Rabia / 激情 [メキシコ映画][コロンビア映画][スペイン映画]
TIFF 第22回東京国際映画祭の上映作品
東京国際映画祭 | 激情の作品紹介ページより:
[解説]
肉体労働者と住み込みのメイドの関係は、男の起こした事件で終わったかに見えた。しかし、男は女の側にいることを決意する。想像を超えた方法で…。卓越した映画技法と役者の渾身の演技が光る激情的ラブストーリー。
[あらすじ]
移民の建設作業員ホセ・マリアは……略……建設現場の監督と対立し、暴力を振るったすえに殺害してしまう。
……略……廃墟と化した広い屋根裏部屋に身を隠したホセは、まるで覗き魔か、もしくは幽霊のように……略……
・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆
( わりとサラっと観たので注意点がいくつかあります。)
3回転半くらい再生してチラチラ観た。
だいたいどんな作品も観ているうちに「これを書こう」「これに触れておこう」「この言い回しは説明しよう」などと浮かんでくるもので、一回りまたは二回り見終わる頃にはだいたい文章は頭の中でできあがっているものなのだが、この作品は3回転してもめぼしい思いつきが得られず困った。
十分に悲しいし可哀想だし、ホセ・マリアの憤りに共感もする。破滅的で自滅的で破壊的で、窒息しそうな感覚に襲われもするが少しの希望は残されていて、
・貧困
・南米移民への蔑視
・本国でも移民先の国でも踏みにじられる尊厳
・生殺与奪を握られた移民が曝される苛酷な現実
・移民労働者の悲惨な日常生活
といった事柄が描かれているのだけれども、「それらが描かれていますね」とここで述べるのは、陳腐で凡庸でたまらなく気恥ずかしい。だから書くことがなくなって困ってしまったわけである。
主役のホセ・マリアを演じたGustavo Sánchez Parra グスタボ・サンチェス・パラの半分人間でなくなってしまったような形相に息をのんだ。グスタボ・サンチェス・パラのあの姿がこの作品の収穫の一つ。
一度目の再生をしている間は他の事をしていて、目の隅で画面をとらえていてチラ見をするような格好だったのだが、妖怪みたいなホセ・マリアが姿を見せたとき私は絵に描いたような“二度見”をした。以後何度か再生した時もそのシーンになると「来るぞ、来るぞ」と待ち構えたものである。
グスタボ・サンチェス・パラは14kgの減量をして撮影に臨んだらしい。終盤を撮ってから序盤へと戻ったのだろうなと思ったが、やはりそうだったみたい。まあそうだよね。
Gustavo Sánchez Parra bajó 14 kilos por "Rabia" - Instituto Mexicano de Cinematografía, Imcine
そして下記の記事だと温情の女主人を演じたコンチャ・ベラスコが「彼は40kgも痩せたのよ。31kgのところから撮影を開始したの」と言っているが、40kgはさすがにヤバいだろ???
