Cenizas del paraíso / ボディバッグ 死体袋 [アルゼンチン映画]
マカンタシス検事が庁舎のテラスから落下して死亡した。
その凶報をもって検事の自宅を訪れた者が、ガレージが開けっ放しになっていることを不審に思った。そこには検事の二男パブロが放心状態で居た。車のトランクからめった刺しにされた若い女の死体が発見され、警察が呼ばれた。
遺体は大物フランシスコ・ムーロの一人娘、アナ・ムーロのものであった。
パブロは重要参考人として連行され、ベアトリス・テレール検事が事件を担当することになった。事情聴取をしようにもパブロは自分が一人で殺した、どの書類に署名をすればいいのか、さっさと済ませてくれと言うばかりで、動機など犯行の核心に迫る供述は曖昧である。
捜査陣にとって実に奇妙であったのは、マカンタシスの長男ニコラスも出頭してきてアナ・ムーロ殺しを自供していることだった。
とその時テレール検事のもとに電話がかかってくる。マカンタシスの三男アレハンドロがアナ・ムーロ殺害を告白する遺書を残して自殺を図ったところを発見されたが、病院に運ばれ命に別状なしという報せであった。
一つの惨殺死体と三人の被疑者、そして一つの転落死。
テレールは事務官のジェティとともに捜査にあたる。
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子供の頃、アガサ・クリスティものが好きだった。もう何十年も読んでないけど、今もすごく好きだと思う。
ポワロさんやミス・マープルが事件の関係者から少しずつ話を聞いて行って各人の証言の矛盾に気づいていく様とか、彼らの知らないところで読者だけが怪しい動きを‘目撃’または‘立ち聞き’してしまうとか、ポワロさんたちが「カメダとはいったい何のことだ」と苦悩するところとか(←それは清張)、とにかくポワロさんたちといっしょになってパズルのピースをはめていく過程、ほんと楽しいよね。
『Cenizas del paraíso』を観ていて、クリスティものを読んでいた少年時代の昂揚感が蘇ったよ。このお話を私はとても楽しく‘読んだ’。カチリカチリとはまっていく緊張感がいい。
ジャケ写から私はまったく別の物語を想像していた。
私、自分が観ようと思った作品って、なるっべく事前の情報を排除するからね。観終わるまではDVDの箱だって読みたくない。だからジャケ写くらいしか情報がなかった。ジャケ写、ものすごく楽しそうでしょ。ものすごく楽しい家族ぐるみの犯罪コメディだと思うじゃん。思うじゃん。なんか、泥棒一家の大騒動を描いたものとばかり思っていた。『ファミリー・ビジネス』的な。
だから冒頭からいきなり「あれ? コメディじゃなかったのか?!」と驚いていた。
知らなかったよ、こんなにシリアスで、こんなに物悲しいお話とは。ジャケ写の男たちが楽しそうに見える分、ストーリーが余計に切なく感じられるのでした。
・(アルゼンチン映画)
・Cenizas del paraíso@IMDb
・直訳: 楽園の灰
・英題: Ashes from Paradise
←アマゾンにあるのはimportの英語字幕のVHS。
これがいったいどうして日本発売のビデオでは『ボディバッグ 死体袋』というタイトルをつけられなければならなかったのか。この邦題つけた人、ちょっとここ来て座ってごらん。いや、怒らないから、いいからおじさんに話してごらん。なんかワケがあってそうしたんだろ? 怒ったりしないからちょっと聞かせてくれ。
DVDがなかなか見つからず、もうそのワケわからん邦題のつけられたバージョンのVHS(中古)を買っちゃうしかないかと思っていたところ、やっと昨年たぶんアメリカでの品(リージョン1)がamazonUKに流れ着いていたのを見つけた。ロンドンの友人宅で預かってもらってたのを年末にもってきてもらった。ありがとう!
