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Sunday, February 14, 2010

Sin Nombre / 闇の列車、光の旅 [メキシコ映画]

sin nombre公式サイト(邦題『闇の列車、光の旅』)からストーリー紹介:
ホンジュラスに住む少女サイラ。よりよい未来を求め父とアメリカを目指すことにした彼女は、移民たちがひしめきあう列車の屋根の上で、カスペルというメキシコ人少年と運命の出会いを果たす。彼は、強盗目的で列車に乗り込んだギャングの一員だが……略…………

サンダンス映画祭 監督賞・撮影監督賞 受賞作品

・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆


紹介文に「カスペルはギャングの一員」とありますが、それがつまりこないだちょっと書いたマラ・サルバトルーチャです。あれはこの作品を観るにあたってちょっと助けになると思う。

ただ『Sin nombre / 闇の列車、光の旅』という映画はマラ・サルバトルーチャの構成員の生き方ばっかりではなくて、中米の人々が北米への不法入国を目指す様をも同時に説明しています。

『闇の列車、光の旅』は今年の初夏に全国順次公開です。面白いです。是非。


とても佳い作品であるのはたしかだけれども、私の好き嫌いを言うなら、苦手といえば苦手ジャンルですということ。私は苛酷な現代事情を描き出すといった作品はなるべく観ないようにしているので。観たくないんだよ、私は映画の中では人々は浮かれてて欲しい。

それから私は不法移民という事象に対しては非情とも言えるスタンスを保つことにしているので、このようなテーマの映画を観て悲しいなどと感じることを日頃から自身に許していないというのもまた「苦手」とした理由の一つではあります。


人が絶望したり死んだりする絵図は見ていればそれは悲しいものでしょう。私だってこの映画の何箇所で泣いたかしれない。

それでも、「かなしい……」「かわいそう……」というその感想は、たとえば我が国の不法滞在者にまつわる社会問題とは切り離して考えなければならないでしょ。この映画で映し出される移民がかわいそうに思えるということと、現実に我が国に在る不法外国人がかわいそうなのかどうかというのは全く別モノであるということ。そこのところはハッキリと自分の中で分けておきたい。そういうのはうっかり混ぜちゃダメなの。「混ぜるな危険!」なの。

……って、こんなこと言ってる私がむしろ誰よりも混ぜてるのかもしれんがね。



より大きな地図で Sin Nombre 闇の列車、光の旅 を表示

(つづきはコメント欄で。私はあまり書けないけどたぶんアリ・ババ39さんたちが書いてくださる)

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Comments

闇の列車、光の旅 公式
Sin Nombre@IMDb
Sin Nombre
(直訳: 名も無くて)

闇の列車、光の旅@goo
闇の列車、光の旅@映画生活
闇の列車、光の旅@象のロケット

監督・脚本: Cary Fukunaga (Cary Joji Fukunaga) キャリー・ジョージ・フクナガ 

Édgar Flores エドガー・フローレス ... El Casper カスペル(MSでの呼び名)/ Willy ウィリー: フクナガ監督の脚本ではカスペルは17歳という設定。

(最初のうち私は、この子は役者じゃなくてよくある「現地のリアルなギャングが目に留まって出演させた」パターンかと思ってました。あのタトゥーもほんものとばかり。実際は俳優としてキャリアも短くないようです)

Diana Garcia ディアナ・ガルシア ... Martha Marlene マルタ・マルレーネ: カスペルのカノジョ

Kristian Ferrer クリスティアン・フェレール ... El Smiley スマイリー(MSでの呼び名)/ Benito ベニート: 脚本では12歳

Tenoch Huerta テノッチ・ウエルタ ... Lil Mago リル・マゴ: ギャング団の頭
(タトゥーがタトゥーなので気づきませんでしたが、役者名をIMDbで見て、ああ『Deficit / 太陽のかけら』の彼かとわかりました)

Luis Fernando Peña ルイス・フェルナンド・ペニャ ... El Sol ソル: その右腕

Paulina Gaitan パウリーナ・ガイタン ... Sayra サイラ: ホンジュラスの少女、監督脚本では15歳

Gerardo Taracena ヘラルド・タラセナ ... Horacio オラシオ: サイラのお父さん。長い間アメリカに行っていたけどこのたび弟オルランドと娘サイラをもアメリカに移民させるために戻ってきた

Guillermo Villegas ギリェルモ・ビリェガス ... Orlando オルランド: オラシオの弟、つまりサイラの若い叔父

Posted by: Reine | Sunday, February 14, 2010 16:28

ちょっとサイラとオラシオの父娘の関係がよくわからなかったのだけど、こういうことだろうか?

