El Gran Vázquez [スペイン映画]
おはなし
1964年、バルセロナ。
マヌエル・バスケスの家の前に男たちがうんざりした表情で立っている。男たちはみな取り立て屋である。月賦の支払、家賃の催促、たまりにたまったツケ、……バスケスがドアを開けて出てくるのをこうして何時間も待っている。
そこへもう一人男がやってきた。
激しくドアを叩き、ビルから転落しそうになってもかまわず窓からの侵入を試みる。「俺はこういういかさま野郎には我慢ならないんだよ。善良な市民を馬鹿にしするのもいいかげんにしやがれ」。
烈火の如く怒ったかと思いきや、今度は「こっちはパンの一かけら食べるのだって苦労してるってのに。こいつから取り立てないと、俺はクビになるんだ」とがっくりと肩を落とし、他の取り立て屋からも同情され施しを受ける。
しかし……芝居がかったこの男こそがマヌエル・バスケスである。
スペインナンバーワンと評された漫画家バスケス。彼が世に送り出したキャラクターは数知れない。『ヒルダ姉妹』、『私立探偵アナクレト』、『セボリェタ家の人々』……。子どもたちは、いや大人ですら彼の漫画に熱狂した。
しかしバスケスには大いなる欠点があった。この男、何事にもお金を払う気がない。
稀代のペテン師マヌエル・バスケスの嘘八百の人生と、ブルゲーラ出版社の面々の辛抱の歳月を描いた伝記作品。
・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆
昨年9月のDONOSTIA ZINEMALDIA / 58 FESTIVAL DE SAN SEBASTIÁN / 第58回 サン・セバスティアン国際映画祭で観た作品。
正確には“観て”はいない。FESTIVAL DE SAN SEBASTIÁN / サンセバスティアン映画祭 2日目の上映だったのだが、長旅の疲れが一気にそこで出てしまい、この作品でかなり気持ちよく寝てしまったのだった。このたびDVDで見直してみたら、知らないシーンがいっぱいあった。
ポップな色遣いや室内のレトロな小道具など、可愛らしい画面造り。
語彙はところどころ凝っているような気がした。特に出版社の経理(?総務?)のペラエス(アレックス・アングーロ)の嫌味ったらしい回りくどい表現など。だからスペイン語の(ヒアリングの)勉強にはちょっと厳しいかもしれない。
話は面白い。会話が面白いし、なによりこのバスケスがあまりにも興味深い人物なのだし。
ただ、伝記物なので、スペイン人じゃないと瞬間的に笑えない仕掛けが盛り込まれているのはしかたないね。スペイン国内向けの作品という壁を越えてはいないと思う。
たとえば、バスケスの漫画のキャラクターだってスペイン人には一瞬で共通の認識を伝えられるのだろうけど、私はそれを勉強して情報として得ないことには掴み取れない。バスケスの他にも実在の人物(後述)が描かれているようだが、それらも外国人の私は後から調べる項目として書き留めるところから着手するわけです。
また、話し相手の胸に鈍く光るファランヘ党のバッジを見た途端に態度を変えていくバスケスが描かれるのだけど、そのシーンの滑稽さも果たして外国人に瞬時に伝わるものかどうか。
スペイン語にというより「スペインに」長けた人におすすめの作品です。
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Comments
語句メモ (前半けっこうサボってたかも)
・pitorrearse.1. prnl. Guasearse o burlarse de alguien.
・tebeo.(De TBO, nombre de una revista española fundada en 1917).1. m. Revista infantil de historietas cuyo asunto se desarrolla en series de dibujos
・ビールに関していう時、medianaとはいったいなにを指しているのですか
Mediana (cerveza) - WordReference Forums
・Casi me pillan.
→・casi + 直説法現在
→・por poco
→・por poco
Locución adverbial que expresa, seguida de un verbo en presente de indicativo, que estuvo a punto de suceder lo expresado por el verbo:
例) En Masaya por poco me comen vivo. (Prensa [Nic.] 6.5.97);
equivale, por tanto, a casi. ……略……
・historieta: 2. f. Serie de dibujos que constituye un relato cómico, dramático, fantástico, policíaco, de aventuras, etc., con texto o sin él. Puede ser una simple tira en la prensa, una página completa o un libro.
・pintar: 13. intr. Importar, significar, valer.
例) ¿Qué pintas tú aquí?
例) Yo aquí no pinto nada, y por tanto, me voy.
・pánfila: 1. adj. Cándido, bobalicón, tardo en el obrar. U. t. c. s.