監督: Marcelo Piñeyro マルセロ・ピニェイロ
脚本: Aída Bortnik アイーダ・ボルトニック Marcelo Piñeyro
出演:
Héctor Alterio エクトール・アルテリオ ... Judge Costa Makantasis マカンタシス検事
Cecilia Roth セシリア・ロス ... Juez Beatriz Teller ベアトリス・テレール検事
Leonardo Sbaraglia レオナルド・スバラグリア ... Pablo Makantasis パブロ(二男; 弁護士)
Daniel Kuzniecka ダニエル・クズニエッカ ... Nicolás Makantasis ニコラス(長男; 医者)
Nicolás Abeles ニコラス・アベレス ... Alejandro Makantasis アレハンドロ(三男; カメラマン)
Leticia Brédice レティシア・ブレディス ... Ana Muro アナ・ムーロ
Alejo García Pintos アレッホ・ガルシア・ピントス ... Yeti ジェティ
Jorge Marrale ホルヘ・マラーレ ... Francisco Muro フランシスコ・ムーロ
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Comments
アルゼンチンのも日本のも、司法制度のことがよくわからないので教えてもらいたいのですが…、
マカンタシス父とベアトリス・テレールは「juez」で、英語字幕は「judge」なのね。それってスペイン語も英語も「裁判官, 判事」だよね。
判事: 下級裁判所の裁判官の官名。高等裁判所長官とともに高等裁判所を、判事補と共に地方裁判所・家庭裁判所を構成する。旧制ではほぼ今の裁判官の意味で用いた。(広辞苑 第五版)
裁判官: 裁判所で裁判事務を担当する国家公務員。その自主性を最大限に保証するため、すべての権力から独立し、憲法および法律にのみ拘束される。別に国際司法裁判所の裁判官もある。(同)
なんだけども。
マカンタシス父とテレールの仕事って、みたところ、検察官だよね? 法務省の刑事事件の捜査 捜査における検察官の役割のページにあるとおりの仕事をしてたよね。
だからとりあえず「検事」と訳しておきました。
※もろさんから「予審判事」のことではないかというコメントいただきました。ありがとう! m9(゚д゚)っ ソレダッ!!
Posted by: Reine | Sunday, March 02, 2008 19:46
語句メモ
・arma blanca: f. La ofensiva de hoja de hierro o de acero, como la espada.
・luca: 1. f. coloq. Arg., Col. y Ur. Billete de 1000 pesos.
・extorsionar: 1. tr. Usurpar, arrebatar algo a alguien utilizando la amenaza respaldada por la violencia.
・mina: 11. f. Arg., Bol. y Ur. mujer
・sin fisuras.1. loc. adj. Dicho de una actitud, de una idea, etc.: Consistentes, compactas.
例) Una fe sin fisuras
・rollo: 6. m. Película fotográfica enrollada en forma cilíndrica.
・benjamín, na: 1. m. y f. Hijo menor y por lo común el predilecto de sus padres.
・segundón, na: 1. m. y f. Hijo segundo de la casa.
・levantarse: [América del Sur] Ligarse o acostarse con alguien.
・noviazgo: 1. m. Condición o estado de novio.
・frecuentar: 2. tr. Acudir con frecuencia a un lugar.
例) Frecuentar una casa.
・sancionar: 3. tr. Aplicar una sanción o castigo.
・tapar: 3. tr. Cubrir con algo, de modo que impida ver o ser visto. U. t. c. prnl. U. t. en sent. fig.
・baúl: 3. m. Arg., Col., Cuba, Guat. y Hond. Maletero del automóvil.
・con cama adentro: 住み込み、かな
・chiquilín, -a: [América] Infantil, aniñado. Inmaduro. [Uruguay] Muchacho.
・estar a mano: [América] En paz.
・pito: 11. m. coloq. pene.
