« descanso | Main | El secreto de sus ojos / 瞳の奥の秘密 [アルゼンチン映画] »

Saturday, November 21, 2009

La teta asustada / 悲しみのミルク [ペルー映画]

tetaBerlinale 第59回ベルリン国際映画祭の金熊賞受賞作品です。今日始まったTOKYO FILMeXでも上映されます。

bookFILMeXのサイトから紹介文:
1976年生まれの女性監督による2作目で、ベルリン映画祭で金熊賞を受賞した。メイドとして働き始めた若い女性の日常を通して、1980~2000年にペルー農村部を襲ったゲリラによるテロがもたらしたトラウマを静かに描いた秀作end


……という作品です。モチーフがモチーフだけに、私は苦手なのでは?といささか不安でしたが、気に入って鑑賞を終えました。いや、正直なところ、冒頭に母子が口ずさむ歌の詞を読んでいる段階から、なんか、もう、眩暈がしちゃって具合悪くなっちゃってそこで停止ボタンを押してしまう、というのをこの数週間で何度か繰り返していたのですがね。

アノニマさんから、あの冒頭を乗り越えてしまえば大丈夫と教えてもらったので、今日は最後まで観てみました。

見終わる時に自分が比較的穏やかな表情を浮かべているとは予想していませんでした。よかったです。生と死の対比が。

FILMeXでも何度か上映されるので是非観てください。それを逃したら12月上旬のミニスペイン映画祭で是非。


(コメント欄になにか書きます)

La teta asustada@IMDb (The Milk of Sorrow)
直訳: わななく乳、おびえる乳、おののく乳、とかそういう感じか

監督・脚本: Claudia Llosa クラウディア・リョサ

出演:
Magaly Solier マガリ・ソリエル ... Fausta Isidora Janán Pachauca ファウスタ(イシドラと呼ばれるシーンもあったかと思う)
Marino Ballón マリノ・バジョン ... Tío Lúcido ルシド: ファウスタのおじ
Susi Sánchez スシ・サンチェス ... Aída アイーダ: ファウスタがメイドにあがる邸宅の女主人
Efraín Solís エフライン・ソリス ... Noé ノエ: 邸宅の通いの庭師


eyeちょっとwikipediaなどからの引用で申し訳ないけど:
主演のマガリ・ソリエルの生まれ故郷も、ファウスタ(とその母)の村と同じようにテロリストの暴虐非道に苦しめられた過去があるようです。

クラウディア・リョサ監督は前作『マデイヌサ』に出演できる子を探していた時にマガリ・ソリエルに出会ったようですが、それ以前にはマガリは地元のフェスティバルで歌唱賞を獲ったりしていたようですね。

そんな彼女は歌手としても本格デビューです。アルバムは『Warmi』。「mujer(女)」を意味するそうです。

Magaly Solier - Sitio Oficial -

『La teta asustada』で女主人アイーダに歌を歌うように言われても拒んでいたファウスタが初めて歌ってきかせるシーン(そしてその曲をマガリ・ソリエルがアカペラで歌っています):

|

« descanso | Main | El secreto de sus ojos / 瞳の奥の秘密 [アルゼンチン映画] »

Comments

語句メモ
・placenta previa: 前置胎盤

・tubérculo: 1. m. Bot. Parte de un tallo subterráneo, o de una raíz, que engruesa considerablemente, en cuyas células se acumula una gran cantidad de sustancias de reserva, como en la patata y el boniato. 【植】塊茎,塊根.
2. m. Med. Producto morboso, de color ordinariamente blanco amarillento, redondeado, duro al principio en la época de evolución llamada de crudeza, y que adquiere en la de reblandecimiento el aspecto y la consistencia del pus. 【医】【解剖】隆起,隆起物,結節,結核結節.

・papa: 1. f. patata (= planta solanácea).
2. f. patata (= tubérculo).

・vasos capilares: 毛細血管

・cauterizar: 1. tr. Med. Quemar una herida o destruir un tejido con una sustancia cáustica, un objeto candente o aplicando corriente eléctrica.

・parte: 20. m. Escrito, ordinariamente breve, que por el correo o por otro medio cualquiera se envía a alguien para darle aviso o noticia urgente.


