Iluminados por el fuego / ステイト・オブ・ウォー [アルゼンチン映画]
(1年前の第3回スペイン・ラテンアメリカ映画祭で上映されたアルゼンチン映画)
2001年12月ブエノスアイレス
エステバンは友人バルガスの妻マルタから電話を受ける。バルガスが薬を大量に飲み自殺を図ったという報せであった。エステバンは昏睡状態のバルガスをマルタと共に見守る。バルガスはフォークランド紛争で行動をともにした戦友であった。
「自殺を図った帰還兵は290人を超えた」「あの島で戦死した兵士の数に匹敵する人数だ」。バルガスの枕頭に詰めるエステバンは戦場での日々を回想する。'82年4月、エステバン18歳。
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子供の頃、あれはなんだったのかなぁ、あれかな、田中邦衛が銃でどうかしちゃうやつは『人間の條件』ですか? たぶんそれを観たのよ。それとか、太っちょがああなっちゃってどうのこうのしちゃうのは『フルメタル・ジャケット』だよね? あれも見るともなしに見たね。
あれらが強烈な印象を私に与えたとみえて、私、戦争映画、大NGなんだよね。まず上等兵の理不尽な言い草が頭に来るだろ、人が死ぬし、((((;゚Д゚))))ビクビクしてなきゃいけないし、とにかく悲惨で頭に来るから、もうホントにヤなのよ。
高校生のときには『プラトーン』を見て1週間後くらいに夢の中のジャングルで私はケヴィン・ディロンにぶっ殺されてたわ。あなたのお兄さん(の顔)の大ファンだと言うのに。まったく。怖すぎて死ぬかと思ったよ。
そんなだから、とにかく戦争映画嫌い。見たくない。
そうやって観るのも考えるのも避けてきたせいでしょうが、私、今回この『ステイト・オブ・ウォー』を観てようやく、「あ。そうだよね。兵士、風邪ひくじゃんね」と気づいた。気づいた時、本当に恥ずかしかった。
『八甲田山』の寒そうなのも覚えてるのよ、子どもの頃に見たんだもん。けど、それでもぜんぜん、「兵士が風邪をひく」という当たり前のことには思い至らずこの歳まで生きてきてしまいました。
兵士、風邪ひくでしょう。本作では若い兵士が大風邪に苦しんでいて、ホント、やめてあげてほしいと思って、後半は鑑賞が苦痛でした。(と、これを書いているのが実は100分中の52分の時点なのですがね。できればここで観るのをやめたい)
(フォークランド紛争について私は何もわかってない。当時小学生だったな。帰りの会で山田くん(実名)が説明してくれた姿は覚えてる。
大人になってスペインに行って、小勉強して1年経った頃のクラスは、北欧の子と私の3人だった。授業中ヒアリングテープでフォークランド紛争に関するドキュメンタリー番組を聞いた。聞き終わってから先生が「今のは何の話だったでしょうか」と質問したので、我々は「ナメんなよ、それくらい聞き取れましたよ」と、「Pues, el conflicto de Falkland, ¿no?」「O ¿la Guerra de las Islas de Falkland?」と答えた。先生は「Falkland?」と眉間にしわを寄せ、呆れたように「Son las Malvinas.」と言った。我々生徒は3人ともキョトーンとしてた。あの島々がLas Malvinasと呼ばれているのを、3人ともその時知った。
あの戦争についてどのサイトを読めばいいかわからないので、どこも挙げないでおきます。どこがどういう視点で書いてあるのか私にはわかんないから。
スペインの新聞『El Pais』にFOTOGALERÍA - Aniversario de la guerra de las Malvinas フォークランド紛争メモリアル写真集というのがあったので、それだけとりあえず和訳して紹介します。写真とこっちとチラチラ見てみてください。そうか今年2007年は25周年なんだね。
【マルビナス紛争終結から25周年を記念して回顧する】
1枚目: 誘因
開戦に先立つこと15日、アルゼンチンの捕鯨船乗組員が、船体の(?)解体作業のためにマルビナス近海の英領サウスジョージア島に上陸。イギリス政府は抗議声明を発表、船員が島にアルゼンチン国旗を掲げたとして強制退去の警告も発した。この一事が両国間に緊張をもたらした。
2枚目: アルゼンチン軍、マルビナスに侵入
1982年4月2日アルゼンチン軍が英領マルビナス諸島(アルゼンチン沿岸から480km)に侵攻開始。同日、英国は軍隊に厳戒態勢を指示、国連安全保障理事会は本件について協議を行った。
3枚目: マゼランに発見され、後に英領に
マルビナス諸島は1520年のマゼラン遠征で発見された。その領有権はスペイン、フランス、アルゼンチンと移ったのち、1833年にイギリスの手に渡った。以来、マルビナス諸島は常にイギリスとアルゼンチンの外交的緊張の核であった。1982年4月2日から6月14日まで続いたマルビナス紛争は、まさにその結着ともいえる事態だった。
4枚目: イギリスはアルゼンチンと国交断絶