オラシオはまずホンジュラスで結婚してサイラという娘を授かったけども、そのときの妻は亡くなったかどうかしたのかな。

それでサイラを老母に預け、自分は独りで合衆国に渡った。

渡った先でYesseniaという女性と家庭を持ってその新しい家庭で2人の娘を授かりこの数年はそのように暮らしてきた、と。こういうことだろうか。


オラシオが地図を取り出して「あとニュージャージーまでこれだけあるんだ」と説明したついでに家族写真をサイラに見せるシーンについて、監督の脚本にはこのように書いてある:

「女性が4~5歳の少女二人を抱いておりオラシオもその後ろに立って微笑んでいる。その写真はサイラにとっては父親がこの10年間誰と暮らしてきたかを思い知らせるものなので好い感情を持てない。

オラシオ: Yesseniaはお前のお母さんほど美人じゃあないんだ。でもハートはすごくいい人なんだよ。

オラシオ: (この写真を)持っていなさい。もうお前の家族なんだから。
サイラ: お父さんの家族の写真は別に欲しくないわ

オラシオ: なにもかも水に流してくれとは言わない、ただああするしかなかったんだってことはどうかわかってほしい

サイラ: ねえ、オラシオ、父親と娘みたいに振る舞わなくったっていいじゃない。友達である必要だって無いわよね。私はもう大人だと思ってるから。あなたは私を連れていってくれる、そして私はそれには感謝してますよってことでしょ。」


お父さんが10年ぶりにサイラと会うシーンでお父さんの帽子のつばが毛羽立ってるのが辛くて悲しくて、私は早くもその毛羽で泣いた。いまあの毛羽を思い出すだけでインスタントで泣ける。

Posted by: Reine | Sunday, February 14, 2010 16:50

語句メモ(ほとんどないけど)
・jaina: カノジョ という意味か
Que significa jaina ? - Yahoo! México Respuestas

・homies: 仲間,メンバー くらいの意味か
Que son homies? - Yahoo! Respuestas
Uneabasto.com - Mara Salvatrucha, una nueva generación?:
・Jomboy, Jomi: Compañero mara, apelativo hacía otro de la misma mara. 

(⇒ こないだのドキュメンタリーでミリアンが今働いているのがHomies UnidosというNGOだった)

Posted by: Reine | Sunday, February 14, 2010 16:52

カスペルの首もとのタトゥーが読めなかったのだけど、脚本によると「perdoname madre mia」と書いてあるらしい。

それから涙の形のタトゥーは殺した人間の数を示しているとか
Q significa un Tatuaje de Lagrima en la Cara? - Yahoo! México Respuestas

Uneabasto.com - Mara Salvatrucha, una nueva generación?:
Los tatuajes son otra forma de expresión de los Maras, y cada uno tiene un significado en particular, por ejemplo: ……略…… Lágrimas: A veces, cada una significa un asesinato; otros se las pintan para ganarse el respeto.  

Posted by: Reine | Sunday, February 14, 2010 16:58

そのほかメモ
・合衆国行きを決めあぐねているサイラに叔父のオルランドが、「ここにはなんにも無い、サイラ、なんにも」。

・長旅の途中で父親オラシオがサイラに、「アメリカまで辿り着けるのは今ここにいる人間の半分もいないだろう」。

・カスペルたちはMS13の組織だから敵対するのがM18。カスペルが腹の銃弾だかの痕を見せて「これは18の連中にやられた時の傷」というシーンがあった。


・brinco(イニシエーションのリンチ)の後にベニートが鼻血やら口からの出血やら涙で顔中ぐちゃぐちゃにしながらも微笑むのを見てリル・マゴが嬉しそうに「こいつ笑ってやがる」と言い、ベニートのあだ名がEl Smileyに決まるなんていういきさつは、こないだのドキュメンタリーのミリアンの呼び名がLa Happyに決まったそれを思い出させるものだった。

強烈なおばあちゃんに守られているかに見えるベニート少年12歳がどうしてマラスのメンバーになろうとしたのか、その理由は説明されてほしかったなとは思う。ベニート少年は最初のシーンでは学校に行っているような制服姿である。その少年が学校を放棄する決断をするわけだから。説明があってもよかったと思う。ちょっとくどくあざとく長くなってもいいから。そのコンテクストが無いのはなんかもったいない気がした。


・ベニート=スマイリーを新メンバーとして迎え入れリル・マゴが「もうお前は俺達の仲間だ。何千人も仲間がいる。どこに行っても絶対に助けてもらえる」と言う。彼らの居る南メキシコからLAに至るまで(あるいはその先まで)ずっと組織が続いているということ。