・ファウスタが上り下りする乾いた斜面を這うように伸びているあの細く長い階段がどこにあるのかを知りたくてロケ地を調べたら、「リマの貧困地区」とかいう表現を見かけた。

それからクレジットで確認できた地名は:
Municipalidad de la Victoria
Municipalidad de Lima
Municipalidad de Pachacamac
Municipalidad de Ate
Municipalidad de Miraflores
Municipalidad de Chorrillos

Todo el pueblo de Manchay ←あの細い階段もこの辺なんだろうと思うけど、ちょっとよくわからない。

Posted by: Reine | Saturday, November 21, 2009 at 23:42

danger まあ、この辺りからはたぶんストーリーに触れると思います danger

1) 冒頭の、私が具合悪くなっちゃうような歌詞っていうのはこんな調子です:


Quizá algún día
tú sepas comprender,
lo que lloré
lo que imploré de rodillas (ひざまずいて哀願した),
a esos hijos de perra (あのson of a bitchどもに).

Esa noche gritaba,
los cerros remedaban (真似をしてからかった),
y la gente reía.

Con mi doloor luché diciendo
A ti te habrá parido una perra con rabia (狂犬病) por eso le has comido tú sus senos (乳房).

Ahora pues trágame a mí, ahora pues chúpame a mí, como a tu madre.
A esta mujer que les canta esa noche le(?) agarraron, le violaron, no les dio pena de mi hija no nacida.

No les dio vergüenza.
Esa noche agarraron, me violaron con su pene y con su mano,
No les dio pena que mi hija les viera desde dentro.

Y no contentos con eso me han hecho tragar el pene muerto de mi marido Josefo.
Su pobre pene muerto sazonado con pólvora.
Con ese dolor gritaba, mejor mátame y entiérrame con mi Josefo.

No conozco nada de aquí.

たしかこういう感じ。
顔色悪くなっちゃうんだよね、あたし、こういうの。実際にこういう陵虐があったのだろうと思うし。そしてそれがつい20~30年前の、私くらいの歳の人間にとってはまったく“現代”の出来事なのだし。顔が青白くなってしまう。

(電車の中で見ていたせいで乗り物酔いしたっていうのもあるんだけども)

Posted by: Reine | Saturday, November 21, 2009 at 23:53

2) 小さい頃からファウスタは何か怖い思いをするたびに鼻血を出して失神してしまう。おじが病院で医師に説明する:

「この子は小さい頃から怖いことがあると鼻血を出していました。母親が亡くなりましてね、それで失神してしまったんです。あれは、苦しい時代に村にいまして、ゲリラが来ている頃にファウスタが生まれまして……、ですからこの子の母親の乳から恐怖が伝染してしまったんでしょう。“怯え乳”とか呼ばれているんですが。この子みたいに心が空っぽでしてね。あまりの恐怖で心が大地に潜り込んでしまったんでしょう。リマにはそういう病気はないんでしょうか、先生」

これ、まだストーリー序盤なのだけど、ファウスタの故郷の村を襲ったテロリズムのことまでサクッと説明してくれちゃうし、『La Teta Asustada』というタイトルそのものまでズバリ言葉化してくれちゃうのでちょっと面食らった。


おじはファウスタの鼻血はteta asustadaのせいだと強く主張するが、医師はそのような病気はないのだと説明する。

おじさん: Ella sangra por la enfermedad, doctor… por La Teta Asustada, Doctor. Así nació. Nada de papas. ¿Dónde se ha visto que vamos a cosechar papas de una vagina?

医師: No hay ninguna enfermedad que se llame Teta Miedosa o Asustada, o lo que sea, y mucho menos que se transmita por la leche materna.


診察室における医師や、ファウスタの仕える女主人らの態度から見えてくるのは、どうにもならない階層差だろうか。どうにもならんね。

Posted by: Reine | Sunday, November 22, 2009 at 00:02

3) 『ラテン・アメリカを知る事典』より:

センデロ・ルミノソ | Sendero Luminoso:

ペルー南部アンデス貧困農村を拠点に活動する革命ゲリラ運動.《輝く道》の意.1964年ペルー共産党から分離した紅旗(PCP-BR)の一分派で,アヤクチョ・ワマンガ大学哲学教授アビマエル・グスマンによって70年に結成されたといわれる.

