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Saturday, September 13, 2008

El pollo, el pez y el cangrejo real / ファイティング・シェフ~美食オリンピックへの道 [スペイン映画]

LBFF第5回スペインラテンアメリカ映画祭の作品紹介より:
世界で最も有名なシェフ、ポール・ボキューズが1987年に設立した料理コンクール“ボキューズ・ドール”はいわば高級料理のオリンピック。24カ国の代表シェフがフランス・リヨンで腕を競い合う。20年間の大会で結果を出せずにきたスペインは、ヘスス・アルマグロ代表シェフに命運を託す!

2006年大会のテーマ食材はフランス・ブレス産の地鶏、ノルウェー産オヒョウとキングクラブ。数ヶ月間の準備を経て大会に挑む一流シェフ達の熱いドラマと、芸術の域に達した料理の数々をエキサイティングに描く、多くの国際映画祭で大喝采を浴びた傑作ドキュメンタリー!

・よかったよ……って、あたし、気に入ってばっかだな。

・インタビューを受けるシェフの一人も言っていたが、「シェフが多すぎるとスープは失敗する」のかどうか。その成り行きを見守るのです。※Demasiados cocineros estropean el caldo. (← Too many cooks spoil the broth.)(船頭多くして船山に上る)


・私がいつも引用する『スペインハンドブック(三省堂)』の「国民性」の章で描かれ解説されていた事柄が思い出されて、なんか、ヒヤヒヤしたというか、「あぁ、スペイン人ってほんとこうなんだな」と思ったりして、興味深く観た。即興性もそうだし、嫉妬なんかはどうなんだろうかといろいろ考えながら観た。

スペインハンドブック』の第6章、「国民性」より:

1. 二元的なるスペイン
2. 名誉と名誉感情
3. 面目―――変質した名誉感情
4. 社会階級と自尊心
5. 自発性と即興性
6. ストイシズムあるいは無関心
7. 怠惰
8. 個人主義
9. ヒューマニズム
10. 嫉妬
11. 観客の基準,救世主志向


これの、「即興性」ね。本作でも垣間見られたように思うんだけど、どう?

以下、ひたすら虫食い状に、私の都合のよいように引用します

名誉は情熱である.従ってスペイン人の心理的な重心は名誉の中にあり,その自然の現れは情熱なのである.
 この種の人間にあっては,活力は意志によって定められる運河ではなく,自由な川のように流れる.この活力の流れの自由さが,いわゆる「自発性」である.スペイン人は自発的な人間である.


建築,絵画,彫刻,文学のいずれにおいても,ある定まったスペイン様式というものが観察できないのは,多分,この活力の流れの自発性によるものであろう.


さて,この魅力ある自発性は「即興性」,「完成に対する無頓着さ」となって現れる.……略……スペイン人の特徴をなすのは完全性に頓着しない行動である.グラシヤンはすでに“精神的ねばりのなさ”をスペイン人の生来の欠点としている.彼らは困難を打開することはできるが,勝利を最後まで保つことはできない.……略……顕著な特性である.


彼らにとってねばりと根気は厭わしいものである.スペイン人の天才に見られる仕事への情熱は,作品の執拗な完全化へと向うのではなく,度重なる再創造へとつながる.


直感に対する信頼,即興性は,全時代のもっとも偉大なスペイン人作家にさえ十分通じる規範である.


自発性を持って足れりとするこの自信は,研究,とりわけ外国文学の研究をなおざりにすることになった.


従って,スペイン人の生活,その行動と生活の様式を合理主義的な見方で理解することはできない.(ここに勤勉な日本人がスペインの歴史と文化を理解しようとする時ぶつかる大きな困難のひとつがあると思われる.日本人は一般に,ドイツやフランスやイギリスを見るのと同じ目でスペインを見ようとし,違う眼鏡をかけねばならないことに気づかないのだ.)


こうして読んでくると、

ほかの国の料理と比べるとスペインチームの運んでくる料理は「統一性」の点で負けていた点

この競争では‘執拗な完全化’を成し遂げたものこそが勝つとわかっているだろうに‘再創造’へと向かってしまったからこそ前年度は大敗を喫したのであるなあという点

日本人がたとえばフラメンコのコンクールで本国人をさしおいて優勝したり、またこの年のボキューズドールにおいても日本代表の長谷川さんが6位という高順位に入ったりできるのは、きっと日本人が‘外国の研究をなおざりにしない’からなのではないかという点

……などなどが、なんだかとてもよくわかってきはしませんか。


それでも私はこの映画で奮闘する彼らスペインチームを見ていて、「なんと愛すべき民なんだろうか」と、母性本能をくすぐられ、胸がいっぱいでありました。


そして最後に彼らの名誉のために添えますと、11項目あげた中で「7. 怠惰」と「8. 個人主義」は、このチームには見られなかったと言っていいです。みんなよくがんばってた。