・そしてこのセリフは、ひとたび仲間から追われる身となった場合の絶望的な状況をも説明している。

・助け船を出してくれる人もいるけれども、その人だって組織全体を敵に回すわけにはいかないから、「黙っていてくれるよね」などと念を押してみたところで「うん、黙っててあげるよ」とは決して答えまい。「正しいことをするまでよ」という巧い返事だけ。その辺のやりとりはギャングの世界で生きる者にとっては阿吽の呼吸というやつなのだろうな。

Posted by: Reine | Sunday, February 14, 2010 17:13

リル・マゴがミーティングの席で発表する。「収監されている仲間の身の安全を確保するのにもっとお金が要る」。

こないだのドキュメンタリーで刑務所内の様子が説明されていたけど、看守を買収して便宜を図ってもらったりするのにお金が要るってことでしょうか。


というわけで、リル・マゴはスマイリーとカスペルをしたがえてお金を集める旅に出るのだが、んんんん、なんていうのかね、腐ってやがるね。腐れ外道だよ、ただの。仁義もなにもない。

社会の最も弱い層の人間が最も弱り切っている時にその人にとっては命そのものであるお金を毟り取るんだから。

こういう社会のダニの人殺しどもがいっちょまえに仲間の死を悼んで泣き濡れてやがる姿なんて、正直、反吐が出るわ。

Posted by: Reine | Sunday, February 14, 2010 17:33

ここはちょっとストーリーに触れるので

↓↓

粋がったんだか興味本位だかなんだか知らないが、だいたいあのカノジョが墓場にのこのこ顔出したりしなきゃあんなことにはならなかったのにって思うんだけど。

IMDbの掲示板の「REASON WHY HIS GIRLFRIEND WAS A SECRET...」というスレッド:
“……略……they have to share the girls (bops, hoes, etc). The girls have to get tossed-up (sexed), by each male belonging to the gang in order to join the click. There is no private life for the males, you commit to revolving your life around the gang.……略……”

こう書いてあるのだけど、その辺のなにか“学術的”な記述がどこかのサイトにありますか。あれば教えて下さい。


でも別の説明をしているサイトも見かけた:
Uneabasto.com - Mara Salvatrucha, una nueva generación?
「……略……Entre las principales reglas o mandamientos de la mara o barrio 18, están: no drogarse, no se permite la droga, no está permitido quitarle la Jaina o Jonguer a un Jomi,……略…… (他のメンバーからカノジョを奪ったりしてはいけないというのが大原則の一つとしてある)”」ってさ。

ただし、これはM18についての記述だけどね。(※カスペルたちはM18じゃなくてMS13の人)

まあさ、ルールに書いてあるか書いてないかはともかく、やっぱりあの娘さんはあんなとこにのこのこやって来るべきではなかったんだ。まわされちゃうかもって思いそうなもんだけどな。

って言っても、あれがないと映画が動かないのでしょうがないのだけども。「おまえ、何しに来たんだよ!」って、カスペルよりも先にあたしがビックリしたわ。

Posted by: Reine | Sunday, February 14, 2010 17:45

まあ、データを見てもしょうがないんだけど

海外安全ホームページ メキシコ
グアテマラと国境を有するチアパス州は、経済的に貧しく、治安も不安定な地域です。同地域は中南米からの麻薬密輸ルートでもあり、特に国境地帯は麻薬組織など不法集団の活動が活発な地域です。

ユニセフによる、平均余命とかのデータ 日本

おなじく ホンジュラス 
おなじく メキシコ
おなじく エルサルバドル

10代20代男子がどういう理由で死んでいるかっていう各国比較データがあればそれを見てみたいと思った

Posted by: Reine | Sunday, February 14, 2010 18:00

先夜のセルバンテスでのQ&Aで、私はたとえばフクナガ監督が『La vida loca』のChrisitian Poveda監督(の死)について何か考えたか(=たとえば自分の身にも危険を感じたりしたことはなかったのかとか)、みたいなことが質問されればいいなと思っていたのだけど、そのような質問はなかったですね。というか、時間が足りてなかったのかな?