Videochat de Martina García y Concha Velasco Sur.es
何kgだ、何kg減らしたんだ!?もともと細身だった彼にとっては、これほどの急激な肉体的変化は精神面にも厳しく作用したらしい。
'Rabia' lleva cine del bueno a la sección oficial | Andalucía-Málaga | elmundo.es
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Comments
監督・脚本: Sebastián Cordero セバスティアン・コルデロ
原作: Sergio Bizzio
出演
Gustavo Sánchez Parra グスタボ・サンチェス・パラ ... José María ホセ・マリア
Martina García マルティナ・ガルシア ... Rosa ロサ
Xabier Elorriaga ... Sr. Torres トーレス氏
Concha Velasco コンチャ・ベラスコ ... Sra. Torres トーレス夫人
Icíar Bollaín イシアル・ボリャイン ... Marimar Torres マリマル: 娘
Fernando Tielve フェルナンド・ティエルベ ... エステバン: マリマルの息子; ロサに恋心を……
Àlex Brendemühl アレックス・ブレンデミュール ... Álvaro Torres アルバロ: トーレス家の穀潰しの息子
Yon González ヨン・ゴンサレス ... Adrián アドリアン: 町でロサに冷やかしの言葉を投げてくる厭らしい男
Karlos Aurrekoetxea ... 同じく
Javier Tolosa ハビエル・トロサ ... ホセ・マリアの現場主任
撮影はバスク州ギプスコア県のTolosaの近くのVidianaという村。そこの古い邸宅で。
印象的な曲は、『Sombras』(Chavela Vargas)
Àlex Brendemühl アレックス・ブレンデミュールのルックスが大好きだ! …と書こうと思ったら過去にも同じ事を書いたようだ。
Posted by: Reine | Saturday, March 05, 2011 22:05
コンチャ・ベラスコの演じるトーレス夫人は孤独感に耐えており、おそらくそこから発してもいるのであろうロサへの情味はこの作品に流れる希望ではあるのだけど、ラストであのようになった後、事後処理の段階でいろいろと明るみになった場合、愛息アルバロの身に起きたことにも思い当たるのではないのか。
その場合にも、ロサとロサの子にこれまでと変わらぬ愛情をトーレス夫人が注ぎ続けてくれるのかどうか、そこを考えながら〆。
ひょっとしてその答えは作品中に漂っていたのかもしれないけれども、それを私が見つけていないのは軽い鑑賞だったせいかな。
Posted by: Reine | Saturday, March 05, 2011 22:13
ああ、そうだ、一点。
現場主任がホセ・マリアを詰問・叱責する時にロサを侮辱するようなセリフを吐いたので、思わずホセ・マリアは「¿Qué dijiste de mi novia? 俺のカノジョが何だって?」と言ってしまう。
すると主任が「Ah, encima, ahora me tuteas. ああ、いきなりの敬語抜きかよ」と言う。
わかりやすいシーン。
こういう具合に、この作品はいろいろとくっきり描いてある気がして、その真っ直ぐっぷりがあまり私がストーリーに引き込まれずに終わってしまった理由なのかもしれない。
Posted by: Reine | Saturday, March 05, 2011 22:31
長いことブログに手を着けられずにいますがそろそろ復帰をしようとは思っています。
アリ・ババ39さんからまたコメントをいただきましたので、これからコピペしていきます。
(注: いつもどおりの注意事項ですが、太字にしてみたりとかリンクはったりしているのは私のしわざです。ところどころ行を入れ替えるくらいの切り貼りもアリ・ババ39さんには事後承諾でやってしまっています。アリ・ババ39さん、いつも御理解くださってありがとう!)