・libro de familia: 戸籍簿
↑
(高級)ホテルのフロントがカップル客に対し提示を要求していた。未婚の男女が同衾するなんてことは許されなかった時代だったんだね?(※あとのシーンで結婚前にお腹が大きくなっている女性に対して侮蔑の目が向けられているような描写もあった)
La soledad de Obama. El Correo
Adiós al Libro de Familia | España | elmundo.es
……まあ、その帳面を提示できない場合にも抜け道はいろいろあるわけで……『Muerte de un ciclista / 恐怖の逢びき [スペイン映画]: Cabina』の二人もあちこち手を回したのだろうかね。
・el yugo y las flechas 【紋】 くびきと矢; スペインのカトリック両王Isabel とFernandoの象徴.1934年以降ファランヘ党のシンボルとなった.
バスケスは話し相手の胸元のこのバッジをちらっと見ます。そうして話をツラツラペラペラ合わせていくのです。
(
・bastardoという単語を漫画に書き入れているのを見咎めて、口やかましいペラエスが言う。「もしもし、君、そんな単語を載せられるわけないでしょう。我々みんなが銃殺されてもかまわないんですか」
―――じゃあ何ならいいんでしょう
「いつもの通りですよ、いろいろあるでしょう」
↓
・percebe: 2. m. coloq. Persona torpe o ignorante.
・merluzo: 1. m. coloq. Hombre bobo, tonto
・mentecato, ta.(De mentecapto): 1. adj. Tonto, fatuo, falto de juicio, privado de razón. U. t. c. s
・lechuguino, a: 2 (inf.) n. Joven afectadamente *elegante, o presumido. Gomoso, *petimetre, pisaverde.
・nerón: 1. m. Hombre muy cruel.
・Landrú - Wikipedia, la enciclopedia libre
・turulato - Definición - WordReference.com
・besugo: 2. m. Persona torpe o necia
・a tocateja: 1. loc. adv. En dinero contante, sin dilación en el pago, con dinero en mano, en efectivo.
・gorila: 2. m. coloq. guardaespaldas.
→この映画のこのシーンの場合はhombre fuerte, musculosoくらいの意味で、そして「借金取り」。
・sablear.1. tr. coloq. Sacar dinero a alguien dándole sablazos, esto es, con petición hábil o insistente y sin intención de devolverlo. U. t. c. intr.
・defenestrar: 2. tr. Destituir o expulsar a alguien de un puesto, cargo, situación, etc.
・Voy a estar la mar de bien.
→・la mar de: 1. loc. adv. mucho (ǁ con abundancia)
・Nos ha dejado en la estacada.
→・dejar a alguien en la estacada: 1. fr. Abandonarlo, dejándolo comprometido en un peligro o mal negocio.
・energúmeno, na: 1. m. y f. Persona poseída del demonio. ←ペラエスがバスケスのことをこう思ってる
・Nos van a tomar por el pito del sereno. 我々は見くびられますよ
→・tomar a alguien por el pito del sereno.1. fr. coloq. Darle poca o ninguna importancia.
・superintendente.:.1. com. Persona a cuyo cargo está la dirección y cuidado de algo, con superioridad a las demás que sirven en ello.
・moroso, sa: 1. adj. Que incurre en morosidad. Deudor moroso.
・moroso, sa: 1 adj. y n. Se aplica al que se *retrasa en un pago o en la devolución de algo:
例) Arrendatario moroso.
morosoという単語を見るたびにほろ苦く思い出されるのは、『La buena vida / サンティアゴの光 [チリ映画]: Cabina』のエドムンドのお父さんのこと。エドムンドは亡くなった父親の同業者組合まで足を運んでいろいろ聞こうと(話そうと)する。エドムンドの中では亡き父の像は美化されていたいたけれども、同業者組合の事務方が手元で開いている過去の帳面には、父の欄にハッキリと《moroso》と書いてあるんだよなあ。(エドムンドは最後までそれを知らずに帰って行った)
・norte: 7. m. Meta, objetivo.
・perder el norte: 1. fr. desorientarse (ǁ confundirse).
・banal: 1. adj. Trivial, común, insustancial.
・Voy tirando. ←「調子はどうだい?」に対する答えとして頻出フレーズ
・ホテルの撮影はMeliá Alicante. Hotel en Alicanteらしい。でもHOTEL AVENIDA PALACEの外観も写るけどね。(この入り口が写る⇒IH.HUSA.002612.jpg (PNG 画像, 800x463 px))
(続きは後日)(この作品は人物紹介+αが大事)
↓
Posted by: Reine | Thursday, June 16, 2011 00:37
語句メモ 映画の最初の方
・de punta en blanco: 1. loc. adv. Con todas las piezas de la armadura antigua. Armar de punta en blanco.2. loc. adv. coloq. Con uniforme, de etiqueta o con el mayor esmero.