その辺について友人からのメール
ポベダ監督の死は昨年9月だから、『闇の列車~』はすでに完成、フクナガ監督は作品を抱えて映画祭を回っていた時期のこと。

しかし、かなりマラ・サルバトゥルチャに密着してリサーチしましたから、ギョッとしたかな。よく生きていられたと思いますね。最初は警察官同行で接触したような記事を読みました。更に2人のホンモノのメンバーから、シキタリを教えてもらったようです。


そういえば……「警察官」で思い出したけど、クリスティアン・ポベダ監督殺害に関して5人の逮捕者が出ているけど、うち一人は警官なんだよね、たしか。

Posted by: Reine | Sunday, February 14, 2010 20:22

A: 本作については、以前アマ・エスカランテの『よそ者』(ラテンビート2009上映)関連映画として触れたことがありました。公式サイトはキャリー・フクナガの表記ですが、その時は「ケイリー・フクナガ」でご紹介いたしました。
B: でも、「日本でも公開できそう」の予想は的中しましたね。

A: ラテンビートに『よそ者』を紹介しようとする過程で、ドキュメンタリー“La vida loca”(2008、西仏メキシコ合作だが大半の資金はフランス、英語タイトル“Crazy life”)の監督クリスチャン・ポベダ暗殺のニュースが飛び込んできました。有名な報道カメラマンでしたから、欧米各国メディアが一斉に報道し、簡単でしたが日本でもね。それでサンダンス国際映画祭に“Sin nombre”を出品して監督賞を受賞したフクナガ監督はどうしているかなぁ、と心配になりました。
B:  2作品はジャンルこそ異なりますが、ともにマラ・サルバトゥルチャMara Salvatruchaをテーマにしていたからですね。

A: ポベダ監督はフランス人、1980年代のエルサルバドル内戦、またイラン・イラク戦争、レバノン戦争、軍事独裁制時代のアルゼンチン、チリ、ペルー内戦と、戦場を駆け巡った報道カメラマンでした。先日行われたゴヤ賞授賞式の「惜別」にも、スペイン系なので映像が流れました。
B: 前年1年間に亡くなられたシネアストを偲ぶコーナーですね。

Posted by: アリ・ババ39 | Saturday, February 27, 2010 13:47

マラ・サルバトゥルチャって何ですか?

A: さて、本作はメキシコのチアパス州タパチュラのMS13、ポベダ監督の“La vida loca”はエルサルバドルの首都サン・サルバドル近郊のMS18と、ジャンルだけでなく国もグループも違います。この敵対する二つのギャング組織についてはレイネさんがディスカバリーチャンネルの項で詳しく解説しております。ここでは簡単なおさらいだけにいたします。
B: MSの語源については、いくつか異なる見解があるようですが。

A: 一般に流布している説を紹介すると、Maraはギャングが住んでいたサン・サルバドルのLa Mara通りの名前からというもの、またスペイン語の「Marabunta」、アリの集団がぞろぞろ移動する意味から無分別な混乱を引き起こす集団、つまりギャングとかマフィア、暴力犯罪組織のことから名づけられたというのが代表例です。
B: 数字の13とか18は通りの番号ですね。

A: そのようです。Salvatruchaは「Salvadoreno サルバドル人」+「truchaトゥルチャ」、truchaは「用心深い、抜け目がない」という意味です。犯罪の種類は、国によっても時代によっても内容が多様化していて、一概にコレコレだと定義出来ないようです。
B: 手広く麻薬や武器密売、殺人請負が生業のいわゆる「死の商人」の支部もあれば、不法移民の手引き、ゆすり、たかり、いわゆるカツアゲ、窃盗が主たるゴロツキ支部もあるようです。発祥の地は、カリフォルニア州ロスアンジェルス近郊の都市と、アメリカなんですね。

Posted by: アリ・ババ39 | Saturday, February 27, 2010 13:48

A: 1980年代に、主にエルサルバドルからの移民が住んでいたピコ・ユニオン市のギャングが起源です。故国では1980年代というのは「血の内戦」が起きていた時代、銃砲携帯のゲリラや逃亡兵士も含めてエルサルバドルからは50万人にも及ぶ人々がアメリカに流入したと言われてます。
B: まさにモーセのいない《エクソダス》ですね。

A: アメリカではエルサルバドル人はもともと穏やかな性格の国民と思われて、既成のメキシコ人とかアフリカ系アメリカ人のギャングの餌食になっていた。タテマエは彼らから同胞を守るため組織されたとも。MS13はエルサルバドル系、MS18はメキシコ系といわれてますが、今では混在して、中米諸国、アメリカではバージニア、ワシントンDC、カナダや欧州にも拡大しているそうです。最近のデータによると、エルサルバドルでは1日平均11人が殺害されているということです。
B: 二つの組織の殺し合いには、イデオロギーとか政治信条や信仰の違いはなく、貧乏人同士の闘いなんですね。

