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Sunday, July 18, 2010

La Nana / 家政婦ラケルの反乱 [チリ映画]

la nana ストーリー
裕福なバルデス家で23年ものあいだ住み込みのメイドとして働いてきたラケル。バルデス家の子供たちの成長も見守ってきた。「家族の一員なのよ」。

このところ体調の優れないラケルを気遣って、夫人のピラールが提案する。「貴女のヘルプとしてもう一人メイドを雇い入れようと思うのよ」。新人のメイドに対してラケルはあの手この手でいやがらせをする。


あまり多くは語らずにおこうと思います。手短にいえば、面白かったです。私は好き。おおかたニコニコ顔で観ていたと思う。時間がかかっても人の心がほぐれていく様を見ているのはいいものだと。

youtube Radio From Hellによる監督へのインタビュー

このインタビューの中で主人公のラケルは“bitter, awful woman”と形容されています。監督も舌を出しての苦笑い。「住み込みのメイドという、アルゼンチン・チリ・ブラジル・メキシコといった中南米諸国の中・上流家庭には普通に見られる光景を描いていまして、それはかつての……」と言い淀む監督。DJが「奴隷制度の名残のような?」とつなぐと監督も「あえてそう表現しておこうと思います」。

監督自身の家庭にも住み込みのメイドがいて、25年以上も勤めてくれたのだと明かす。「メイドは若くしてそういう形態で勤め始めるので、つまりはボーイフレンドも親友と呼べる人も持てぬままその家で暮らすことになります。閉ざされた世界で孤独に生きるのです」……。


cnn Entrevista de CNN por Daniel Viotto (15 de diciembre): La película La Nana es la primera cinta chilena nominada en los Globo de Oro.


La nana@IMDb
La nana 公式
英題: The Maid
直訳: メイド

2009年サンダンス映画祭にて、ワールドシネマ・ドラマ部門グランプリおよび審査員特別賞を受賞。

監督: Sebastián Silva セバスティアン・シルバ
脚本: Sebastián Silva  Pedro Peirano ペドロ・ペイラーノ

出演:
Catalina Saavedra カタリナ・サアベドラ ... Raquel ラケル

Claudia Celedón クラウディア・セレドン ... Pilar ピラール: 雇い主(妻)
Alejandro Goic ... Mundo ムンド: 雇い主(夫)
Delfina Guzmán ... Abuela: おばあさま; ピラールの母親だろう

Andrea García-Huidobro ... Camila カミラ: 長女
Agustín Silva ... Lucas ルカス: 長男
Sebastián La Rivera ... Gabriel ガブリエル: 次男か三男

Mercedes Villanueva ... Mercedes メルセデス: 新人のメイド
Anita Reeves ... Sonia ソニア: ピラールの母のところにいた古株のメイド
Mariana Loyola ... Lucy ルーシー: 新人のメイド
Luis Dubó ... Eric エリック: ルーシーの叔父

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Comments

住み込みのメイドを描いた作品ではアルゼンチン映画の『Señora Beba(Cama Adentro)』があります。英題はズバリ、『Live-In Maid』です。

そちらも私はお薦めします。
あの作品の中での富裕層とそのメイドの主従関係は『La nana』で描かれるそれとはまた違う趣でしたが、鑑賞後に頬に浮かんでいた笑みは似ていましたね。

Posted by: Reine | Sunday, July 18, 2010 21:39

どうしてアカデミー賞チリ代表に選ばれなかったの?