マリアテギの20年代農村社会の解釈に基づき,中国の毛沢東主義に依拠して80年以降武力闘争を開始した.実験農場や鉄道,政府に協力した農村を攻撃するなど,反近代,狂信的ファンダメンタリスムの傾向がみられ,土着的な色彩の強いのが特徴だが,組織などは依然謎めいたところが多い.


………関係ないけど、「ファンダメンタリスム」なの? スなの?ズじゃなくて?

Posted by: Reine | Sunday, November 22, 2009 at 00:10

4) ファウスタの言動のひとつひとつが彼女のそれまでの人生を物語っていて、全くやりきれなかったね。

・病院で「貴女は未婚ですか」「処女ですか」と質問されたとき

・女主人の邸宅で軍服の人物の写真を見たとき

・細く長い階段を下りられなくなってしまったとき

・診断書(?)の紙で小鳥を折ってしまうとき……etc.

Posted by: Reine | Sunday, November 22, 2009 at 00:31

5) ファウスタを演じるマガリ・ソリエル。クレジットで「Autora: Magaly Solier」となっていた曲は

Quizás algún día
Tapón
Lavar tu ropa
Heridita
Sirena
Palomita
Jardín


このうち『Tapón(栓)』という曲だがね。

「Yo llevo esto como protector.
Yo lo vi todo desde tu vientre.
Lo que te hicieron,
sentí tu desgarro.
Por eso ahora llevo esto
como un escudo de guerra...
como un tapón.」

“esto”をとられたくないわけだよね。自分を守るための盾だからね。………キッツいわ、まったく。

Posted by: Reine | Sunday, November 22, 2009 at 00:38

6) あとは幾つかメモ

・蝿の羽音の使い方は『El Espinazo del Diablo / デビルズバックボーン』でもああだったよね

・花壇の片隅から子供の頃に埋めてしまった人形が出てきた時アイーダが「お人形を土に埋めたら土がどこかに持ち去ってしまうからもう二度と見つけられないんだって、子供の頃はそんな風に聞かされたのに……嘘ばっかりじゃない」と吐き捨てるように呟く。

このシーン、“花壇から何かが出てきちゃうつながり”で『La mujer sin cabeza / 頭のない女』をふと思い出したよ。


・アイーダ役のSusi Sánchez、どこかで聞いた声だと気づきIMDbを見たのだけど、んーーー、どうかなあ、『Aunque tu no lo sepas』で主人公といっしょにエステに行っていた女友達を演じてた人かなあ。


7) ファウスタが家を飛び出して夜(明け)の町を疾走するシーン。壁にぴったりと沿って走るファウスタ。壁には大きな文字で落書きだかスローガンだかがペイントされている。その文字が読み取れるようなカメラワークなので、それを読み取れということなのだと思う。

読み取りづらいが「ALGO NUEVO ESTA SURGIENDO EN MANCHAY」だと思う。「何か新しいことが起こっている」って。

Posted by: Reine | Sunday, November 22, 2009 at 00:51

こないだのラテンビートの中日くらいに監督とか皆さんと飲んだ夜、私はFILMeXの金谷さんとお隣で、ちょうど前の日に観た『El niño pez / フィッシュチャイルド - ある湖の伝説 - 』のことを話していました。

「いやぁ、あたし、ああいう(悲しい)の、ほんとダメです。いや、いい作品だというのはわかっても、私は無理という意味で“ダメ”です」などと言ったらば金谷さんが「……だとすると……『La Teta Asustada』とか……だいじょぶかなあ……どうだろう……」とおっしゃった、なんていうこともあったのだけど、見終わってみれば私は静かな表情でありました。

あの地の民の計り知れない苦しみに思いを馳せることになる映画ではありましょうが、直接的に苦痛で目を瞑っちゃうような映像は無かったのだと思います。むしろ色彩の美しさによって、悲しみも痛みも洗われてしまうような、そういう作品でした。

Posted by: Reine | Tuesday, November 24, 2009 at 12:45

Hola.
一昨日の晩、フィルメックスで見てきました。
Reineさんのブログで予習して、最初は期待と不安でリキんでましたが、寡黙で美しい映像と、素朴な歌に、少しずつ心がほぐれていきました。
前作の『マデイヌサ』とは全く味わいが違って、そのことにも最初は戸惑ったけど、映画が終わったときには、会場から拍手が湧き上がり、私も拍手していました。
象徴的な表現が多いので、何度見ても楽しめそう。
もう一回見たいです。

そうそう、マガリ・ソリエルの動画紹介もありがとう!