ヘススさんなど、スペイン国内で優勝して代表に選ばれたというのに試作品は徹底的にダメ出しされる。チームのメンバーの他の有名シェフらから、言わば‘けちょんけちょん’にされるのである。ベストを尽くしたつもりの作品も、アドバイザーのセルジュさんからは「君が16位とか18位を目指しているんならこれでもいいんだけど」とキッツーーーーいコメントを食らい、「Joe, macho ....」と呻くのが精一杯だったのである。

疲労困憊で、家路につくときにはワーッと泣いてしまいたいこともあったと、助手のフェリックスも言っていた。それでももっとやれる、俺はもっとがんばれるはずだと、二人は自身に鞭打ったんだよね。

ヘススの店のオーナー、ラルンベさんが応援席から彼らを見守っていた。祈るような目。決して‘個人主義’などではない温かい目をしていたでしょ。

(つづきはコメント欄で)


El pollo, el pez y el cangrejo real@IMDb 

監督: José Luis López-Linares ホセ・ルイス・ロペス=リナーレス
脚本: José Luis López-Linares  Antonio Saura アントニオ・サウラ

出演:
Jesús Almagro ヘスス・アルマグロ ... Pedro Larumbeの料理長
Felix Guerrero フェリックス・ゲレーロ ... ヘススの部下
Pedro Larumbe ペドロ・ラルンベ ... レストランのオーナー

Juan María Arzak フアン・マリア・アルザック ... Arzakのオーナー
Alberto Chicote アルベルト・チコテ ... NODOのシェフ

Serge Vieira セルジュさん ... フランス代表で2005年に優勝。スペインチームにアドバイザーとして助力する
www.sergevieira.com/

Kotaro Hasegawa 長谷川幸太郎 ... サンス・エ・サヴールの料理長

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Comments

Jesús Almagro ヘスス・アルマグロ ... Pedro Larumbeのシェフ

私個人的に、唇があひるみたいにめくれてる顔がどうも好きみたいで、このシェフのめくれ具合、可愛くてたまりません。終わった後にリュックをしょってる姿とか、助手のフリースのジッパーをあげて「寒いからちゃんとしなきゃダメだよ」と言ってる姿とか、辛抱たまらん。

※でもどちらかというと子犬とか子猫への目線

「Jesus Almagro」検索結果(youtube)
だって可愛い顔してんのよ。こういう、なんか、ちょっとくたびれたとっつぁん坊やみたいなの、意外に鷲掴まれちゃうのよね、私。

Posted by: Reine | Sunday, September 14, 2008 20:05

これの前の年かな、スペインチームの出したものは斬新すぎて惨敗したらしい。(順位は最後から二番目だったかな???) その時の国代表だったのは、たぶん

Mario Sandoval マリオ・サンドバル ... Restaurante Coque

あれはちょっと気の毒だったな

Posted by: Reine | Sunday, September 14, 2008 20:49

・前年度チャンピオンのセルジェさん―――たぶんフランス人(=フランスチームを代表して前年に優勝しているん)だよな―――のしゃべるスペイン語が妙にポル語訛りだなと思いながら聞いてた。やっぱり、そうだね、ポルトガルからの移民の二世とかなんだろう。と思う

http://gmraoblog.blogspot.com/2005/03/o-descendente-de-vimaranenses-serge.html
>O descendente de vimaranenses, Serge Vieira

(※本文にあったものをこちらに移した)

Posted by: Reine | Saturday, September 20, 2008 22:41

2005年3月に一か月スペインに行ってきた

3月16日、もう7年強も音信不通だったセビージャの男友達からメールが入った。曰く、「義兄の会社の一団が4月初旬に日本に行くんだ。愛知万博がらみの長期出張です。つきましては、事務所や展示場となるようなスペースを賃貸で探したいので、どうか名古屋とかあの辺に同行してやってくれないか」とのことだった。

タイミングの悪い事に私は、3月末のギリギリまでスペインに滞在し、たしか年度替わって4/4の月曜からは新しい仕事が控えていたのだった。

新しい職場に入るわけで、不慣れな仕事の合間に彼らにつきあい、しかも名古屋まで付き添うことはとてもムリと思えたし、彼らの来日に先立って準備・調査を進めておくということも私の旅程からいってムリだった。

日本の知り合いの通訳さんなどにも当たってみたがどうしてもスケジュールが合わなかった。

「身動きとれない状況なので、どうしてもムリだわ。」と彼にレスしたところ、

「君が事前に準備や調査をしておく必要はないよ。君は義兄たちをちょっと手伝ってくれればいいんだ。義兄たちは日本に着いてからあとはimprovisacionで何とかしちゃうから大丈夫だよ」