アルゼンチンはマルビナス諸島および 南ジョージア・南サンドウィッチ諸島の領有を主張。同日イギリスはアルゼンチンとの国交断絶を通告。出軍および対アルゼンチン経済制裁を発表した。
5枚目: 対陣
4月5日、イギリス軍がポーツマス港およびプリマス港からマルビナス諸島へ向かう。5月1日、イギリス軍はマルビナス諸島の主都プエルト・アルヘンティーノを、翌日にはもう一つの主要都市プエルト・ダーウィンを海空から攻撃した。5月6日、アルゼンチンの巡洋艦ヘネラル・ベルグラノが原子力潜水艦コンカラーによって撃沈され、323名の海軍兵士が命を落とした。
6枚目: 外交
5月6日、国連は両軍の撤退、平和交渉の開始、対アルゼンチン経済制裁の撤回、交渉中の国連による暫定統治などの項目を含む調停案を提示。サッチャー政権はこれを拒否
7枚目: 英国軍の動員
5月12日、輸送艦としてのクィーン・エリザベス2号に乗り込んだ3000人のイギリス兵士がサザンプトン港を出発。その中にはグルカ兵もいた。以降、海戦・空戦ともに激化した
8枚目:
国際機関はいずれも終始両国に対し紛争の解決を訴えていた。教皇ヨハネ・パウロ2世はアルゼンチン・イギリス両国の枢機卿を召集し、平和祈念のミサを執り行った。国連では幾つかの国が拒否権を行使したため、停戦決議に至らなかった。
9枚目: 陸戦開始
6月1日、イギリス軍がプエルト・アルヘンティーノから20kmのケント山占領。陸戦の開始。以降、アルゼンチン軍陣地へ大きく前進していく。
10枚目: 降伏
6月14日、イギリス軍のジェレミー・ムーア将軍とアルゼンチン軍司令官マリオ・ベンハミン・メネンデスが停戦調印。アルゼンチンが降伏を受け入れた。ブエノス・アイレスでは降伏に抗議するデモが行われた
11枚目:犠牲者
74日間の戦闘で600人強のアルゼンチン兵士と、200~300人のイギリス軍兵士が死んだ。(死者数について諸説あり)
・Iluminados por el fuego @IMDb
・英題: Blessed by Fire
・公式サイトの英語表記: Enlightened by Fire
・2006スペイン・ラテンアメリカ映画祭では『火に照らされて』という邦題だった
・Iluminados por el Fuego 公式
・ステイト・オブ・ウォー@ぽすれん
ステイト・オブ・ウォー@映画生活
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Comments
この映画は知りませんでした。これ見たらマルビーナス戦争のことがよくわかりそうですね。マルビーナス戦争はまだ30年も前じゃないので、けっこう現地の人の中では最近の出来事って感じがします。
マルビーナスモノでは、「Fuckland」という映画をお薦めします。 http://www.imdb.com/title/tt0270957/ DVD化されているかわかりませんが、現代アルゼンチン人のマルビーナス観みたいなものがちょっとわかって、映画自体もドキュメンタリー仕立てでちょっと変わってます。
私は戦争ものは嫌いではないのですが戦場が出てくるのが苦手です。戦時下の人々の暮らしみたいなものがテーマのときは平気です。
Posted by: waleska | Thursday, August 16, 2007 15:26
Waleskaくん
情報thx。
そう、最近も最近ですよね。私にとってだってもろに‘最近’という感覚だもん。だって、考えてみれば、82年に18歳だったエステバン達は現在は43歳ですよ。私とたいして変わらないし、うちの姉兄みたいなもんです。そういう意味ではリアルな戦争の記憶と言えます。
『Fuckland』はIMDbでplotを読む限り面白そう。waleskaがアルゼンチンに行ってる頃の作品なのかな? Amazonでは『Fuckland - Cine Ficcion / Verdad』という洋書があるみたいですね。
『Iluminados ~』は思い切り戦場が出てくるのでwaleskaの苦手系かも。
>これ見たらマルビーナス戦争のことがよくわかりそうですね
↑
この期待に応える作品かというと、そこんところはあんまり自信ないです。戦争・戦場のことはわかったけど、それじゃマルビナス戦争のことがわかったかと言われると、「えっとどうだったかな……」と思い出しちゃう感じ。
Posted by: Reine | Thursday, August 16, 2007 17:44
(※他に戦争映画をよく知らないのでうまく言えないんだけど)
マルビナス戦争のことがわかったかと訊かれると断言できないわけですが、なんかその辺、やっぱり描き方が弱いのかも。良くも悪くもマイルドな描き方をしている作品だと思います。なんたって私が普通に観ることができたくらいですからね。戦闘も傷口も上官の無謀も意地悪も、全てがやんわりと描いてあると思います。
だから、マルビナス戦争そのものについて何か強烈なinfoを受け取るかという点では淡い。(その辺がもしかしたらIMDbで7点を越えられずにいる遠因かも……?)