例) Estar, ir, ponerse de punta en blanco
・Que significa el dicho, de punta en blanco? - Yahoo! Respuestas
・barra americana.1. f. Mostrador de bar u otros establecimientos similares en el que se sirven bebidas
・sire: (ant.) m. Señor. *Tratamiento equivalente a "señor", dado antiguamente en Francia al *rey, al dirigirse a él.
・経理のペラエスは編集長ゴンサレスにこびへつらい。新しいサングラス姿を褒めちぎる。しかしバスケスは「¿Dónde has dejado el perro lazarillo y los cupones? 盲導犬と券はどうしたよ?」。
→・lazarillo: 2. m. Persona o animal que guía o acompaña a otra necesitada de ayuda.
→・cupón: この「券」っていうのは視覚障害者の人たちが販売しているONCE(Organización Nacional de Ciegos Españoles)のくじ券のことを言ってるんだと思う。
→・Página principal de la web de la ONCE
・sentar la cabeza una persona que era turbulenta y desordenada.1. fr. coloq. Hacerse juiciosa y moderar su conducta.
・tarambana.1. com. coloq. Persona alocada, de poco juicio. U. t. c. adj.
・gorrón2, na.(De gorra).1. adj. Que tiene por hábito comer, vivir, regalarse o divertirse a costa ajena. U. t. c. s
・ゴンサレス編集長を裏切るような真似をしてとんずらしたバスケスが再び編集室を訪れる。ペラエスは ¡Qué bemoles tienes! と言う。
→・ Tener una cosa bemoles.
2 (inf.) Se dice con enfado de una acción abusiva:
例) Tiene bemoles esto de que, después de hacer yo todo el trabajo, lo cobre él.
・faria: 1. m. Cigarro barato peninsular de tripa de hebra larga. U. t. c. f.
・de cuidado.1. loc. adj. Dicho de una persona: Sospechosa, peligrosa
「ママはパパがノーテンキだって言ってるよ。僕もノーテンキになりたいよ。パパ、教えてよ」と息子が言います。
・Eres un vivalavirgen.
→・vivalavirgen.1. com. coloq. Persona despreocupada e informal.
また加筆するかもしれないけど、とりあえずここでいったん送信
Posted by: Reine | Thursday, June 16, 2011 20:47
(外出先から投稿するので何かと不自由だが)
・El Gran Vázquez (2010) - IMDb
・*** El Gran Vazquez ***公式
監督・脚本 Óscar Aibar オスカル・アイバール
人物紹介(ところどころwikipediaですみませんが)
・Santiago Segura サンティアゴ・セグーラ ... Manuel Vázquez Gallego - Wikipedia, la enciclopedia libre マヌエル・バスケス・ガリェーゴ(1939~1995):
とにかくムチャクチャでデタラメな人
・Manolo Solo マヌエル・ソロ ... Francisco Ibáñez - Wikipedia, la enciclopedia libre フランシスコ・イバニェス(1936~):
『モルタデロとフィレモン [DVD]
・Álex Angulo アレックス・アングーロ ... Peláez ペラエス:
経理部長というか総務部長というか; ブルゲーラ編集社の業績が伸びて商売が大きくなってきたため雇い入れることになった。バスケスのような犯罪スレスレの男と合うはずもなく、目の敵にしている。
(バスケスはペラエスの家族写真を見て、「おぉ、お宅の御家族ですか、これはこれは……感じが好さそうな皆さんで(棒」と言い、車の写真を見ては「なんとまあ……清潔な車だろう……(棒」と言う。社員は笑いをかみ殺す)
・Enrique Villén エンリケ・ビリェン ... Rafael González Martínez - Wikipedia, la enciclopedia libre: 編集長ラファエル・ゴンサレス・マルティネス(1910~1995)
ペラエスがバスケスを警察に突き出すと言ってもいつも必死で制止する編集長。なぜそこまでバスケスを庇ってあげるのだろうか。
ある日編集長は一人の社員を指してペラエスに言う。