A: ゴールデン・グローブ外国語映画賞ノミネート作品の中に“La nana”(英題「メイド」)を目にしたときは、思わず「やったね」と声に出してしまいました。

B: ハネケの「ホワイト・リボン」(独)、アルモドバルの『抱擁のかけら』(西)、トルナトーレの「バーリア」(伊)、オディアールの『アンプロフェット』(仏)と、ベテラン揃いの凄いラインナップでしたものね。
A: セバスティアン・シルバなんて初めて目にする名前、スペイン語圏でこそ少しは知られるようになってましたが。それにサンダンス映画祭のように《新人》に与えられる賞のノミネートじゃありませんからね、快挙です。

B: 下馬評通りハネケが受賞しましたが、シルバにとって授賞式出席の体験は貴重でした。
A: ラケル役のカタリーナ・サアベドラと一緒のプレス会見からも、その興奮ぶりが伝わってきました。

B: 当然アカデミー賞チリ代表作品に選出されると思っていたのに違った。
A: アカデミー賞なんてただの映画ショーにすぎないのに国家の力学が働くんだって思いましたよ。

Posted by: アリ・ババ39 | Sunday, August 08, 2010 13:49

B: ミゲル・リティンの“Dawson Isla 10”(2009年・9月チリ公開・直訳「ドーソン島10」)が選ばれました。
A: リティンの新作が‘2010ゴヤ賞’チリ代表作品に選出された折に、本ブログ「ゴヤ賞発表」欄に作品紹介に名を借りて、不満の一端をコメントしました

B: シルバ本人もチリ映画界の現状に疑問を呈していますね。
A: 疑問というより怒りじゃないですか。「ドーソン島10」選出は誤りだったと言ってますからね。30歳そこそこの若造の発言としてはかなり過激、おいおいそんなこと言って大丈夫、と心配したくらいです。

B: スペインでは映画アカデミーの委員会が4~5作候補を挙げて、アメリカでの反応を見極めつつ絞り込んで決定する。チリではどうなんでしょう。
A: シルバ監督がBBCやEL PAISのインタビューで語ったところを要約すると、「チリでは選考委員会はとても小規模で、その構成員は自分たちより上の世代、ウッド氏が中心で決まる。政治的色彩の濃い映画のほうが、身近なものをテーマにした映画よりオスカーには有利という風潮がある」と。
B: だから「メイド」がアメリカで成功してもチリ代表にはなれないというわけですね。

A: アンドレス・ウッドの映画はラテンビートで『マチュカ』(2007)と『サンティアゴの光』(2009)が上映され好評でした。前者は公開こそ実現しませんでしたがDVDになり、個人的には好きな監督です。やはり世代間の意識のズレを感じます。ミゲル・リティンは1942年、ウッドは1965年、そしてシルバは1979年生れです。1973年9月、ピノチェト将軍の軍事クーデタ時に何歳だったか、自分を含めて家族がどちら側にいたかで自ずと世界観は違うでしょう。
B: 独裁体制は長期に亘りましたから、どの世代も大なり小なり影響を受けています。

A: 世代というのは以前は親・子・孫と30年1世代でしたが、最近では20年ぐらいで交代する感じです。シルバ監督もピノチェトが大統領権限を強化し、独裁体制を固めた時代の教育を受けています。本作もチリの階級社会が大きなテーマですし、ヒロインのラケルは社会的な疎外感のなかで苦しんでいるんですが、それを考慮してない批評が目につきます。
B: 日本では、良くできた映画だがゴールデン・グローブ賞に残るほどの作品かどうか、ノミネート自体を疑問視する声もありました。

A: それはさておき、シルバ監督と同世代には、『プレイ』(2005)のアリシア・シェルソン(1974)や『見まちがう人たち』(2009)のクリスティアン・ヒメネス(1975)など‘高品質’の新人が台頭してきております。東京国際映画祭(TIFF)その他でご覧になった方は実感されたはずです。

Posted by: アリ・ババ39 | Sunday, August 08, 2010 13:50

タイトルは映画の顔、邦題は難しい

B: 2010ラテンビートでは『家政婦ラケルの反乱』と、大分長いタイトルで上映が本決まりになったようです。
A: 出品されなかった映画祭がないくらい各国で上映されましたが、だいたい‘メイド’か‘乳母’とそのものズバリ、観客に判断の自由を残しています。しかし、文学作品同様、映画タイトルは自由に付けていいのです。それぞれ文化や国情が大きく違いますからね。