Posted by: Reine | Sunday, March 02, 2008 19:55
■頭を使う作品。いやぁ、集中して観たね。細かくメモった。ちっちゃいセリフまでピッタリはまってくるからね。
■ファム・ファタール系の話なのかと思った瞬間もあったり。まぁ、あれだ、多くは語らない方がいいのでしょう。
■観た人の多くがきっとmentionするだろうシーンといえば、ギリシャのダンスのシーンだよね。特にあそこなんかで描かれる家族の絆が……あぁ……まぁ、黙っておくわ。
■印象的だったといえば、ベアトリス・テレールが部下たちに悟られないように始末した紙ね。それと大臣からかかってきた電話。テレール検事の身になって考えるとおっそろしいね。
あの電話。
テレール検事の応答しか我々には聞こえないわけだけれども、無駄な雑談から始まって本題になかなか入らない先方の様子と、いや、その雑談が既にテレール検事には十分に脅威となっただろうと想像できるところね。怖いな。
(´Д`)ふぅ…
「中南米って、この辺がおっそろしいよね」と他人事のように語れないし、我が国だって。怪死事件とそれにまつわる陰謀説なんて、今世紀に限ったってけっこうあるもんね。
んーーー。
さっきからあちこちのシーンを断片的におさらいで観てるけど、いちいち面白いわ。そして初見では普通に観ていたシーンでも2度目に観たらジワッと涙が滲んで来たり。
観るごとに理解と感動が深まる作品。
Posted by: Reine | Sunday, March 02, 2008 20:46
こないだの『ハモンハモン』での友人との会話じゃぁないが、本作もまたアレゴリーいっぱい織り込んであるんじゃないかな。西洋の人々が観るとギリシャまで遡ってこそ合点が行くシーンってのが、たぶんけっこうあったんじゃないかと思う。
そういう流れで、それでは原題はどういう意味なのかと、まだまだ考えているところ。
Posted by: Reine | Sunday, March 02, 2008 21:38
Reineさん
こんばんは。この映画、どこかで公開して欲しいですよね。
この映画、観てる側はギリシャとローマの歴史的な因縁までいっちゃいますよね。その深さが映画の中の背景のひとつにすぎず、ほかにもいろんなものが深い闇になって流し込まれていて、じつに見ごたえのある映画でした~。
底の見えない闇のような映画の中で、一家の男たちが着ていた真っ白なワイシャツの白さが強烈な逆光のように私のハートを直撃しました(^^;)。
スペイン語で味わえることのできるReineさんがいつもながらうらやましいです。
Posted by: betty | Sunday, March 02, 2008 22:40
どもどもご無沙汰しております。
この映画、面白そうですね。
judgeの件ですが、http://en.wikipedia.org/wiki/Judge
↑でいうinvestigating magistrate (examining judge、または単にmagistrate):予審判事のことかな?
間接的で申し訳ないのですが、wikipedia「予備審問」(日本が採用している制度)の説明のなかに、予審制度への言及があって、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%88%E5%82%99%E5%AF%A9%E5%95%8F
「予審では、強制捜査権を持つ予審判事が自ら積極的に証拠を収集する」
だそうです。日本の検事の役割に相当することを予審判事が行っているってことでいいのかな。
アルゼンチンに予審判事いるみたいですね。アルゼンチンの年表に「なんちゃら予審判事がうんちゃら」って表記がありました。
http://www10.plala.or.jp/shosuzki/chronology/laplata/argent2.htm
ひょっとしたら、このことなのかなぁと。
観てもいないのになんですが(いや、観ていないからこそなのか?)、タイトルは「死体袋」よりも「楽園の灰」の方が趣があるよな気がします。
と書き散らかしてひゅるりるり~。
ではでは、またまた~。
Posted by: もろ | Monday, March 03, 2008 16:07
もろさん
それです、それだと思います。m9(゚д゚)っ ソレダッ!!