「お前、今度入ったあの男をどう思う?非常に仕事熱心だろう?あいつはフランスから不法入国してるんだよ。仕事もなくて飢え死にするところだったんだ」
ペラエスは仰天、「え?アカなんですか? 我々はアカを喰わせてやってるんですか?」
「アカだミドリだキイロだ、知ったこっちゃないよ。“人”だろ?あいつだけじゃないんだよ……略(社内のあいつもこいつもと列挙)……」
「……みんなアカなんですか?」
「だーかーらー。彼らにだって家族ってものがあるんだよ、君」
ゴンサレス編集長のウィキペディアだけペロっと舐めてみた感じでは、彼もまたスペイン内戦中にはフランスに逃げていた身のようだ。だから、フランコ体制下で“アカ”と呼ばれたような人にはどこかしらシンパシーがあったんじゃないのかね。それで会社についつい雇ってしまっている。
だから、ペラエスがバスケスを警察に突き出そうと主張してもゴンサレス編集長は応じない。バスケスが会社の金を盗んだとか、できてもいない原稿を見せてギャラをふんだくったとか、父親が死んだと何度も嘘をついちゃあそのたびに香典を騙し取ったとか……そういうくだらないことでいちいち騒ぎ立て警察沙汰にされたくない。この社の他のことを警察から探られたくはないから。
・ブルゲーラ社の紅一点の漫画家が、Purita Campos - Wikipedia, la enciclopedia libre。バスケスは彼女のお尻をじろじろ眺めながら挨拶をしている。また、折り紙で作ったような犬を二つ、交尾をしているかのように動かして見せつけたりなど、つまりセクハラもしている。
ウィキペディアによるなら、バスケスのつてでブルゲーラ社で描くようになったみたいだね。
クレジットを見た感じ、他には:
・Tran - Wikipedia, la enciclopedia libre(José Luis Beltrán Coscojuelas; 1931~)
・ランブラス通りでバスケスがサイン会をやらされている。ブルゲーラ出版社の他の漫画家も同じブースにいる。サインを求める子供たちが列を作る。
バスケスはそんな子供達を罵倒してみたり、「いつも夜寝る前に読み聞かせているんですのよ」というママに対しては、「奥さんが今夜俺に読み聞かせしてくれるんだったら『ラス・メニーナス』だって描いてあげるっすよ」と言ったり。
バスケスがテキトー過ぎるので、ペラエスはかんかんである。そして子供達の機嫌を取るようにペラエスは声を張り上げる、「ここにエスコバル先生がいますからねえ。『シピとサペ』を描いてもらいましょうねえ」。
その時、かんかんに怒るペラエスと馬耳東風のバスケスの後ろで、パイプを咥えて所在なげに立っているのが“エスコバル先生”こと、
・Montecarlo ... José Escobar Saliente - Wikipedia, la enciclopedia libre ホセ・エスコバル・サリエンテ(1908~1994):
『シピとサペ』はこちら: Zipi y Zape - Wikipedia, la enciclopedia libre
★このエスコバルを演じた“Montecarlo”という人、(uncredited)である。適当な語で検索してみたらそれらしい人がいたのでtwitterで、「El Gran Vazquezでアングーロとセグーラの後ろでパイプを手に持っているのはあなたですか」と聞いてみたら、ビンゴだった。更に、「それではあの作品のストーリーボードを担当したのもあなたですか」というのもビンゴだった。
たぶんこの人 imastrangerheremyself
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こうしていろいろ調べている家に見かけたこの二つのページがすごく面白い。本当に面白そう。帰宅したら熟読する。
1. Los diez secretos de 'El gran Vázquez'
2. En todo el colodrillo: Curiosidades de El Gran Vázquez
↑
このブログ主はEscobarはJordi Banacolochaが演じたらよかったと思ってるみたい。(Jordi Banacolochaは別の人を演じていた)
Posted by: Reine | Saturday, June 18, 2011 21:44
サンセバスティアン映画祭でこの作品を見た時に、最初のシーン(冒頭の借金取り立てのシーン)で、「ああ、これは何か、ペンデルトンっぽい」と漠然と思ってメモしていた。
ペンデルトンって、ハビエル・フェッセルの会社。短編『Binta y la gran idea ビンタと最高のアイディア』、長編だったら『Camino / カミーノ』を制作してきた。他に、上述の『モルタデロ~』もそうだし、『ミラクル・ペティント [DVD]
』も。
正確には「ペンデルトンっぽい」じゃなくて「ペンデルトンが制作したCaseraのCMっぽい」と思ってたんだ。
私はこのCMを見たのは去年の春(か今ぐらい)で、その時は内容など特に考えず、「わー、かわいいー」と思っていただけだった。
今回、ああだこうだと調べているうちに、「ああ、このCMはストーリーになっていて、元のお話はイバニェスの漫画だったのかあ!」と知るに至りました。
Posted by: Reine | Saturday, June 18, 2011 22:13
'Las aventuras de Zipi y Zape': un 'anticlásico' español
Posted by: Reine | Sunday, August 28, 2011 08:32