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Sunday, April 24, 2011

Macario [メキシコ映画]

この文はある意味“ネタバレ”不可避

子だくさんのマカリオは森で集めた薪を売って糊口を凌いでいる。女房も町の富家の洗濯女をして少しは稼いでくるが雀の涙といったところで、一家は極貧に喘いでいる。日々の食事にすら窮するマカリオらを尻目に、町の金持ちは“死者の日”の飾りの細部に至るまで贅を尽くしている。

マカリオは食事をとるのをやめた。「お腹が空いていないの?」と女房にきかれてマカリオは「腹が減ってるかって?生まれてこのかたずっと腹は空きっぱなしだよ」と答える。

「俺は喰うことしか考えていないんだ。ひもじい思いのまま死んでいくのさ。俺はもう誰かに食べ物を分けなきゃならない暮らしはたくさんだ。自分だけ腹一杯七面鳥を喰いたい。誰にも分けたくない。“誰にも”ってのは、子供たちにもってことだ。俺だけで喰いたい。喰いたいんだよ!それができないんだったらいっそもう何も喰わずに死んでいきたい」。

女房は女房で金持ちの女から無慈悲な仕打ちを受け、ひもじさと惨めさと憤りに突き動かされるようについに盗みを働いた。マカリオのために盗んだ七面鳥を女房は子どもたちからも隠し通す。そして「一人でお食べよ」とマカリオを仕事に送り出したのであった。

その日森に入ったマカリオが七面鳥を食べようと包みを開いたところ、どこから現われたのか、怪しい男らが入れ替わり立ち替わり分けろ分けろと声を掛けてくる。一人目は悪魔、二人目は神様であった。マカリオは分け与える気などさらさらない。悪魔にも神にも。

しかし「何千年も食べ物を口にしていない」と訴えた三人目の男には分けてやることにした。

食べ終わるとその男はマカリオに礼をすると言い出した。地面から湧き出た水をマカリオに渡し、「私が病人の床の足の方に立っていたらお前はその水を病人にお遣り。一滴だけで十分だ。でも私がもしも病人の枕元に立っていたら、お前はもうなんにもしないことだ。その人は死ぬんだから。もう私が連れていくんだよ」と言う。

男は死神であったのだ。

・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆


…………これは……まんま『死神』の展開じゃないか。


と、ここで「え?どうしてどうして?」と思って映画をいったん停止しあれこれ検索してみると、そうか、『死神』っていう演目は西洋からの翻案だったのだね。知らなかったわ!

『死神』という咄についてはコレ!という原作はまだ調べがついていないが、とりあえずこのメキシコ映画『Macario』はIMDbによればB. Travenという作家の『The Third Guest』を原作としているようだ。そしてそのB. Travenという人は謎の多い人らしいです

(⇒ 本棚の隅っこ: B. Traven 『マカーリオ』


というわけで、死生観の面白さを味わうだけでなく、子どもの頃から馴染んできた落語の世界まで覗くことができて、二重に面白い作品でありました。いやあ、圓生につながるとは全く予想していなかった。

Macario (1960) - IMDb

残念ながら日本のアマゾンでは扱いが無いようだ。


以前友人に「死者の日って?」と聞かれて、死者の日について言及のありそうな書籍を検索したことがあるので羅列しておこうと思う:

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Comments

はじめまして、本棚の隅っこにトラックバックいただきました!

マカーリオ、本来ミクシィ日記に記事を書いていて、マイミクさんから落語に同じのがあるという指摘をいただいていました。

B.トラーベンはドイツ人であるというのが一応定説ですが、このマカーリオの原型はグリム童話だということです。"Der Gevatter Tod" (名付け親の死神) (ATU 332)、探したら日本語のウィキページがありました。
死神の名付け親 - Wikipedia
グリム童話とメキシコと落語がつながるなんて! と当時ワクワクしました。

映画のラストでろうそくの立ち並ぶ洞窟が出てきたと思いますが、このシーンはトラーベンの原作にはありません。グリム童話を読んで、そうか、こちらと合体したのか!と知った次第です。

