ナンシーの部屋にはビートルズの写真が貼ってあったが、こちらはマリリン・モンローでした。

A:  敵の杯ウィスキーもあるしね。ただしラジオカセットはソ連製だそうで、部品を輸入しキューバで組み立てた。これを持っているのはオカマ、というのも主にオペラを聴いたりバレエを見たりするのはオカマだから。

B:  ストレートも見たり聴いたりする(笑)。


A:  原作にあっても映画にセリフとして出てこない人でも、ディエゴの部屋などにさりげなく登場しているのが分かります。映画はかなり楽観的な終わり方をしてますが、ICAICの最終検閲を考えると頑張ったと言えるかも。

B:  両方の根底にパスの楽観主義があるからだと思う。小説の読者と映画の観客では質も量も格段に違いますが、互いの多様性を認め合うことの必要性というテーマは同じです。

A:  キューバでは、政治や社会を論じるときの教科書になっている、とパスも語っています。

B:  革命の行きすぎは映画の中でも語られますが、助監督のフアン・カルロス・タビオもUMAPに行かされたそうです。


A:  舞台となった1979年、製作された1993年、キューバも変化している。パスもビデオテープではあるがハリウッド映画を見ることができるようになり、スピルバーグをテープで見ていると。

B:  欲を言えば、二人の心の葛藤がもっと描かれていたなら、普遍的な心理ドラマになったかもしれない。ちょっと物足りない。

A:  欧米に続いてアメリカでも同性婚を認める州が増えている。「夫と妻」欄も「配偶者1と2」になる。現在は表向き米軍も同性愛者の軍務を禁じているが、秋には全面的に撤廃する。いまや結婚の形も流動的、人間の価値を決めるのが時代精神なら、現在の一夫一婦制も変わらざるを得ません。

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付録としてパスのフィルモグラフィーほかを作成しました。

付録1 
・CDR Comitede Defensade la Ruvolucion:革命防衛委員会 シンボルマーク眼の形
・UMAP Unidades Militares de Ayuda de Producccion:生産支援部隊
・UJC Union de Jovenes Comunista:共産主義青年同盟
・ICAIC Instituto Cubano de Arte e Industria Cinematograficos:キューバ映画芸術産業庁
・UNEAC Union de Escritores y Artistas de Cuba:キューバ作家芸術家同盟


付録2 使用された音楽
(音楽監督ホセ・マリア・ビティエル)

1) ベルディ、オペラ「トロヴァトーレ」、“恋はバラ色の翼にのりて”レオノーラ、第4幕第1場
2) エルネスト・レクオーナ1895~1963、作曲家・ピアニスト:“A la Antigua”“Interrumpida”
3) イグナシオ・セルバンテス“さらばキューバAdios a Cuba” 
4) 同上 “失われた幻想 Las Iluciones Perdidas”
5) 同上 “オマージュHomenaje 敬意”
6) パブロ・ミラーネス“Ya ves”、ディエゴの部屋でダビドが酔い潰れているシーンで流れる。

⇒ 愛称パブリートPablito Pablo Milanes1943年バヤモ生れ、革命後のヌエバトローバの代表。キューバ流プロテストソング、歌詞に重点をおき、メッセージを込めた。1967年、反体制者矯正のためUMAPに参加させられた(選曲の理由の一つか)。1968年、シルビオ・ロドリゲスと最初のジョイント・コンサート開催。“Yolanda”代表作。2008年スペインツアー(ガリシアのビゴ市)のインタビューでは、「キューバ国民はカストロ兄弟の政治に疲れ果て、麻痺した政策を改革しなくてはならないと考えている。しかし検閲と抑圧について語ることは怖くてできない。自分のアートディレクターは同性愛者だが未だに偏見に晒されている」と語っている。

7) ベニー・モレー“Tu me sabes comprender”、レサマ式ランチが済みディエゴが出掛けた後、ダビドとナンシーが踊るシーンで流れた曲。
8) アドルベルト・アルバレス“A bayamo en coche”(El caballero del Son)


付録3 セネル・パスのフィルモグラフィー
映画化された小説は現在11作、以下代表作(映画祭上映・DVDも含む、『』が公開作品)

第1作「ダビドの花嫁」(1987、“Una novia para David (1987) - IMDb”オルランド・ロハス監督、1989年キューバ映画祭上映。京橋フィルムセンター所蔵。 1960年代の若者群像)。

第3作“Adorables mentiras (1992) - IMDb”(1992、仮題「かわいい嘘」、ヘラルド・チホーナのデビュー作、ミルタ・イバラやタイス・バルデスが出演)。

第4作『苺とチョコレート』(1993、本作が大物監督との初のコラボ)(Fresa y chocolate (1994) - IMDb

第5作“Maite (1994) - IMDb”(1994、サン・セバスチャン出身のエネコ・オラサガスティのデビュー作)

第7作「キューバからきた娘たち」(1997、“Cosas que dejé en La Habana (1997) - IMDb”グティエレス・アラゴン監督、1998年映画祭上映)

第8作『ビバ!ビバ!キューバ』(2000、“Un paraíso bajo las estrellas (2000) - IMDb”ヘラルド・チホーナ監督 2001年9月公開)

第9作『バスを待ちながら』共同執筆(2000、“Lista de espera (2000) - IMDb”フアン・カルロス・タビオ監督、原作:アルトゥーロ・アランゴ、2002年1月公開)

第11作「カリブの白い薔薇」(2006、“Una rosa de Francia (2006) - IMDb”グティエレス・アラゴン監督、DVD)

Posted by: アリ・ババ39 | Monday, August 08, 2011 at 14:44

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