Posted by: Mayrsol | Monday, November 30, 2009 at 10:13

この映画はネタバレしたら面白くないかというと、そんなことはない。逆に全編に鏤められたメタファーの解説がないと分かりにくい。フィルメックスやスペイン映画祭2009の紹介文にあるように、ヒロインのファウスタは膣にジャガイモを挿入している。これはファウスタのみならずアンデス山地に暮らす先住民全体の生存のメタファーと称しても過言ではないでしょう。

ベルリン映画祭グランプリ受賞時にも欧米の批評家からは、ジャガイモのメタファーはヨーロッパの観客には分かりにくいという意見が出たのも頷けます。ファウスタが緊張すると出す鼻血のメタファーほど普遍的ではないということかもしれない。

ファウスタは膣だけでなく目耳口にもタンポンをしている。つまり「見ざる・聞かざる・言わざる」の三猿の意を寓しているわけで、ファウスタの幼稚性や寡黙性は内戦が人々に残していった傷跡の深さを表現している。

センデロ・ルミノソの1980年に行われた総選挙ボイコットを発端に、アヤクーチョ県から始まった武装闘争は、一時ペルーの3分の1を制覇し、犠牲者は3万人ともその2倍とも言われている。ファウスタ役のマガリ・ソリエルは、テロが激化していた1986年にアヤクーチョ県ウアンタの生れ。家族並びに親類縁者、隣人たちの多くが犠牲者となっている。ファウスタのセリフの一部はソリエル自身のものでもある。センデロ・ルミノソの最近情報はスペインFF終了後に。

また、ソリエル初のCD「Warmi」(ケチチュア語タイトル、女性の意)発売時のインタビュー記事、プラシド・ドミンゴが「ポスト三大テノールの一人」と絶賛した、世界のオペラ界の貴公子フアン・ディエゴ・フローレスとのオーケストラをバックにしたデュエット公演、日本にもファンをもつフェルナンド・レオン・デ・アラノアが「Amador」(2010)の主役にソリエルを抜擢、スペイン映画にも登場、ガルシア大統領の映画成功の祝辞に対して政治批判などなど、今やリョサ監督より「時の人」になったマガリ・ソリエルの魅力に触れたいと思います。

Reineさんが、ファウスタの女主人アイーダ役のスシ・サンチェスに言及していた件について。フアン・ビセンテ・コルドバの「Aunque tu no lo sepas」(2000)は未見なので分からない。本作の主要人物のうちソリエルとサンチェス以外は、母、叔父、アイーダの息子とも初出演。アイーダ役にサンチェスを起用した経緯など知りたいところ。

スシ・サンチェスは1955年バレンシア生れ。ショートでは主役を演じたこともあるが、女性にしては上背があること(宝塚なら男役にぴったり)、美人系でなく理屈っぽいイメージから、ほぼ脇役に徹している。過去の劇場公開作品では、ビセンテ・アランダの『女王フアナ』(2001)のイサベル女王役、同監督『カルメン』(2003)の娼家の女主人、ラモン・サラサールの『靴に恋して』(2002)にも出演している。バルセロナ派の作品に出演しているようですね。

☆普通「ファンダメンタリズム」と濁音で表記されますね。誤植は「浜の真砂ほど」といいますから。

☆タイトルも要検討かな。因みにフランス、スウェーデン、デンマークなどは、ズバリ「ファウスタ」だけ、この手もいいかもしれない。海外でも「The frightened tit」のほうが原題により正確だとコメントする評者がおります。

Posted by: アリ・ババ39 | Tuesday, December 08, 2009 at 12:30

diamond 「時の人」になったマガリ・ソリエル

A: 「スペイン映画祭2009」上映前に触れました内容と重ならないように気をつけましょう。

B: ペルーではクラウディア・リョサ監督より話題の人になってるとか。

A: 監督は生れこそペルーの首都リマですが、現在はバルセロナ在住で、そういうことも関係しているでしょう。監督については後で触れますが、伯父のマリオ・バルガス‐リョサ同様、海外に生活拠点をおいています。

B: 主にバルセロナ派の監督作品に出演しているスシ・サンチェスをアイーダ役に起用したのはそのせいですか。まずマガリ・ソリエルが、アラン・ガルシア現ペルー大統領を批判というのは?