B: ついこの間、東京国際レスビアン&ゲイ映画祭でペルー・コロンビア他合作の『波に流れて』を見たんですが、原題は“Contracorriente”で邦題には‘?!’でした。
A: 英題は“Undertow”と簡単に付けられますが、日本語は難しい。しかし、映画の字幕を見ていて「ああ、ここから採用したな」と気付きました。でも邦題はトンチンカンもいいところです。

B: 熟慮のすえに付けたのかもしれませんが、ガエル・ガルシア・ベルナルの“Deficit”が『太陽のかけら』は意味不明、キャリー・ジョージ・フクナガの“Sin nombre”が『闇の列車、光の旅』は、一歩間違うとネタバレのタイトルです。
A: 後者については、配給元の談話としてフクナガ監督から素晴らしいタイトルとお褒めの言葉を頂いたとか新聞で読みましたが、感謝の社交辞令と思いますね。映画の本質ではありません。名無しのままあの世に旅立たざるを得ない‘無名’性が大きなテーマです。

B: そう言えば、監督がタイトルはいくつも候補が挙がったけれど、最終的には“Sin nombre”しかないと思い決定したと語っていました。
A: でも「映画にピッタリの邦題」というブログもありましたよ。邦題には珍題・迷題の伝統がありますから、冷遇されているスペイン語映画をリリースしてくれるだけでありがたい。

Posted by: アリ・ババ39 | Sunday, August 08, 2010 13:51

太陽と北風、三匹の子豚

B: 政治的メッセージは感じられないし、血も流れないし、爆弾も破裂しない。これといった人権侵害があるわけでもない。じゃ人気の秘密はどこにある、そのよく練られた脚本にありますね。
A: 雇い主側といささかエモーショナルな雇い人との瑣末な対立というのは表層的でしかなく、いわんやメイド同士の対立なんかテーマじゃありません。

B: エンリケ・リベロの『パルケ・ヴィア』(2008・TIFF上映)の主人公を思い出したんですが。
A: 二人とも外部から遮断された生活が長いため現実に適応できなくなっている。外部の危険からは守られていますが、社会的な疎外感に深く傷ついている。

B: チリ社会に特有な階級社会が背景にあるのではありませんか。
A: チリに限りません。ラケルという人間について語るというより、特殊な社会形態が引き起こすアイデンティティの喪失や欠如からくる孤独や恐怖について語っていると思います。

B: アメリカの観客に受けたのは、主人と召使の階級逆転、家事の征服者であるベテラン家政婦の不機嫌にふりまわされる御主人側の心理的プロットにあった。
A: ハリウッドだけでなく古今東西《階級逆転》の映画は、ジャンルを問わずたくさん名作があります。多分、監督は研究済みでしょうね。

B: 映画祭前なので深入りできません。
A: そうですね。意外に感じるかもしれませんが、イソップ寓話「太陽と北風」や「三匹の子豚」などのおとぎ話が巧みに仕掛けられているとだけ申し上げておきます。また、ウルグアイのフェデリコ・ベイロフの“Acne”(2008・ウルグアイ他・直訳ニキビ)に出てくるメイドも参考になります。

Posted by: アリ・ババ39 | Sunday, August 08, 2010 13:52

カタリーナ・サアベドラの快演

B: 最初から監督は、「メイド役にはサアベドラ」と決めて脚本を書きすすめたと語ってます。
A: リベロの『パルケ・ヴィア』と大きく違うのは、あちらがアマチュアを起用したのに対して、こちらはプロを、それもシナリオ段階から女優を特定して作られた点ですね。

B: 成功の秘訣はサアベドラの演技に負っていることが大きい。
A: これ1作で11受賞3ノミネート、うちベスト女優賞が5個ですから大漁旗を立ててもいい。ウエルバ、ビアリッツ、マイアミ各映画祭での受賞が物を言うでしょう。