突然来て、長々と失礼しました。
好きな作品なのに、知っている人が少ないので、こんなお話ができるのが、つい嬉しくて。

Posted by: 浦島の亀 | Sunday, April 24, 2011 02:19

浦島の亀さん、コメントありがとうございました。

これ、面白いですよね。
私はおもしろそうな・観たい映画を検討するときはIMDbのトップのページの最上部を一瞬眺めるだけにとどめています。Macario (1960) - IMDbの場合、ジャンルが「Drama | Fantasy | Mystery」であることと、「Poor, hungry peasant Macario longs for just one good meal on the Day of the Dead. After his wife cooks a turkey for him...」だけが目に入ってはいました。

だからまさかメキシコのモノクロ映画から西洋の童話へ、更に日本の高座へと結びつくとは思っていませんでした。死神が「病人の足下に俺が立っていたら」云々としゃべり出した時には「……おいおい……」と驚きました。

『死神』を落語に取り入れようとして翻案を生み出した先人のセンスが凄いですね。

浦島の亀さんのブログ、本棚の隅っこ: B. Traven 『マカーリオ』には「つづきを読む」があったのですね 後で気づいて拝読しましたら、原作もまた面白そうですね。映画は原作の要所要所をうまくつまんで繋いである気がしました。

原作には記述の無いある事柄を映画に添加することに成功しているようです。その点でもおもしろい作品でした。

これからもメキシコのことなどお聞かせいただければ幸いです。

Posted by: Reine | Sunday, April 24, 2011 13:14

映画冒頭でEl Día de Muertosの説明文を読むことになるが、その内容はこちらのサイトで確認できる: MADHOUSE, casa de locos: MACARIO (México, 1960)

“El día de muertos se celebra en México de una manera singular debido a que el mexicano tiene arraigado un sentido muy peculiar de la muerte. Hace juguetes en forma de esqueletos, pan de muertos, calaveras de azúcar o de chocolate. En este día colocan en sus casas ofrendas de flores y alimentos para que sus deudos coman y beban. El culto a los muertos data entre los indígenas de México de ocho mil años, pero durante los siglos XVI y XVII sus costumbres y creencias se mezclaron con las del Cristianismo, por lo que sus ritos y prácticas son hasta nuestros días una combinación de las dos culturas”.  


ラテン・アメリカを知る事典』より:

万霊節
メキシコでは11月2日を《死者の日 día de muertos》と呼び,各地で日本のお盆を思わせる行事が営まれる.原住民が住む農村では墓をセンパスチルという黄色い花で飾り,果物を供えたり,ろうそくをともしたりして死者の霊に祈る.霊が特定の日にあの世から戻ってくるという土着の信仰とカトリックの祝日と儀式とが融合しているのである.年でも砂糖菓子のしゃれこうべや《死者のパン》が売り出され,独特の風習がみられる.

祭り
ラテン・アメリカでは,ローマ・カトリック教の影響力が強く,聖人祭が数多い.とくに各市町村の守護聖人祭は盛大に挙行される.クリスマスや復活祭など教会暦に基づく祭礼も多数みられる.……略……そのほか,カトリック暦に定着した祭礼に《死者の日》と《カーニバル》がある.前者は11月2日の万霊節で……略……

Posted by: Reine | Sunday, April 24, 2011 13:23

語句メモ (ヒアリングは楽にできると思う)

・re-: Con adjetivos o adverbios, puede reforzarse el valor de intensificación añadiendo a re- las sílabas -te o -quete.
例) Retebueno.
例) Requetebién. 

・chilpayate: m. amer. Niño pequeño; hijo.

・guajolote: 1. m. El Salv., Hond. y Méx. pavo (ǁ ave galliforme).

・canónigo doctoral: 1. m. Prebendado de oficio. Es el asesor jurídico del cabildo catedral y debe estar graduado en derecho canónico o ser perito en cánones. 司教座参事会法律顧問

・enagua: 4. f. pl. Méx. Prenda exterior femenina que cuelga desde la cintura

・almidón: 1. m. Hidrato de carbono que constituye la principal reserva energética de casi todos los vegetales. Tiene usos alimenticios e industriales. 糊

・Cuando el río suena .... (, agua lleva [trae].とつづく): 火のないところに煙は立たない(←せせらぎが聞こえるところには水がある)

・patraña: f. Mentira,noticia inventada,farsa:
例) nos quiso convencer con la patraña de que era millonario.