A: 実はアプラ党(APRAアメリカ革命人民同盟)党首アラン・ガルシアは、第2期目の大統領です。第1期目は1985年7月から1990年7月のフジモリ政権誕生までの5年間。

B: センデロ・ルミノソのテロとその鎮圧に政権が投入した軍・警察からなる治安部隊の嵐が吹き荒れていた時代ですね。

A: 当時ガルシアは36歳、ペルー最年少の大統領として、滑り出しは人気も高かった。しかし時代も悪かったのですが、経済政策の大失敗(政権末期にはインフレ率7000%)、閣僚をアプラ党員で独占、自身の汚職嫌疑とさんざんで、次期大統領選ではフジモリに負けるわけです。

B: ソリエルがガルシア大統領を批判しているのは、農村地帯を暴力が猛威をふるった時代の大統領なのに無関心を決め込んでいたことへの怒りですね。

A: そのようです、「金熊賞受賞おめでとう」なんて祝辞を貰っても嬉しくないと。彼女は前にも触れましたようにアヤクーチョ県の生れ、少女時代にテロリストによる犠牲者を目撃していたということです。しかし地域や時代によっても様相が異なります。だから書き手や語り手の軸足がどちらにあるかで内容も違い、真実を見極めるのは難しいのです。

Posted by: アリ・ババ39 | Monday, December 28, 2009 at 10:06

diamond ペルーで何が起こっていたの?

B: センデロ・ルミノソが武装闘争を開始するのが1980年5月17日、警察力では手に負えなくなった政権が軍隊投入に踏み切ったのが1982年末。そうすると治安部隊が人権侵害を始めたというのはガルシア政権前ではありませんか?

A: たしかに治安部隊を創設したのは、前大統領ベラウンデ政権なのですが、後を受けたガルシア政権も治安部隊のセンデロ・ルミノソ掃討作戦を踏襲したのです。テロ封じ込めに彼らを支持していると疑われた農村部の農民の誘拐殺害、女性・子供を含めて暴行・強姦・拷問の苦しみを与えたわけです。勿論センデロ・ルミノソ側も負けじと自分たちに非協力な農民を拷問殺害しましたから、逃げ場を失った農民は国内難民となってリマなどの都市部に押し寄せ住みつくようになりました。ファウスタ母娘や叔父の家族が住んでいた場所がそうですね。

B: つまり、両方から挟み撃ちされたということですか。東京フィルメックスの解説で「ゲリラによるテロによって多くの女性たちが虐待され、殺害された」とあったので、母親をレイプしたのはセンデロ・ルミノソを指しているのかと思ってました。

A: アヤクーチョあたりはそれで間違いないようですが、映画ではセンデロ・ルミノソの名も、生れ故郷の地名も出てこない。母親やファウスタの歌から分かるのは、1980年代初めから2000年にかけての20年間に、武器を持たない女性への凌辱と人間の尊厳を貶める行為があったことが語られていただけでした。クソったれのろくでなしどもesos hijos de perraを、用心深くどちらとも言ってない。

B: 1996年12月にトゥパク・アマル革命運動(MRTA)が人質を取って、日本大使公邸を占拠した事件がありました。連日報道されたそのMRTAとは無関係ですか。

A: 1984年に組織されたもう一つの反体制運動ですね。こちらの武装組織は反センデロ・ルミノソで、多くの殺害に関与していますが限定的、本作の背景にはなっていないと思います。それにしても二人のリアルな語り口というかアカペラには、胸が押し潰されます。