B: 日本紹介は初めてですか。
A: 完成は後になりますが、フェルナンド・トゥルエバ『泥棒と踊り子』(2009・スペイン映画祭タイトル)が最初です。しかし脇役だったせいか気づきませんでした。1968年バルパライソ生れ、90年代初めからテレビで活躍、シルバの長編第1作“La vida me mata”(2007)、第2作になる『家政婦ラケル…』、シルバの3作目となるペドロ・ペイラーノとの共同監督“Old cats”(2010)に出ています。

B: ペイラーノは、シルバの第1作の脚本を共同で執筆しています。
A: 女主人ピラール役のクラウディア・セレドンも第1作から3作目まで出演しています。1966年サンチャゴ生れ、テレビの他、シルバの全作出演ですから、サアベドラと似ています。

B: シルバの3作目が早くも完成したというのは、受賞で資金的に潤ったからでしょうか。
A: ウエルバ映画祭の金のコロン賞だけでも6万ユーロですから、新人にとっては大金です。4月にはクランクアップしていて、スペイン語タイトルは“Gatos viejos”です。これにはウッドの『サンチャゴの光』で理髪師の母親になったベルヒカ・カストロも出ています。シルバの第1作にも出ている。

B: 渋い演技が印象に残っています。
A: 新人に限らず成功作のあとは辛いといいます。「前よりいいのを作りたい」病に罹ります。3~4年空く人もいるくらい。そういう意味では快進撃か怖いもの知らずか、どっちでしょう。

Posted by: アリ・ババ39 | Sunday, August 08, 2010 13:52

第4作は子供のホモセクシュアル

B: スピード狂かもしれません。監督の紹介が未だでした。
A: 1979年サンチャゴ生れ。最初はイラストレーターを目指していて、カナダのモントリオールでアニメの勉強をした。そのうち物語を書くことに魅せられ脚本家に鞍替え、最初のシナリオが第1作となる“La vida me mata”だそうです。

B: 冒険好きな青年像が浮かび上がります。結局、自身で監督することにしたわけですね。
A: 前にシナリオを褒めましたが、ちゃんと基礎を勉強したからなんでしょう。第2作の撮影場所は両親の家だそうで、15日間で撮った。自分の家にもメイドがいたと言ってましたね。

B: チリの人口は約1697万人(2008)に対してメイドの数が50万人以上だそうです。
A: ゼロが一つ多いのでは? 確かに社会のシステムとして特殊だし、ドクター論文が書けそうな興味のある国民性です(笑)。 

B: 新作は、1960年代のハリウッドの問題作が背景にあるとか。
A: マイク・ニコルズの『バージニア・ウルフなんか、こわくない』(1966)の雰囲気があるそうです。エリザベス・テイラーが中年女性を演じるため、スナック菓子を食べて70キロまで体重を増やしたことまで話題になった。
B: 当時、離婚の危機にあったリチャード・バートンが相手役、映画と実人生が重なって凄みがあった。
A: それとサイコ・サスペンスの大傑作、ロバート・アルドリッチの『何がジェーンに起こったか?』(1962)、ベティ・デイビスとジョーン・クロフォードが姉妹役で火花を散らした映画。

B: ハリウッドのクラシック映画を研究してるんですね。
A: 老いの不安を感じはじめた母親にベルヒカ・カストロ、娘にクラウディア・セレドン、彼女の‘恋人’にサアベドラ。
B: うーん、待ち遠しい。


A: 4作目も走り出している。タイトルも決まって“Second child”、ニューヨークに飛んで子役選びをした。シナリオはかなり複雑で、ホモセクシュアルな8歳の少年が主役らしい。製作者はリー・ダニエルズ。
B: 今年のアカデミー賞でも話題になった『プレシャス』の監督ですね。日本でも公開された。
A: 最初は製作者だったのね。初めて製作した『チョコレート』(2001)で、主演女優ハル・ベリーに黒人初のオスカーをもたらしたことで大騒ぎになった。忘れがたい作品、監督としては遅咲きですね。


B: まず、ラテンビートで『家政婦ラケル…』をご覧になって下さい。
A: 監督来日がないのはホントに残念。

Posted by: アリ・ババ39 | Sunday, August 08, 2010 13:53

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