ネタバレ的なコメントもあります
↓↓↓↓
Posted by: Reine | Thursday, April 21, 2011 17:24
『タブロイド』監督の最新作は究極のラブ・ストーリー
B: これは東京国際映画祭2009のコンペ作品でしたから、幸運にも完成早々に字幕入りで見ることができました。究極の「密室サスペンス・ラブ・ストーリー」が謳い文句ですね。
A: 「ダメ男の」が抜けてます。バスクのデカダンな邸宅と、そこに集う孤独な没落ブルジョア家族のメタファーは何か、また若い男女が同じ屋根の下にいながら触れ合うことなく電話線1本で繋がる長距離恋愛の意味は何か。
B: ちゃんと大人になれなかった男の矛盾に満ちた独善的な「愛と死」に関する物語。
A: 激しい怒りと嫉妬の入り混じったラブ・ストーリーに潜むシニカルな視線、混乱した男の行きつく先はバレバレなのに最後まで観客を引っ張っていきました。
B: 映画上映後のQ&Aは内容がありました。
A: セバスチャン・コルデロ監督とヒロインのマルティナ・ガルシアさん、プロデューサーの一人グアダルーペ・バラグアーさんが来日、会場に揃って現れ盛り上げてくれました。勿論、映画は出来立てほやほやのアジアン・プレミアです。
B: コンペに選ばれたのは、前作“Cronicas”(2004、『タブロイド』2006公開)の成功とプロデューサーのギジェルモ・デル・トロ監督のネームバリューかな。
A: デル・トロの『パンズ・ラビリンス』は、イバナちゃんの可憐さとアカデミー賞がらみでロングランでした。「激情」のプロデューサーは3カ国合作ということもあって十数名にのぼり、デル・トロはその一人、来日したのは先述のバラグアーさんでした。
B: 結果的に審査員特別賞を受賞しました。審査委員長がメキシコのゴンサレス・イニャリトゥ監督だったのが幸いしたのかもしれません(笑)。
A: 個人的には嬉しい反面、ちょっと意外でした。東京サクラ・グランプリ受賞の「イースタン・プレイ(※1)」以外はドングリの背競べだったからじゃないですか。この映画祭のコンペ対象は1作~3作目ぐらいまで、「激情」はコルデロの3作目になりますからギリギリのセーフでした。
B: カナダのトロント国際映画祭でお披露目され(9月)、東京に続いて翌年3月メキシコのグアダラハラ映画祭で監督賞(イベロアメリカ長編フィクション部門)、4月スペインのマラガ映画祭でグランプリを受賞しています( PDF: 13ª EDICIÓN PALMARÉS - LARGOMETRAJES SECCIÓN OFICIAL)
A: マラガには監督とヒロイン、トーレス夫妻役のコンチャ・ベラスコ、ハビエル・エロリアガ、カビナさん曰く“穀潰し”息子アルバロ役のアレックス・ブレンデミュールが顔を揃えました。
B: 1カ月後のスペイン公開も決定していて、最初から本命視されていたんじゃないですか。
A: 9月のサン・セバスチャン国際映画祭にも「メイド・イン・スペイン」部門で上映されたから、監督としては達成感を味わえたことでしょう。
Posted by: アリ・ババ39 | Thursday, April 21, 2011 17:24
アルゼンチン作家の同名小説の映画化
B: 本作はアルゼンチンのSergio Bizzio(※2)の同名小説をベースにして映画化されたそうですが。
A: 小説と映画の大きな違いの一つは、舞台をアルゼンチンの首都ブエノスアイレスからバスク州ギプスコア県に移ったことです。
B: カビナさんがトロサTolosaの近くビディアナVidianaと書いております。
A: ビディアナは探せませんでしたが、トロサというのは国際映画祭で有名なサン・セバスティアンから20数キロ南方にあり、小高い山波をバックに町中をオリア川が流れています。これは北スペインによく見られる風景です。
B: 原作にはスペインに暮らす南米移民の差別問題は絡んでいないのに、映画ではそれが前面に出ていた印象です。つまり本作は、≪移民の視点から≫かつての宗主国の孤独と退廃を描くことに軸足が変わっている。
A: その変更が脚本に無理をもたらしたようにも思えました。二人の主人公の名前ホセ・マリアとロサ、互いの職業、知り合ったばかりという関係は同じです。映画では二人の年齢は想像するしかありませんが、小説では出会いは40歳と25歳とはっきりしています。