B: そう言えば、リョサ監督のメッセージは「『悲しみの乳』は、未解決の、暴力的で、個人的で集合的な記憶についての物語だ」と言ってるだけですね。

A: 未解決なんですよ、過去の「終わった内戦」ではないということです。両方が関与した政治的暴力の公的真相解明は、最近やっと始まったばかりです。1992年9月、危機感を深めたアメリカCIAと連携したフジモリ政権が、最高指導者アビマエル・グスマンを逮捕して終わったのではありません。

B: ペルーには死刑制度がないんですか。

A: ラテンアメリカ諸国はペルーに限らず、国連総会で採択された「死刑廃止条約」(1989)を批准しています。グスマンの服役も17年になりますが相変わらず意気軒高、政治犯の釈放を訴え、2011年の総選挙には候補者を立てるとガルシア政権に脅しをかけています。塀の中にいても精神的支柱となっているようです。

B: 犠牲者は約3万人と言われていますが、現政権はグスマンが組織したゲリラによる死者や行方不明者は6万9000人にも上ると言ってます。年を追うごとに証言者はファウスタの母親のように旅立ってしまいますから、真相解明は時間との競争ですね。

Posted by: アリ・ババ39 | Monday, December 28, 2009 at 10:06

diamond クラウディア・リョサ監督の視点

A: リョサ監督は1976年リマ生れ。1997年リマ大学情報学部映画科卒業後、スペインのマドリード大学院で勉学、1998年に博士号を取得しています。2003年ハバナ映画祭で「マデイヌサ」が脚本賞受賞、これは未発表脚本部門(Mejor Guion Inedito)での受賞のようです。第1作『マデイヌサ』(ラテンビート‘06上映、原題Madeinusa)は、ハバナから始まったようです。

B: それはマドリード時代ですか。

A: 学業のためとはいえ長く故郷を離れてノスタルジックになっていて、自分自身と向き合う必要が出てきたということです。故郷に近づくためにそこを舞台に脚本を書き始めたので、最初からハバナを目指したわけではなかったし、自分が監督するなんて考えてもいなかったとも。受賞で一気に扉は開かれましたが、興味を示してくれるプロデューサー探しやら、製作のための資金集め、奨学金取得など大変だったようです。バルセロナに本拠地を移して、多くの人々が「マデイヌサ」の成功に賭けてくれたお蔭で出来上がったとも。

B: 見事成功したわけですが、幕開けはハバナ映画祭だったわけですね。マデイヌサはペルーではありふれた名前だそうですが、made in USAのモジリでもあるとか。

A: 『マデイヌサ』は評価の高い作品ですが、ラテンビートで鑑賞した日本在住のペルーの女性が、あんなバカげた風習はないと怒ってしまったそうです。

B: メタファーを読み違えたともいえますが、その女性の気持ちも分かる……

A: メタファーは各自捉え方が異なります。さて、『悲しみの乳』に戻りましょう。

Posted by: アリ・ババ39 | Monday, December 28, 2009 at 10:07

B: その前に作家のマリオ・バルガス‐リョサの姪御さんなんですね。

A: 2006年のラテンビートで上映された『ヤギの祝宴』(2006)のルイス・リョサ‐ウルキディ監督の姪でもあり、つまり作家マリオと監督ルイスは従兄弟同士ということになります。

B: 『ヤギの祝宴』は、バルガス‐リョサの同名小説の映画化でした。

A: この年『マデイヌサ』も上映されましたから、叔父と姪の東京対決だったわけです。

B: 作家はフジモリとの大統領選で敗北した後、1992年にはスペイン国籍を取得、でもロンドン在住。

A: 両大陸のド真ん中に住んでると、どこに行くにも便利なんでしょ、彼は神出鬼没ですから。


B: 両作品とも先住民ケチュア族の物語なのに、リョサ監督の視点が内側からペルーを見ているのではなく、外側から見ているような感じを受けませんか。

A: キューバの作家アレホ・カルペンティエールの視点が、ヨーロッパ人の目だったことと似てますかね。彼もハバナとパリを行ったり来たり、革命後の1968年からは、在仏キューバ大使館の文化顧問として死の1980年までパリ在住だった。彼の場合、ていのいい左遷だったのですが。