A: MSがエルサルバドル以外のホンジュラス、ニカラグア、グアテマラに拡大した理由は、クリントン大統領時代に不法移民や犯罪者を出身国に強制送還する政策が本格的に実施されたからです。
B: アメリカも増加の一途をたどる組織犯罪をほっておけなくなり、1980年代末から90年代にかけて本格捜査を開始、容赦のない摘発で逮捕した犯罪者を強制送還したようです。その中には犯罪や病気で親を失った孤児、親が収監されて保護者を失った子供も含まれていた。

A: 孤児は故国に戻っても孤児に変わりなく、行く先は知れていますね。エルサルバドル人移民50万のうち30万が故国に戻されたと言いますから、その中には当然MSメンバーもいたわけです。特に9・11後はアルカイダとの接触が懸念されて拍車が掛かったようです。

Posted by: アリ・ババ39 | Saturday, February 27, 2010 13:49

成功したドキュメンタリードラマ

B:  “Sin nombre”『闇の列車、光の旅』はドラマといってもドキュメンタリーの要素が強いですね。
A: ジャンルとしては、ドキュメンタリードラマ(docudrama)、監督もリサーチに2年間かけたということです。本作が第1作にもかかわらず日本で公開されるには、二つのジャンルに跨っていることがあると思います。ドキュメンタリーだけより比較的受け入れやすいですから。

B: ありそうもないフィクションは食傷気味、厳しい現実はテレビニュースでもうタクサン……
A: 地道な取材による社会派ドラマの要素と、若い二人の愛を絡ませつつ<家族の絆>というエンターテイメントの2本の糸を巧みに縒り合せることに成功した。
B: アドベンチャーやスリラーの視点を盛り込んだことも成功の秘密かもしれません。

A: 観客を置き去りにしなかったことです。これは観客におもねっているのとは違います。他にも撮影監督アドリアノ・ゴールドマンの映像美、メキシコを縦断する列車から撮ったと思われる美しい夜景と列車で運ばれていく不法移民の不潔さや過酷さのコントラストに感心しました。
B: メキシコの明と暗を象徴しているかのように思えました。ゴールドマンは「2009サンダンス国際映画祭」で最優秀撮影監督賞を受賞しています。

A: もう一つメキシコ・アメリカ合作ということがあります。ご存じの通り本作は、1月のサンダンス国際映画祭を皮切りに各地の映画祭で受賞しています。2月にはベルリン映画祭開催中の業者向けフィルム・マーケットに出品、3月にはアメリカで公開された。これが大きいのです。
B: その後のグアダラハラFF、トロントFF等々の快進撃は、公開チラシにあるとおりです。

A: 英語版DVDも既に発売されて、フクナガ監督は苦労が報われました。リサーチ中にはずいぶん怖い目にも合ったでしょうが。
B: セルバンテス文化センターの特別試写会の抽選に当ったとか。監督講演もあったのでしょう。そのことは話に出ましたか。

Posted by: アリ・ババ39 | Saturday, February 27, 2010 13:49

苦労したのは脚本作り 本当に体験した闇の列車

A: まず監督から参加者とのQ&Aに時間を割きたいという申し出があり、急遽ゲストお二方を交えてのシンポジウム形式に変更されました。かなりマスコミ関係者が出席していたことから、監督としては質疑応答で反応を確認したかったのではないでしょうか。
B: ゲストの方は難民や移民支援救済の仕事をしておられる方とか。

A: そういうことで、Q&Aも映画より難民移民に偏ってしまったんです。ここでは映画に関する話を中心に、私の意見も加味してお話します。進行役も務められたシルビアさんから、監督の簡単な紹介、1977年カリフォルニア州オークランド生れ、母親がスウェーデン人の日系4世、映画を勉強する前に歴史と政治学を専攻したこと、サンダンスFFなどでの受賞歴、この映画の原点が2004年の短編“ Victoria para chino ”(13分)にあること等が紹介されました。

B: その短編のテーマは不法移民の実話が基になっているそうですが。
A: シンポでは内容には言及されなかったんですが補足すると、2003年5月、テキサス州ヴィクトリアの山中に打ち捨てられたトラックの中から窒息死した17名の不法移民が発見されたという事件です。このニュースは世界中に流れました。これを基にして作ったのが2005年のサンダンス短編部門で認められ、続いて各地の映画祭でも受賞した。サンダンスのワークショップで指導教官から移民問題についてのシナリオを書いてみないかという誘いを受け、それがそもそもの始まりだった。