B: 男は分別盛りの中年、映画はもっと若い30代の設定でしょうね。
A: またロサの雇い主夫妻のレイプ息子アルバロの名前はそのままですが、雇い主夫妻、建設現場の主任などは変更されています。雇用者と被雇用者という労使関係の対立構図というか階級間闘争、職業差別、決して成就しない愛、館の全てを知り得る存在「窃視者」になるという、原作の骨子は映画でも生かされているのではありませんか。
B: 他にホセ・マリアの死に方も違うということですが。
A: ネズミがらみなのは同じです。映画は撒布された殺鼠剤で観客まで窒息しそうになりましたが、小説ではネズミに噛まれたのが原因の病死です。ホセ・マリアが屋根裏部屋に潜んでいた期間、ロサの子供の父親なども違い、大分変更されている印象です。しかし、先ほど述べたように柱となるテーマは同じ、小説と映画はそれぞれ独立した作品ですから、それで別に構わないわけです。
Posted by: アリ・ババ39 | Thursday, April 21, 2011 17:32
B: スペインへの舞台変更は、製作資金がらみでしょうね。メキシコ・スペイン・コロンビア合作映画、コルデロ監督の出身国エクアドルは出資していない。
A: 上映後のQ&Aで、会場からバスク州のギプスコアに変更した理由を質問した方がおりました。製作者サイドから、舞台をスペインに移して移民のテーマを取り入れてはという要望があり、自分も賛成したと。同席しているバラグアーさんに気を使っているようで、変更された“Rabia”のシナリオが先にあって、監督に映画化の打診があったような感触を受けました。
B: 監督が小説を気に入って、是非これを映画化したいと製作者に持ちかけたのではなく、ですね。
A: あくまで個人的な憶測です。実は第3作目はハリウッド映画のはずでした。ハリソン・フォード主演の“Manhunt”が予告され、大物俳優との顔合わせもすんでいたんですね。監督が『タブロイド』公開に先立つ2006年1月、プロモーションのため来日したときのプレス・インタビューでも話題になっていた。(ハリソン・フォード主演作でハリウッドに乗り込む気鋭の新人 : 映画ニュース - 映画.com)
B: それはリンカンが暗殺される前の2日間の経過を追った映画ですね。
A: 意欲を燃やして準備していたのにキャンセルになってしまった。じゃ、次は何を撮るんだろうと思っていたら、最新作「激情」を携えて東京国際にやって来る、それもビッツィオの同名小説の映画化だというから驚いた(※3)。ビッツィオは1956年ブエノスアイレス生れ、まず詩人、作家、脚本家、映画監督というマルチ人間です。コルデロも前2作の脚本を自ら書いていますから、二人がどう折り合いをつけるか、期待半分、不安半分、結果は後者でした。
B: 審査員特別賞受賞の「嬉しい反面、ちょっと意外」になるわけですね。
A: 前2作がよかっただけにね。だって資金は潤沢、役者も一流、ロケ地も魅力的、撮影も斬新、でも残念ながら、ホセ・マリアの「激情」や「暴力」の基となる背景の描き方、自己破壊の道程に説得力があったとは思えなかったから。誰でも人は理性と狂気を合わせ持っているのですけど。
B: 男が館に隠れ住む羽目になったそもそもは、男の人間としての未熟さから。最初からスペイン社会に敵意を抱いているが、その何故かが省略されていた。
A: 自らを抑えられない暴力に走りがちな未熟な男、行き場を失った男の唯一の選択が、愛する女を守ると称して女の仕事場に身を隠そうと考える男。脚本を褒める人が多いようですが、同調圧力できないなぁ。
B: これは原作と同じだが、二人の職業もステレオタイプかな。しかし言語は同じでも職業選択に目に見えない遮断機が下りているのは事実でしょう。
A: 多くの出稼ぎ南米移民受け入れ国スペインでの差別の実態が、それほど共通認識になっているとは思えない。もっと若ければ暴力も自己表現の一つと納得できますが、スペイン人の若造(※4)に恋人が揶揄されたからといって、いいオトナが暴力に訴えるのは≪甘え≫に映り同情できない。
B: これが原因で建設現場主任と口論になり、運悪く殺人者になってしまう。最初の殺人は、殺意はあったにしても故意ではなかった。