Posted by: アリ・ババ39 | Monday, December 28, 2009 at 10:08

B: 海外暮らしは複眼的な視点を養うチャンスではありますが。もともとラテンアメリカの純粋な白人は、先住民の多いペルーやボリビアでは上位の人です。ファウスタの女主人アイーダは、その典型として描かれました。

A: 監督のアイーダの描き方は容赦ないですね。自分の才能の枯渇をファウスタが救ったのに、あの冷酷な仕打ちには凍りつきます。保身のためには下位の者を平然と切り捨てる。ここの視点は内側からのもの。

B: 庭師や大工の親方と弟子などの穏やかで謙虚な態度が、いささか図式的でしたが、アイーダとは対照的です。

A: 図式的なのは監督の意図したことではありませんか。過去の開いた傷口を治療しながら、ペルーは未来に向かって一歩を踏み出さねばならない。そのシンボルとしてファウスタは登場した。ファウスタの再生は、新生ペルーの旅立ちでもあるのです。多くの人々が「見てよかった」と感じるのは、ファウスタのなかに自分の一部を発見するからです。装いはリアリズムですが、きわめてファンタスティックな政治的寓話なのです。

B: 集団お見合い、女性優位、親族の顔合わせ風景、従妹の結婚式などの描写は、現在のケチュアの価値観や世相が反映されて興味深いのですが、こちらには外からの視点を感じたんです。

A: ファウスタの父親が葬られている暴力が猛威をふるった村では、依然として「神話」は信じられているが、ここリマ市近郊では変化が起きているということのメッセージですかね。母親の遺体の扱いなど、『マデイヌサ』でも感じたシンクレティズムが面白かったが、ちょっと多すぎましたか。

B: 同じ年代のファウスタと従妹を対照的に描いたのは、対立構図を単純化するためでしょうか。

A: ファウスタの性格描写が不十分とか、従妹のカリカチュア化も平凡とか、不完全燃焼した観客もいたでしょうが、ファウスタの寡黙や幼児性などは、見る側の想像力が試されます。白人対先住民、機械仕掛けの門で分断された経済格差、緑と花に囲まれた屋敷と砂ぼこり舞い上がる天界のスラム、単純化は寓話の処方箋でしょう。

B: ジャガイモの芽が飛び出してくるのを鋏でパチンと切る音、記憶に鮮明です。

A: 芽を切るメタファーは、自分が罹っている病気が遺伝することの恐怖を断ち切る行為、再生の助走かもしれません。母親の死は悲しいことですが、母が娘を縛っていた縄もいずれ解かれねばなりません。

B: カメラ・ワークもゆったりと、時には静止しているようでした。印象に残る美しいシーン、ファウスタと庭師が昇っていく天界にいたる長い階段、母の遺体と一緒に見つめる大西洋、ジャガイモの鉢植えには可憐な白い花が咲いていました。

Posted by: アリ・ババ39 | Monday, December 28, 2009 at 10:08

diamond わたしは女優ではなく歌手です

A: これはマガリ・ソリエルが『マデイヌサ』上映後のインタビューに答えたときのもの。前作では女優の意識はなかったのですね。生れ故郷ウァンタで開催された「アヤクーチョ歌謡音楽祭」では優勝の経験もあったので、この発言になったのでしょう。

B: 本作では、もうプロの女優ですね。

A: 第3作「Altiplano」(2009)もカンヌ批評家週間で上映されました。歌手としても「Warmi」が発売され、『マデイヌサ』の出演料で演技や音楽の勉強もしてるんですね。

B: まさに快進撃です。

A: キーボードを購入、作詞作曲のテクニックなどを専門家に就いて学んでいます。ジャンマルコ・ズィニャゴGian Marco Zignagoの存在が大きく、彼の音楽や人となりにも魅了されているようです。共演したい人の筆頭が彼だそうです。

B: それは意外ですね。彼はロックのシンガー・ソングライター、ソリエルはペルーの民俗音楽ウァイノ(ウァイニョ)を専門に歌っていたのでは?