いつもいつもありがとうございます。
これね、面白いと思いますよ。
機会があれば是非。
『ボディバッグ 死体袋』で検索かけた時にオークションにかかっているVHSが幾つか見つかりますが、それはたぶん日本語字幕とか日本語吹き替え版なのでしょう。想像だけど、レンタルビデオ店に置いてあったのが処分されたとかそういう品なのではないかな。
今現在もレンタル店にあるのかどうかは不明です。さちさんがレンタルした時には、「レンタル店でもすんごいマニアックな棚(B級ホラーコーナー)に追いやられてい」たそうです。
そのバージョンはジャケ写も、私の言っているジャケ写(amazonで売られているimport・英語字幕版)じゃなくて、死体メインみたいな構図らしいです。
そうじゃないんだよなぁ……。
私がコメディかと思い込んだくらいのあの明るい絵柄にこそ意味があると思うのです。そんなおどろおどろしい邦題・ジャケ写では、意義が正確に伝わらんと思う。
Posted by: Reine | Monday, March 03, 2008 23:23
bettyさん
いやぁ、アルゼンチン映画は私にはなんだか「よそのお庭」という感じで、英語字幕に助けられているなぁと痛感しながらの鑑賞ですよ、概して。今回のような良質ミステリーでは、どこかでレトリックで欺かれるのではないだろうか、ひっかからないぞ!と緊張しながら観る必要があったので、たいへんでした。
(※ただ、本作ではアルゼンチンのスペイン語に特徴的な点はこれといってめだちません。スペインスペイン語にしか慣れていない私のような人でもそう身構えずに聞き取れると思います)
闇の中の白いワイシャツかぁ……それひとつとってもなんか切なくなってきてしまいます。
そうそう、闇といえば…
あぁ、でもこれは若干ネタバレっぽくなっちゃうのかな……
未見の人は読まないように気をつけて…
夜の闇の庁舎のエレベーターを降りていくシーンありましたよね。IMDbでそれを「7階分おりていた(そしてそこに寓意が込められている)」というレビューがあったので、「そ、そうだったのか! きづかなんだ」と思って。そんな込め方されちゃっても私は気づかないよ、って地団駄ふんだりして。
でも、さっきそのシーンを数えたのですが、6階じゃないのかなあ……って。6フロアだと思うんだけど……
それはさておいて。これ、真面目な作品ですよね。
Posted by: Reine | Monday, March 03, 2008 23:34
ごめん。映画の話題じゃなくて・・・
>とにかくポワロさんたちといっしょになってパズルのピースをはめていく過程、ほんと楽しいよね。
わかる~!
クリスティ、読みながらこういう過程を楽しむの大好きでした。
だからドラマとか観てても、前後のつじつまが合わないとこ、ピースがしっかりはまらないとこがあると、気になってしかたない(苦笑)
Posted by: みなとのよーこ | Tuesday, March 04, 2008 13:16
よーこちゃん
この『Cenizas del paraíso』、よーこちゃんが観てもきっとおんなじように感じたと思いますよ。「あ。ポワロさん的プロット」などと。
クリスティ(特にポワロさん)とかって、ノスタルジーですよね。子供時代に帰るというか。(TOKYO MXで週1で放映していました。今はホームズなのかな)
しかし本作はやっぱり推理がメインではなくて、社会的テーマをガツンと問うてズシリと伝えることが主目的だとは思うのです。でもでも、話の進め方・広げ方・戻り方みたいのがクリスティものでも読んでいるような気分にさせてくれるのでした。
大人向けのドラマだと思うのですが、どうもね……日本での出され方がマズすぎたと思います。そんな見当違いの棚に置かれるような扱いを受けていたなんて…。もったいないなぁと思います。
Posted by: Reine | Wednesday, March 05, 2008 00:38
おひさしぶりです
アルゼンチン映画はなるべくチェックしようと思ってますが、初めて知りました、この映画。面白そう!
確かにジャケ写からはシリアスさが想像できないですね、
この写真の男性陣のヘラヘラした力の抜けた感じがアルゼンチンらしいと思いました。
監督の名前どこかで見たことが?と思ったらPlata Quemadaの人ですね、更に興味あり!
Posted by: waleska | Friday, March 07, 2008 11:37
waleskaさん
これは秀作です。アルゼンチンに思い入れ・思い出のあるwaleskaのほうがたぶん私よりも多めに感じ入ることになるんじゃないかな。
>男性陣のヘラヘラした力の抜けた感じ
↑
いやいやいやいや。これがね、そうじゃないんだよね。このシーンこそがね………あぁ、いろいろ言いたいことがあるのに言えないこのもどかしさ。
そう、監督は『El Método Grönholm』の人です。この人、すごいですね。いいね。
他には『Kamchatka』を以前ラテン!ラテン!ラテン!さん(vagabundaさん)が薦めてくださいましたよ。
Posted by: Reine | Friday, March 07, 2008 21:32