A: ≪激情≫が禍いした非運です。追われる身になった男は、消え去ることを望んでいないのに消え去ることで社会に抵抗しているのだが、その怒りと悲しみが充分伝わってこなかった。
B: ゴーストと窃視者を行ったり来たりしながら、人間としての愛、尊厳、家族を否定されて生きる男の複雑な≪激情≫が、やや単調になっていました。
A: 愛は得られても、≪尊厳≫が得られないのは当たり前。
Posted by: アリ・ババ39 | Thursday, April 21, 2011 17:33
古い館も重要な登場人物
B: 監督はエクアドルの首都キト生れ、映画後進国で映画をつくる困難は想像できますね。製作国にエクアドルが含まれていないことが、それを如実に物語っています。
A: 数年前から助成金が出るようになったようですが、俳優はメキシコ、コロンビア、スペイン、原作者はアルゼンチン、舞台はスペインでは申請しても難しいかも(笑)。
B: 最初から撮影地はバスクに決まっていたのかしら。
A: いや、あちこちデカダンな邸宅を探し回ったようです。ですから、あの館に出会ったときはとても嬉しかった、最初からセットは考えていなかったと語っています。
B: ホセ・マリアがダイヤルを回すと、下の居間にある電話の呼び鈴が鳴り、階下にいるロサに向かってカメラは階段を下り壁を伝い廊下を走りロサに繋がる、とてもスムーズでした。
A: 手持ちのビデオカメラのようなブレの少ないステディカムで撮影したようですね。クローズアップを巧みに使ったワンシーン・ワンショット、監督がプレス・インタビューのなかで、「このシーンはセットじゃ撮れない」と語っていますが、最初からこういうシーンが頭にあったんだよ。
B: 階段は二人を分断しているようで、実は二人の共通空間でもあり、この朽ちかけた館は登場人物以上に魅力的です。
A: 時勢の変化に取り残され没落しかかったブルジョア階級、そのインテリ老夫婦、その不肖の息子と出戻り娘を暗示しているようです。また古ぼけているが高価な絨毯が敷き詰められた階段は、旧大陸と新大陸を阻んだあるいは繋いだシンボルかも。
B: バスクの社会的には上、経済的には中、エゴと孤独で寄り添っている斜陽の家族。
A: 同じ屋根の下に住みながら1本の電話線で繋がっている関係も、母国と移民先に離れて暮らしている「遠距離恋愛」中の恋人たちのメタファーでもあるかな。
B: 建設ブームのあおりで古い館は取壊しの運命にありますから、館との出会いは幸運でした。
Posted by: アリ・ババ39 | Thursday, April 21, 2011 17:37
成長株の「美女と野獣」
A: グスタボ・サンチェス・パラはメキシコ出身、日本デビューはアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『アモーレス・ペロス(※5)』です。第1話、闘犬場に出入りするハローチャ役、主役のG.G.ベルナルにナイフで刺されるチンピラ役といえば思い出す人もいるはず。
B: アレハンドロ・ロサーノの『カクタス・ジャック』(“Matando Cabos”2004、DVD2007)、吹替え版もあるマーチン・キャンベルの『レジェンド・オブ・ゾロ』(2005、米メキシコ合作)にも出ています。
A: 製作総指揮がスピルバーグ、バンデラスの怪傑ゾロですから民放にも登場できます。ラテンビート映画祭2008上映のパトリシア・リヘンの「おなじ月の下で」(“La misma luna”2007)、ディアス=ヤネスの『4人の女』(“Solo quiero caminar” 2008、DVD2010)に脇役で出演しています。
B: 「激情」のあとマイケル・ロウの“Ano bisiesto”(2010、仮題「閏年」)の主役を射止めました。
A: カンヌで話題になったせいか、昨年のラテンビート映画祭2010で上映の噂がありましたが実現しなかった。今では売れっ子らしく掛け持ち出演の注目株、会場にも彼目当てで馳せつけたファンがおられました。
B: それにしても4カ月で14キロ減量は凄まじい。
A: 人物になりきるために外面を変えていったら内面まで変化してしまったとか。コルデロが「彼にとって撮影は厳しいものでした」と、マラガ映画祭の記者会見で彼の労をねぎらっていました。