B: じゃ、監督ではなく脚本の要請だった?
A: でも、最初から自分で監督するつもりだったようですよ。何回も書き直して、下書きのOKが出るまで2週間くらいかかった。このテキスト作りが大変だった。このワークショップでは、プロの俳優とスタッフを使って本格的な撮影ができるそうです。
B: 監督は今までそういう経験がないから感激したでしょうね。

Posted by: アリ・ババ39 | Saturday, February 27, 2010 13:50

A: サンダンスの指導監督の一人キース・ゴードンKeith Gordonは、「キャリーは大きな階段を一段登った。彼には飛躍が必要だった」と述べています。ゴードンは、日本では監督というより若手スターとしてのファンが多い。
B: 監督第1作『チョコレート・ウォー』(1988)が公開されDVDにもなっています。

Reine注: いまアマゾン.co.jpだとVHSしか見つけられずにいます)

A: ゴードンが「キャリーは鋭い社会意識を組み合わせたヒッチコック流の映画を作れる」とヨイショしてくれた。そのことが励みになって、自分にも商業的に成功可能なフィルムが作れるのじゃないかと考えたそうです。
B: ゴードンとの《出会い》が、彼に幸運をもたらしてくれたわけですね。

Posted by: アリ・ババ39 | Saturday, February 27, 2010 13:52

A: サンダンスはユタ州ですから、危険な国境も貨物列車もない。2005年の夏、メキシコに出かけ、貨物列車の屋根にのって中米各地からやってくる不法移民の実態をリサーチした。それが「列車の屋根にのって越境してくる」という本作の1本の柱に決まったわけです。
B: 一般のアメリカ人はそういう実態まで知らないでしょうね。

A: 監督自身も「屋根にのって越境してくることは知らなかったので衝撃を受けた」と。それで自分も列車の体験をしなくちゃと思ったそうです。
B: それはサンダンスやサン・セバスチャン国際映画祭でのインタビューでも話されていた。屋根の上には700人も乗っていたとか、友人たちは尻込みしてしまい自分一人で乗り込んだとか。

A: そうですね、リサーチには短編製作の仲間と出かけた。チアパスのタパチュラで偶然二人のホンジュラス人と出会い、寝起きも一緒のまさにカオスの72時間の旅だったそうです。ネタバレになりますので言えませんが、その体験は盛り込まれています。自分は下車しようと思えば下車できる身分だが、彼らはそうじゃないともね。
B: 唯の冒険旅行でなく生死を賭けた旅ですね。映画にも「乗ってる半分が辿りつけない」というセリフがあった。

Posted by: アリ・ババ39 | Saturday, February 27, 2010 13:52

A: シンポでは、マラ・サルバトゥルチャとの接触は苦労の連続だったが、困難だったのは二つのストーリーを一つに纏めることだった。とにかく収集したデータをちゃんとした物語に完成するのが大変だった。中心にキャスパーとセイラ(字幕はカスペルとサイラ)をもってきたのは、アメリカの観客に受け入れやすくするためで、テーマは《家族の絆》と《偶然の出会い》であり、MSの政治的解決がメッセージではない。また自分の祖先も1世紀ぐらい前に移民してきたわけで、だからと言って無制限に門戸開放できないし、現実には移民問題に答えがない、という主旨のことを述べました。

B: 映画は社会的教訓を目指したものではなく、彼らとまったく違う世界にいる観客に何かを感じてもらえたらということかな。不法移民やMS問題は重要ではあるが主眼でないということですか。

A: そうはっきり述べたわけではありませんが、私は本作のテーマを「崩壊した家族が出会いによって再生する」というように解釈しました。この映画は一般の人々とはかけ離れた物語ですからね。
B: サイラの父親が故郷に置き去りにした一人娘をアメリカの新しい家族に加えようと再び危険な旅に挑戦するのは、一度はバラバラになってしまった家族を再生させるためです。

A: 血はつながっておりませんが、MSも居場所を失くした人々がつくる《擬似家族》です。そしてカスペルとサイラの二人は、列車の屋根で運命的な《出会い》をする。
B: 列車の旅で二人のホンジュラス人と偶然に出会ったことが、サイラの家族をホンジュラス人にしたのかもしれない。

A: アメリカへの不法移民がメキシコ人とは限らないということもあります。常に政治不安と貧困があり、とにかく《北の楽園》を目指す人は後を絶たない。それは暴力的とも言える経済格差の存在、経済格差と言えば聞こえがいいですが、言い換えれば「飽食できる人」と「飢え死に寸前の人」ということですよ。するとかなりイメージが変わるのではありませんか。
B: 苦労してアメリカに辿りついても困難が待っている現実を知っていても、自分は成功できるという夢は捨てられない。成功談は語られても、“Sin nombre”のまま葬り去られた人は語られない。