たとえばグルカ兵。
上官が「グルカ兵なんか恐れるな!」と叱り飛ばすシーンがあったけど、そういうセリフがあったから「なるほどアルゼンチン兵はグルカ兵を恐れてたのですね」という了解をするわけだけど、描写がそれっきりであったりとかね。
そういうところがマイルドだなと思った。(マイルドじゃなくグルカ兵への恐怖を描かれちゃった日には私は観ていられなかったんだろうけどね)
Posted by: Reine | Thursday, August 16, 2007 17:58
私、グルカ兵なんてほとんどなんにも知らなかった。Wikiのフォークランド紛争のところで拾い読むと、一連隊まるごとグルカ兵にやられたとか、グルカ兵に首を刎ねられるんじゃないかとものすごく怖かったとか書いてありますね。
繰り返しになりますが、もしもこんなの↑を色濃く描かれちゃった日には、私は途中で観るのをやめなきゃいけなかったわけです。
Posted by: Reine | Thursday, August 16, 2007 18:00
ただ、別のところで「実際、戦場ってこんな感じなのかも」と思ったのは、本文でも書いたとおり兵士が風邪をひいていたりするところでした。寒そうでね。猛暑を忘れられるような寒風を感じたっつうか。
あと、主役エステバンにガストン・パウルスをもってきたところもよかったです。20年の歳月をどっちも普通に演じられるのって、あの人のとっつぁん坊やっぽいルックスの成せるわざだと思う。
だから、戦場でのエステバン(とバルガス、フアンという戦友たち)のあどけない面立ちが辛い。そんな顔で「俺、蚊くらいしか殺せないんだよな」とか言われると、兵隊に連れていかれる人なんてそういう感じなのかもなとか思ったわけ。
飢えに苦しんだバルガスとフアンとエステバンの新兵3人組で何とか肉を手に入れるのね。その辺もうちょっと強烈なことを描いてもよさそう――なぜならうちの祖父はもっと飢えてもっとヒドいものを死ぬ思いで口にしていたから――なんだけど、そういうところで極端に走らないのがこの監督なのでしょうかね。
Posted by: Reine | Thursday, August 16, 2007 18:14
あと5分で移動するから荷物をまとめろとかいうシーンでΣ(゚∀゚*) ハッと思ったのは、私は戦場は無理だなってこと。だってトイレが近いからなって思った。あと○分で発つとか言われると、「あ、トイレ行ってないんだよな(;゚Д゚)」って焦るんだよね。そんなのを毎日毎晩、いつ終わるかわかんないまま続けるなんて無理。
だいたいが寒そうだしね。私なんて冬は家から一歩も出たくないくらい、寒さが嫌いで。寒さが嫌いなだけじゃなく、人々の咳が嫌いで、外気にウィルスがウヨウヨしてそうだから息をするのもイヤだってんでマスクを手離せないわけで。あんなマスクはおろか手袋もろくにないような生活、絶対にヤだと思った。
だいたいが上官が「諸君おはよう」なんて来たら気をつけの姿勢で「おはようございます、大尉!」とか大声で揃えなきゃいけないんだぜ。無理。そういうの、「うわ、俺、大声でおはようございます大尉とか言ってるぜ」って思って気恥ずかしくなっちゃうんだよね。
こないだ甥っ子姪っ子を連れてプラネタリウムに行ったんだ。おねえさんがマイクで説明してくれた。赤いビームみたいので示しながら説明してくれた。その時、「はい、じゃぁ、みんなぁ、お星さまのこと呼んでみようか、せーので『おほしさまー』って言ってね、せーのっ」で、「おほしさまーーーーーーーっ」って叫ばされたんだけど。
あたしそういうの辛くて。
もごもごやってたら、おねえさんそういう輩はお見通しで、「あれー、声が小さいよー? お星さま出てきてくれないよー? みんなー、隣の席のお父さんお母さんはちゃんと言ってるかなーー? もう一度言ってみよう、せーのっ……」でまた「おほしさまーーーーーっ」って叫ばされたんだけど。
「おはようございます! 大尉!」とか絶対大声で叫べない。
だから戦争に連れて行かれるのはごめん被る。
Posted by: Reine | Thursday, August 16, 2007 18:29
アルゼンチンのことばがまだよくわかんないんだけど、上官が3人称で怒ったり命じたりしてるのは、あれはいったいどういうことなの? 軍隊というのはそういう規律正しい言葉遣いで怒鳴りつけたりするということなのですか?? スペインの戦争モノでも3人称で怒鳴り散らしてるんですか???