B: ロサ役のマルティナ・ガルシアは本作が日本デビューのようです。
A: コロンビアのテレドラからの出発、セルジオ・カブレラ監督のサスペンス“Perder es cuestion de metodo”(2004、英題“The Art of Losing”)の主役に起用されたのが映画デビューというシンデレラ娘。第2作はマリオ・メンドサの小説をアンドレス・バイスが映画化した犯罪物“Satanas”(2007)、第3作がフェルナンド・レブリハのデビュー作“Amar a morir”(2009)、3作ともコロンビア・メキシコ合作です。
B: 次が「激情」ですね。イニャリトゥの最新作『ビューティフル』(2010、西メキシコ、2011初夏公開予定)にもチョイ役で出演しているようです。
A: 最新作はコメディ“No eres tu, soy yo”(2010)、こちらは主役級、まさに順風満帆です。ロサとホセ・マリアを「美女と野獣」と形容した人がおりましたが、本当に清楚な美人、将来それが重荷にならないことを祈りたい。
B: 本作ではサンチェス・パラの迫力に押されぎみでしたが、偶然知りあったばかりの男が殺人者に変貌、密かに観察される役なんて、いささか不条理な話です(笑)。
A: まだフルネームも知らないという設定、互いに相手の欠点を知らない恋の絶頂で別れさせる。だから二人は想像で愛し合っているんですね。春と愛は早く過ぎ去るというメッセージは分かりやすい、みんな経験者だから。その点は実に面白かった。
B: 生活の本拠地を数年前にスペインに移しているヨーロッパ指向の女優さん。
A: ですから今ではテレドラもスペインのシリーズ物に出ています。映画では自分がスペインで受けた経験とは全く異なる人物を演じたので、そのギャップに驚いたとも語っています。
Posted by: アリ・ババ39 | Thursday, April 21, 2011 17:38
個性派ベテランと新人のタイトルマッチ
B: スペイン側のトーレス一家、コンチャ・ベラスコやイシアル・ボリャインについてはデータがありすぎて困ります。
A: 特に長女マリマル役のボリャインは大筋にあまり絡んでこない役ですし、今では監督業が主ですから別作品に機会を譲り、1967年マドリード生れだけに。
B: 若いときからコンチータの愛称で愛され続けているトーレス夫人のコンチャ・ベラスコは、祖母役が似合う年齢になりました。実人生でも最近おばあちゃんに。
A: 1939年11月バジャドリッド生れ、表向き内戦は終結しています。スペインではベテランの場合、生年はとても重要、政治がキャリアを左右して不運だった役者もいましたから。代表作をかいつまむと、ペドロ・オレアの“Pim, pam, pum...!fuego!”(1975)、ホセ・セラの小説をマリオ・カムスが映画化した“La colmena”(1982)、ガルシア・ベルランガの遺作となった“Paris Tombuctu”(1999)、フアン・フランの“Chuecatown”(2007)。
B: これは東京国際レズ&ゲイ映画祭で「チュエカタウン」の邦題で上映された。
A: そして落とすわけにいかないのがテレビ・ミニシリーズのヒット作“Teresa de Jesus(Santa Teresa de Avila)”(1984)の主役、サンタ・テレサ・デ・ヘススを演じた。
B: 列挙したらキリがない。本作では世間知らずのアルコール依存症の役。
A: 愛にあふれ寛大な心をもった女性だが、バカ息子を溺愛してちょっと混乱気味。マラガのプレス会見で「この役を演じたことで別の自分を発見できた。とてもラッキーだったし誇りに思う」と、若い監督を褒めていました。まんざらお世辞だけではないでしょう。
B: 映画はサンチェス・パラが14キロの減量を果たした最後の部分から撮影されたんでしたね。
A: 撮影開始とともに遭遇したのが、無精髭におおわれ、目はうつろ、肋骨が浮きでたホセ・マリア。おまけに足元にはゴキブリやらネズミが・・・さすがのベテラン女優も度肝を抜かれた、ハッハッハ。
Posted by: アリ・ババ39 | Thursday, April 21, 2011 17:39
B: トーレス氏のハビエル・エロリアガは、1944年ベネズエラのマラカイボ生れとか。