みたいなレスが来た。

「improvisarっつったって、どうやるって言うのよ!?」と呆気にとられた。結局そのあとどうなったかは知りませんが、「improvisacion」でほんとになんとかやっちゃったんだろうなって思います。

4月初旬から日本での企画が始まるというのに、この義兄さんが私と話をしたのは3月19日のことだったのよ。案内役を手配するなんてこと、もっと早くから動いておけばよかったじゃない。

でも、準備はマメじゃなくても、improvisacion、improvisacionでつじつまを合わせられるのがスペイン人なんだろな。

Posted by: Reine | Sunday, September 21, 2008 00:23

これはドキュメンタリーということで、フィクションのストーリーを楽しむ映画というのとは一味違うものの、確かにスペイン人の国民性みたいなものを理解する上で面白いエピソードが多かった。

形がバラバラって(笑)

大会で上位入賞するには如何なるポイントをクリアすることが必要なのかを、前年度優勝者のフランス人に指摘されるまで、「チーム」の誰もきちんと認識していないとか。「最初にそういうことを研究してから練習に取り組め!」と思ったし。

「でも時間が正確だって褒められたんだ」と喜んでたけど、料理内容を全面的に見直すのだから、それは何の価値もないことだろう。だってプロセス全体が全く別物になるんだからさ。とか。

あと、やっぱり日本人は器用なんだな・・・と思った。アメリカのホットドッグ大食い大会で日本人が上位独占とかいうことにも思いを馳せてしまった。

外国というアウェイで、その国のルールや審査にしたがってプレイをすることの難しさにどれだけ順応出来るのかっていうのは、けっこう難しいテーマなんだなーと思ったり。

文化の違いみたいなことを感じられる映画だった。

Posted by: abetchy | Sunday, September 21, 2008 00:42

Abetchyから届いた情報

邦題を変更の上、秋には公開されるのですと。
ファイティング・シェフ~美食オリンピックへの道

私、さっそくJesús Almagro ヘスス・アルマグロさんに教えてさしあげようと思います。ロードショーだよ!と。

これ、「スペイン人」に関心がある人は見ると面白いと思いますよ。

Posted by: Reine | Tuesday, July 21, 2009 08:52

ぬぉ~
今電車の隣の席の女性がこの作品のチラシを熱心に読んでいる!
面白いから是非見てみてくださいよとか話し掛けたくもなったが思いとどまった。

Posted by: Reine 帰宅中 | Tuesday, August 18, 2009 23:01

2009年のラテンビート映画祭での出来事ですがね。

招聘ゲストにはもちろんホテルが手配されていました。ゲストの一人は、東京が終わる9/23(祝)の翌日にそこをチェックアウトすることになっていましたが、日本滞在自体は10/5までを考えていたようです。(でもオープニングセレモニー(9/17)の時点で既に「ついでだから予定よりも日本に長く滞在して旅行して回ろうと思うんだ」とわくわく語ってはいました。)

そして映画祭が進んでいき、いよいよチェックアウトの日。正午頃に私がメールチェックをしていたらGmailでその人がログインしているようだったので、「元気?」と話しかけました。

すると、「ごめん! 今まーさーにーチェックアウトしなきゃいけないからもう少し後で電話くれる?」と言います。だから言われたとおりにホテルフロントを通して電話をしたところ、まーさーにーフロントでチェックアウトしているところをつかまえました。

そしたらその時ですよ、その時に、「今夜と明日明後日のホテルを探さなきゃいけないんだけど、Reine、どこか安いところ知らない? 安ければどんなんでもいいから予約してくれない?」って………。

だからさ……、なんで、ねえ、だってさ、9/17から9/24の間にいくらでも時間あったのにさ、なんで、ねえ、なんでさ、今このタイミングまで誰にも相談しなかったの? 今このホテル出ちゃうんだからさ、それで携帯電話も持ってないんだからさ、連絡つけるのが格段に難しくなるじゃん? ねえ? なんで? なんでもっと早く言わない? 


結局わたくし、秘書としては俺って天才なんじゃねえかと思うくらいいいホテルをいいお値段で見つけましたよ。でもほんっと面食らった。

<即興性>なんだなあ。

ちなみにその人は、東京を翌朝には離れていよいよ西日本へ出立するという前の晩の飲み会の席で日本地図を広げて「どこがお薦め?」と質問し、みんなが挙げる候補地にグリグリと印をつけたりして計画を立てていました。

<即興性>……。

Posted by: Reine | Thursday, October 01, 2009 12:29

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