A: 夢というか希望を持つことの大切さもテーマかな。2008年のリーマンショック以降、送金額が減っているようです。それでも「ホンジュラスの農民の場合は現金収入が少なく、1日約3ドルぐらいで生活している。何といっても差がありすぎます」と監督は話されてました。

Posted by: アリ・ババ39 | Saturday, February 27, 2010 13:53

原題“Sin nombre”      

B: 原題についての質問はありませんでしたか。
A: シルビアさんより邦題は全然違ったタイトルになったと説明がありました。監督からは「最初から考えていたタイトルであること、名前を持っていないということは、人間が悪い状態にあること、最悪の状態にあるときに使う言葉。不法移民のなかには死んだとき名前が分からず無名のまま葬られるし、ギャングでも同じことが起こる。もっとインパクトのある案も出されたが、この題には奥に深い意味が隠されているので、改題しないで良かったと思う」主旨のコメントがありました。

B: 各国ともシンプルに、そのものズバリのタイトルですが、邦題は少し情緒に流れましたね。
A: ええ、原題には不法移民とMSメンバー両方の無名性が掛けてあります。つまりMSのメンバーは実名ではなく組織内だけで通用する名前で呼ばれる。実名を消してしまって仮名での人生を送っているから、死んだときは同じ「馬の骨」です。生ゴミやガラクタのように捨て去られるシンボルとしてタイトルは付けられたわけです。

B: 顔を持たない、アイデンティティー喪失の人間ですね。主人公カスペルの実名はウィリーです。“La vida loca”でも、バンバンとかスパイダーとか全員仮名を名乗っていました。
A: ハッピーという名の女性メンバーは、皮肉にも体中蜂の巣になって入院、やっと退院した自宅でボーイフレンドの死を聞かされる。カスペルの弟分ベニートもイニシエーションに合格したあと、痛さと嬉しさで泣き笑いしたので、親分リル・マゴが《スマイリー》と名付けた。自分で実名が付けられないように、仮名も親分が付けるのかもしれない。

Posted by: アリ・ババ39 | Saturday, February 27, 2010 13:53

B: 擬似家族の結束のためにも、ここだけで通じる名前が必要なのか。実名を捨て去り、体だけでなく顔面にも刺青を入れて組織への忠誠を誓う。ここが自分の本当の家であり、元の家には戻りませんという証明です。
A: 元に戻ろうとしても、あれだけ盛大な刺青ではカタギの世界には戻れません。映画の結末は最初から観客に暗示されていますが、それでもスリラーとしての商業性を残し、長編第1作とは思えません。新人登竜門であるサンダンスに多くみられる素人ぽさがないですね。

B: 監督はリアリティーを求めて、MSメンバーと生活を共にしている。
A: 二つのMSグループのうち3人のホンモノのメンバーに接触できたそうです。また警察の許可のもと、麻薬密輸で収監されていた人々の取材、グアテマラとメキシコの境界線であるスチアテ河に架けられた梁も見学したそうです。

B: 徹底して取材しないと気が済まないタイプの監督ですね。
A: でもドキュメンタリードラマを撮るには欠かせない作業とも言えます。厳しく注文すると、マルタの人格に代表されるように、シナリオには強引すぎる筋運びや綻びも若干ありますね。

Posted by: アリ・ババ39 | Saturday, February 27, 2010 13:54

エドガー・フローレスが発するオーラ

B: 映画の成功には若い新人3人の演技によるところが大きい。
A: レディ・ファーストでいくと、サイラ役のパウリーナ・ガイタンは、9歳のときからTVや映画に出演しているメキシコの女優。 Marco Kreuzpaintnerの“Trade”(2007独米合作)の13歳の少女アドリアナ役で注目された。本作では15歳、主役級はこれが最初。

B: ホンジュラス人ではないんですね。
A: 監督はサイラ役にはホンジュラスの女性を探していたので、ガイタンにはディアナ・ガルシアが演じたマルタ役を割り振ってシナリオを渡した。ところがガイタンが「サイラ役をやりたい、やれないならこの映画から下りる」と。

B: サイラの性格にそっくりですね。サイラは感じやすい女の子だが強い意志の持ち主。
A: 自分に似ていて自分も同じような問題を抱えていたから、どうしてもサイラをやりたかったそうです。役作りには監督に自分の意見もどんどん言って採用してもらったと。