A: これも内戦がらみ、名前から分かるようにバスク人。フランコを嫌った親の亡命先ベネズエラで生れた。チリで教育をうけ、1969年25歳のとき、バスクの州都ビルバオへ。舞台俳優として出発、映画デビューは、アントニ・リバスの“La ciutat cremada”(1976、“The Burnt City”)というカタルーニャの歴史映画、ハイメ・チャバリの“A un dios desconocido”(1977)にエクトル・アルテリオと共演、その実力が認められた。
B: イマノル・ウリベのバスク三部作“La fuga de Segovia”(1981)と“La muerte de Mikel”(1984)にも出演している。
A: 「ミケルの死」は字幕入りで見られないのが残念に思うほどの名作です。ウリベの三部作については、以前“El Lobo”で触れたことがあります。他にホセ・ルイス・ボラウの“Tata mia”(1986)も話題作、アメナバルの長編デビュー作“Tesis”(1996、『次に私が殺される』公開)は見ている人が多いでしょう。
B: ラテンビート2004で上映されたフェフェルマンとパリス共同監督の「マイ・マザー・ライクス・ウーマン」(“A mi madre le gustan las mujeres”2002)にも。
A: 当然のことですが、いわゆるバルセロナ派監督の映画に出ています。俳優だけでなく、ライター、監督と幅広い活動をしているシネアストです。
B: 不肖の息子役アレックス・ブレンデミュールは、セスク・ガイの「イン・ザ・シティ」(“En la ciudad”2003)のトーマス役をした人。
A: カビナ・ブログに写真入りで既に紹介されています。1972年バルセロナ生れ、代表作は何といってもラファ・コルテスの“Yo”(2007)でしょうか。
B: 苗字からドイツ系と分かりますが、この映画でもマジョルカ島の小村に仕事場を求めてやってきたドイツ人を演じた。
A: コルテス監督がマジョルカ島のパルマ出身ということで舞台になった。カタルーニャのホモセクシャルの詩人ハイメ・ジル・デ・ビエドマの生涯をえがいたジークフリード・モンレオンの“El consul de Sodoma”(2009)では、作家フアン・マルセに扮した(※6)。ヘラルド・オリバレスの新作“Entre lobos”(2010)にも出ているようです。今年入手したいDVDの一つです。
B: ロサに絡むかと期待したエステバン役のフェルナンド・ティエルベは、ギジェルモ・デル・トロの『デビルズ・バックボーン』(2001、2004公開)で日本に登場。
A: 1986年マドリード生れ。本作ではスペインの若い世代を代表させようとしたのでしょうが、途中で消されてしまいましたね。最初はもっと大筋に絡ませようとしたのではないかしら。せっかく撮ったのに最終的にカットされたシーンがあったらしく、ここいらにも脚本の綻びが感じられます。
B: 先ほどのマルセの同名小説をフェルナンド・トルエバが映画化した“El embrujo de Shanghi”(2002)に主役ダニ役で出演。
A: イギリスの監督クリストファー・ハンプトンのスリラー・ドラマ『ジャスティス 闇の迷宮 [DVD]』(2003、西英米合作)にも。アルゼンチンの70年代の軍事独裁時代の行方不明者がテーマ。バンデラスとエマ・トンプソンが夫婦役を演じたスペイン語と英語の映画。
B: 『デビルズ~』と同じ2004年公開、同年DVDも発売された。『パンズ・ラビリンス』にも脇役のゲリラ兵で出ていたらしいが。「激情」以降も次々起用されているのは子役脱皮に成功したからか。
Posted by: アリ・ババ39 | Thursday, April 21, 2011 17:40
長編デビュー作がヴェネチアに登場
A: セバスチャン・コルデロは、1972年エクアドルの首都キト生れ。ただし幼少期はフランスで過ごしている。18歳で映画の勉強を始め、南カリフォルニア大学で脚本を学んだ。卒業後、映画産業のなかったエクアドルに戻って映画を作ろうと帰国したそうです。
B: 第1作“Ratas, ratones, rateros”(1999、英題“Rodents”)がヴェネチア国際映画祭という檜舞台で注目された。