・aprehender: 1. tr. Coger, asir, prender a alguien, o bien algo, especialmente si es de contrabando.

・cuerdo, da:
1. adj. Que está en su juicio. U. t. c. s.
2. adj. Prudente, que reflexiona antes de determinar. U. t. c. s.


・ドン・ラミロの奥さんを治してくれと頼まれる、というか治せと脅される。謝礼はいくら欲しいかと聞かれてマカリオは「それはあなたが奥さんにどれほどの値打ちがあると考えているか次第だ」と答える。ドン・ラミロは「10 onzas de oro」を提示し、マカリオはその吝嗇に呆れるのだ。

・onzas de oro: 1. f. Moneda de este metal, con peso de una onza aproximadamente, que se acuñó desde el tiempo de Felipe III hasta el de Fernando VII, y valía 329 reales

ここでマカリオは100を要求する。「医者には1onzaしか払ってないのにお前には10払うと言っているんだぞ」と不服顔のドン・ラミロであった。

という具合に、マカリオが最初の“治療”のときからけっこうタフネゴシエーターで意外にうまく立ち回っているのが面白かった。朴訥で純真そのものといった人柄でもないような描き方をしているのが甘ったるくなくて気に入った所。

Posted by: Reine | Sunday, April 24, 2011 13:29

監督・脚本: Roberto Gavaldón ロベルト・ガバルドン

原作: B. Traven (story "The Third Guest")
脚本: Emilio Carballido エミリオ・カルバジード 

出演
Ignacio López Tarso イグナシオ・ロペス・タルソ ... Macario マカリオ: 貧しい木こり
Pina Pellicer ... 女房

Mario Alberto Rodríguez ... Don Ramiro ドン・ラミロ: 金持ち・けちんぼ

José Gálvez ... 悪魔(山城新伍似)
José Luis Jiménez ... 神
Enrique Lucero ... 死,死神

Eduardo Fajardo ... 副王
Luis Aceves Castañeda ... 処刑人(パパイヤ鈴木似)

Posted by: Reine | Sunday, April 24, 2011 13:38

ドン・ラミロはマカリオの才能を自分の儲けに繋げようとすぐに手を打ち、マカリオに診療所を開かせた。自分は紹介料で儲けるという仕組み。

マカリオが死ぬ人・治る人をあまりに精確に言い当て、治ると見立てた病人はことごとく治していくものだから大繁盛。元から町で医者をしていた男は面白くない。

(ちなみにこの医者のクリニックの真下か真隣で商いをしているのが棺桶屋である。こういうところも面白い)(物凄く死にそうな病人を担ぎ込まれてドン・ラミロが「限度ってものがあるでしょうが」と苦い顔をするところとかも)


そして医者はマカリオを異端審問所へ密告するわけである。ここから映画は社会派サスペンスとも言える展開を見せる。

「マカリオが通り過ぎる時にはなんだか芳しいのさ」という町の人の噂話を小耳に挟んで異端審問官はそれは硫黄の臭いかと尋ねる。

硫黄の臭いといえばチャベスが思い出される。ブッシュを悪魔と呼んだ事件
↓↓↓
YouTube - Aqui huele a azufre!

Posted by: Reine | Sunday, April 24, 2011 13:53

いつか読むメモ。
マカリオの舞台はいつ頃という設定なんだろう??? 馬車の時代ってことはわかるんだけど。

メキシコにおける異端審問について、PDFファイル

La Inquisición en México durante el siglo XVI ――― JosÉ Luis SOBERANES FERNÁNDEZ ――― Universidad Nacional Autónoma de México

ちょっとよくわからないや。魔女狩りとか異端審問とかって私、大嫌いなんだよね、テーマとして。森島恒雄の『魔女狩り (岩波新書)』なんて、途中の一章まるまる―――たぶん第三章の、《魔女裁判(魔女は何をしたのか  救いなき暗黒裁判)》ってあたりだと思うけど―――ホチキスで綴じてあるわ。二度とページを開いてしまうことがないように。うっかりでも見たくないから。

Posted by: Reine | Sunday, April 24, 2011 14:29

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