B: 当然撮影に入る前に、越境してくる不法移民の実写やレクチャーを受けた。
A: 参加者全員が受けた。列車での越境は知らなかったし、実際撮影に入って、監督から「屋根に上れ、今度は下りろ。もう1回やり直し」と檄が飛ぶと、映画じゃなく本当のことのように胸がドキドキした。メキシコ人はアメリカでの同胞のひどい扱いに文句を言ってるが、自分たちも中米からの移民に同じ感情を持っている。それをこの映画が教えてくれたとコメントしてます。

B: メキシコでは中米からの越境者を快く思わない人も多く、貧乏人が貧乏人を差別している構図が映画からも窺えました。

Posted by: アリ・ババ39 | Saturday, February 27, 2010 13:54

A: カスペル役のエドガー・フローレス、ホンジュラスの首都テグシガルパ生れ。だからメキシコの観客からは「カスペルのアクセントはメキシコ人と全然違う」と文句がでた。
B: ホンジュラス人のサイラをメキシコ人のガイタンが演じ、メキシコ人のカスペルをホンジュラス人のフローレスが……ちょうど反対になった。しかし本当に素晴らしい役者、成功のカギは彼が握っていると思う。

A: 第1作がホルヘ・ルケJorje Lukeの“Provocacion”(2000メキシコ)で脇役を演じただけですから、今回のカスペル役は大抜擢と言っていい。IMDBを見ると、エンリケ・ロドリゲスの“El cuarto oscuro”(2008メキシコ)で撮影技師をつとめていますね。あるインタビューで「将来の夢は自分で映画を作ること」と答えているのは、あながち夢物語ばかりとは言えないようです。

B: 未来を諦めた若者と未来を諦めない少女の愛の物語ともいえます。カスペルは17歳にして人生に見切りをつけてしまった若者。MSのメンバーだがグループに違和感を感じている。マルタのいない今、もはや失うべきものは何もない。いつ寝首を掻かれるか分からない恐怖から目を開けたまま眠る。
A: そういう複雑な青年の諦観をうまく表現していた。フローレスは「映画に出られるなんて考えたこともなかったが、今では出られたことを神に感謝している。別の人生を演じるという熱中できるものが見つかったから」と。

B: スマイリー役がクリスチャン・フェレールの映画デビュー作です。
A: この映画に出演するために猛勉強しなければならなかったでしょうね。MS関係のドキュメンタリー・ビデオを見せて、歩き方、話し方、仲間同士でやる手のサイン、刺青、殺害方法など、監督が細かく指導したようです。

B: そのための長期間に及ぶリサーチでした。
A: イニシエーションのシーンでは「ほんとに痛くて、でも入会できた喜びを表現しなければならなかったから難しかった」と、フェレールはインタビューに答えてます。ポベダの“La vida loca”のフィナーレがそうだったように、イニシエーションは組織存続のための重要儀式ですね。今年公開される作品にも出演して、これからどう育っていくか楽しみです。


最後に、本作は夏公開になります。シンポの終りにフクナガ監督からも「その節はご友人にも宣伝して、もう一度映画館に来てください」というメッセージを受けました。

Posted by: アリ・ババ39 | Saturday, February 27, 2010 13:55

>>この映画で映し出される移民がかわいそうに思えるとい>>うことと、現実に我が国に在る不法外国人がかわいそう>>なのかどうかというのは全く別モノであるということ。

こんにちわ。私はかつてアメリカで、今日本でも、もこの映画に出てくるような人と深く関わっています。
私は別物でないと思っていますが、全く別物とまでいわれるのはなぜでしょうか?

Posted by: akemi | Wednesday, March 31, 2010 09:38

映画は映画、現実は現実、ということでまず全く別物でしょうし、国も違う・地理的状況も歴史的状況も違う、そういう別個の国の問題を描いているのだから、違うと思っていますよ。上記はそういう単純な文章のつもりです。

別物でないと思っていらっしゃるという貴見は謹んで承りました。

Posted by: Reine | Wednesday, March 31, 2010 10:00

こんにちは。
英語字幕のみで見まして、なぜだか字幕のスピードが速く(感じて)あまり理解できていない点があったので、ここを見てはっきりしました。
ほとんど中南米を舞台にした映画を見たことがなかったのですが、冒頭から、「ここにいても未来がない」こと、「だからといってアメリカに逃げてまっとうな生活を築けるのかという不安」を感じました。
唯一抜け出せるとしたら「勉強・知識・学問」を極めることによってなのかな、と。現実は、よく知りませんが。

Posted by: しおり | Friday, November 05, 2010 00:21

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