A: その後、トロントやサン・セバスチャン、ハバナなどの国際映画祭で受賞を重ね、南米の小国エクアドルから一気に世界に羽ばたいた。映画祭で各国のシネアストたちと交流ができ、これが大きな財産となったと語っています。
B: 「激情」でネズミが出てきたときには、思わずデビュー作を思い浮かべてしまいました。
A: カルロス・サウラの『急げ、急げ』と同じようなストリート・キッズの犯罪をテーマにしたcine quinqui エクアドル版。こちらのネズミは「激情」とは違って車上荒らしの比喩としてのネズ公。監督・脚本・製作の全てを手掛けた力作、ラテンアメリカの少年犯罪映画史を語るときには外せません。
B: このデビュー作がメキシコのアカデミー賞といわれる「アリエル賞」外国映画部門にノミネートされたんですね。
A: そのときに、「激情」のメキシコ側製作者の一人でもあるベルタ・ナバロと知り合うことができた。この大物女性プロデューサーがデル・トロを引き合わせ、続いてアルフォンソ・キュアロンとも。いわばナバロ女史は、コルデロ監督にとって幸運の女神だったわけです。
B: それが第2作『タブロイド』誕生の原動力にもなった。
A: そうです。彼女はデル・トロの“Cronos”(1993)、『デビルズ・バックボーン』、『パンズ・ラビリンス』にも名を連ねています。ですから新人にとって映画祭出品は、人間交流の大いなるチャンスなんですね。
B: 『タブロイド』については公開されて情報も多いことから、このへんで〆ましょう。
Posted by: アリ・ババ39 | Thursday, April 21, 2011 18:21
※1 イースタン・プレイ
カメン・カレフ監督、2009ブルガリア
『ソフィアの夜明け』として2010年10月公開。両作に共通するのは共に主人公がダメ男という点。いささか臭いセリフにたじろぎながらも、こちらのほうにより説得力がありました。
※2 Sergio Bizzio
セルジョ・ビッツィオか(マカロニ・ウェスタンでブレークしたイタリアの監督はセルジオ・レオーネと表記されるが)
※3 ビッツィオの小説の映画化
以前、ビッツィオの短編“Cinismo”をルシア・プエンソが「XXY」のタイトルで映画化しています。これについては「フィッシュチャイルド」のところでコメントしました
“XXY” 2007アルゼンチン他;ラテンビート映画祭2007上映
“El nino pez” 2009アルゼンチン他; 「フィッシュチャイルド」ラテンビート映画祭2009上映
※4 スペイン人の若造
この青年を演じたのが、テレビドラマの人気俳優ヨン・ゴンサレス。残念ながら冒頭でホセ・マリアにノックアウトされスクリーンから消えてしまうから、ヨン様ファンはがっかりしたはず。
※5 『アモーレス・ペロス』
“Amores Perros”2000、カンヌ国際映画祭批評家週間グランプリ、東京国際映画祭東京グランプリ他、2002公開
※6 フアン・マルセ
マルセの小説はよく映画化されるのでブログにも時々登場しますね。“El consul de Sodoma”からは、主人公ビエドマを演じたジョルディ・モリャが2010年ゴヤ賞主演男優賞にノミネートされた。
Posted by: アリ・ババ39 | Thursday, April 21, 2011 18:28
アリ・ババ39さん、いつもありがとうございます。
アリ・ババ39さんたちが東京国際の時にこの作品をご覧になったのはなんとなく覚えていましたが、そういえば感想をうかがっていませんでした。(私が未見だから黙っていてくれましたね?ありがとうございます)
>ロサに絡むかと期待したエステバン役
↑
これ、ほんとそうでしたね、何やら思惑が複雑に絡み合っていきそうな……という気配だけで、この子はあっさりとストーリーから消えてしまいましたね。思わせぶりな視線だけが残った格好となってしまいましたが、登場シーンのカットなどがあったせいだったのですね。
(一ヶ月以上前だということもあり、アリ・ババ39さんからいただいたコメント原稿を昨日読んでみた時も、正直、「エステバン……Who?」状態でした)
Posted by: Reine | Thursday, April 21, 2011 20:16