規律違反の部下をひっつかまえて殴りつけたり匍匐前進・ウサギ跳びを命じたりするシーンで、「Míreme.」から「Vos a mí no me conocés.」となり、すぐに「Mírame.」となり、共犯の部下たちに向かって「Entendéis?」となり、最後に一人に向かって「¿Y usted entendió?」となってた。3人称と2人称を行ったり来たりしてる感じで戸惑った。
Posted by: Reine | Thursday, August 16, 2007 18:37
そうかー、マルビーナスは寒いんですよね。嫌ですね、寒いところで戦うの。
Fucklandはちょうど私が行ってた時に公開されていて、つまらないという感想を漏らす人が周りには多かった気が・・・。
ドキュメンタリーを模したフィクションって感じの作品(どこまでフィクションかは曖昧ですが)当時流行っていたブレアウィッチプロジェクトのパクリという人が多かったような・・・。
ustedの件ですが、アルゼンチンのほうの方言なのかはわからないですが、以前アルゼンチンで、知人の母と娘の会話で、母が娘に対する怒りを我慢しながら、距離を置きながら諭すように話しかけてた時にusted使ってたのが印象的でした。
日本語でも怒ってるときに親しい人に対して敢えて敬語使ったりすることあると思うので、似たような感覚なのかなーと思いました。
Posted by: waleska | Monday, August 20, 2007 04:50
イヤそうだったですよ>寒さ
『Fuckland』は主人公の思いつきとそれに基づいた行動(つまり題材)は面白そうなんだけどな。そこを面白く撮れなかったのかな。残念だな。
ちなみにスペインの戦争もの・軍隊ものだとどんなしゃべりだったかなぁと思い出そうとしてるんだけど、そもそもほとんど観て来なかったんだよな、私。こないだGyaoで『非常戦闘区域』を見ようとしたんだけど、たしか25分くらいで断念したと思う。主人公たちがいる情況を想像したらおそろしくて耐えられなかった。
Posted by: Reine | Tuesday, August 21, 2007 21:38
語句メモを書き忘れていたことに気づいたので。ちょっとだけ。
・guita: [女][口語] Dinero contante.
・mangar: [他][口語][アルゼンチン][ウルグアイ] Pedir dinero prestado.
・chancho: [男][アメリカ] cerdo
・cagazo: Miedo, temor a algo.
・viejo, ja: [名][口語][アメリカ] Usada como apelativo para dirigirse a la madre o al padre, a la esposa o al esposo, o entre amigos.
・bancar: [他][再][口][アルゼンチン][ウルグアイ] Soportar, aguantar a alguien o algo.
例) A ese pesado no lo banca nadie.
例) No se banca las críticas.
・q. e. p. d.: que en paz descanse
・「¿No la extrañas a tu novia? カノジョに会いたくならないか?」と戦友とことばを交わすシーン。直接目的語のこのような繰り返し方は、アルゼンチン辺りの特徴ですというのは、これまでにも「Lo ando buscando a Walter.」(『ボンボン』)や「Lo querés mucho a tu papá.」(『バレンティン』)でも見てきたパターンですよね。
・エンディングの最後の最後の方で現れるメッセージ⇒「Las Malvinas son Argentinas. マルビナス諸島はアルゼンチン領」
・エンディングで流れる歌は、えっと忘れちゃったんだけど、かなりメッセージ性のある詩であり歌だったので、サッサと停止しちゃったりせずに聴くとよいと思います。
Posted by: Reine | Thursday, September 06, 2007 20:26