A: 女の子たちはリマに出かけてCDを買い、家ではラジオでロックを聴いていたから、彼女も流行をキャッチしていた。しかし「Warmi」(11曲収録)は、内戦中に暴力の犠牲になった女性たちへのオマージュだそうです。

B: 『悲しみの乳』で歌った曲も入っていますか。

A: 入ってないそうです。あれはファウスタの歌でマガリの歌ではないから。マガリはファウスタのようには歌えないし、ファウスタもマデイヌサのようには歌えない。

B: ごもっとも。ファウスタが作中で歌ったなかに「Sirena」(セイレン)という曲がありました。それを金熊賞受賞後にリクエストされて歌いましたが、文句なしに映画のほうが良かった。ドミンゴが絶賛したというオペラ界の貴公子フアン・ディエゴ・フローレスとも共演したそうですが。

A: 念願叶ってジャンマルコとも、凄いですよね。フアン・ディエゴ・フローレスは1973年生れ、ポピュラー界出身のテノール、ウァイノからプレスリーまで歌えるスーパーマン。2008年3月に「リゴレット」のマントバ公爵でブレイク、プラシド・ドミンゴが御墨付を与えたことで、ポスト三大テノールの一人となりました。

B: マントバ公爵を演じたということは、テノールでもリリコ・レッジェーロの高音が出るということですね。

A: テーマから逸れますが、彼はジャンマルコとリマのサンタ・マルガリータ高校で一緒、それ以来の友達ということです。1990年リマの国立音楽院入学、続いてフィラデルフィアの超難関校カーティス音楽院でオペラの本格教育を受けた(1993~96)。20歳入学はギリギリの年齢ですね。

B: ソリエルはそういうオペラ歌手とデュエットしたんだ。まさにシンデレラ・ガールです。ソリエルはアート系の映画など見たこともなかったそうですね。ますますリョサ監督との偶然の出会いには《運命》を感じてしまいます。

Posted by: アリ・ババ39 | Monday, December 28, 2009 at 10:09

A: そういう意味ではリョサ監督も同じ。『マデイヌサ』のロケ地探しにアヤクーチョを訪れていたときに出会った。セマナ・サンタの教会儀式を参考にするため教会巡りをしていた。ある教会の正面階段に座っていたマガリに釘付けになったと。ほんとに偶然の出会いだったそうです。

B: これは「神のお導きか」と思ってもいいですね。

A: ほんとにそう、私たちもお裾分けとして二つの作品に出会えたわけですから。前述したソリエルの第3作目は、ベルギー出身のPeter Brosensとアメリカ人ジェシカ・ウッドワース夫妻の「Altiplano」(2009)。スペイン語、ケチュア語、フランス語、英語、ペルシャ語も入る映画らしい。すでにベルギーでは封切られ、アメリカは2009年1月、多分ニュースが入ってくるでしょう。

B: 4作目として、来年にはフェルナンド・レオン・デ・アラノアの「Amador」(2010)が公開予定、スペインの監督作品にも登場しますから楽しみです。

A: 最後にタイトルについては、個人的にはフランス版などの「ファウスタ」がいいかな。第1作『マデイヌサ』とも対になるし。「悲しみ」ではしっくりこないが、‘asustada’をそのまま訳すとアダルト・ビデオと間違えられてしまいそう。

Posted by: アリ・ババ39 | Monday, December 28, 2009 at 10:10

The comments to this entry are closed.

TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/33847/46824255

Listed below are links to weblogs that reference La teta asustada / 悲しみのミルク [ペルー映画]:

» La ventana [アルゼンチン映画] [Reino de Reine]
昨年6月にマドリードで催されたLa Chimenea de Villaverdeというイベロアメリカ映画祭でも上映された作品です。 おはなし 病床で老アントニオが語る。 「変な夢を見たよ。 私は5、6歳だったろうか。綺麗に着飾った母が部屋に入ってきて若い娘を紹介してくれるんだ。私の子守をしてくれる人だって。 父の姿は見えなかった。でも声は聞こえたよ。母のことを呼んでいた。どうもパーティーがあるらしくてね。一階から音楽が聞こえていたよ。お客さんが踊っているのもね。それで私は『ああ今夜はうちでパーテ... [Read More]

Tracked on Wednesday, April 07, 2010 at 20:53

« descanso | Main | El secreto de sus ojos / 瞳の奥の秘密 [アルゼンチン映画] »