Inconscientes [スペイン映画]
原題の『Inconscientes』を「無意識の人々」とでも読んでおこうかと思う。
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第一次大戦開戦も間近い1913年。
エクスタシーの合成に成功した製薬会社が特許を取得し、アーサー・ウィンがクロスワードパズルを、メアリー・フェルプス・ジェイコブ(Mary Phelps Jacob)がブラジャーを、それぞれ考案した。性欲理論を展開したフロイトは各国を廻る旅の途中であった。
※ちなみに、ちょっと調べた感じでは、1913年はフロイトが『トーテムとタブー(Totem and Taboo: Resemblances Between the Psychic Lives of Savages and Neurotics)』を発表し、ユングと訣別した年みたいですね
スペインは……スペインはどうだったのか。当時のスペインでは大っぴらに語られる「エクスタシー」といえば「聖女テレサの法悦」くらいなものだった。
♀アルマ
♂レオン(アルマの夫; 精神科医)
♀オリビア(アルマの姉)
♂サルバドール(オリビアの夫; レオンの親友; 精神科医)
♂ミラ博士(アルマとオリビア姉妹の父親)(精神医学の権威; 病院長; レオンとサルバドールは部下)
ありふれた昼下がり、マンションに戻りエレベーターで昇っていくときにアルマは階段を下りていく人影を見た。胸騒ぎをおぼえて家に駆け込むと、夫レオンが絶望にぶちのめされて泣き濡れていた。「家も財産もすべて君のものだ」「君を愛しているが行かねばならない」と言い置くやレオンは、追いすがるアルマの手をふりほどくようにして家を出ていってしまった。「警察に知らせたりしたら君を殺すよ」とまで言い残して。
アルマは、友人(であり義兄)のサルバドールを巻き込んでレオンの探索を開始する。レオンの書斎に残された『ヒステリックな女性の4事例』という草稿が唯一の手がかりである。二人は彼の足取りを辿るうち、あの論文に記録された女性患者の一人を発見し尾行する。
女を乗せた車は郊外の怪しげな館で停まった。胡乱な男が出入りしている。サルバドールはしぶしぶ乗り込んでいくのであった。
レオン失踪の真相を追うこの旅はやがて潜在していた真実を暴き、抉り出す。
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観てる我々が登場人物の性格を分析・推理する。「何がこの人のコンプレックスなのか」「この人、どういう風に育ってきたのか」って。それを考えながら観ている自分がおかしかった。友人同士とか姉妹の間に横たわっている嫉妬のような厄介なネガティブな感情を、普段は抑えて隠して生きるのがちゃんとした大人というものですが、それがチラチラと垣間見られるのが、覗き趣味的な面白さをもたらす。そんな映画です。
他人に対してのみならず自分自身に対してもウソをついて隠し通そうとしてしまう「私」の中の欲求・欲望は、普段は「三猿ブロック」で堰きとめているものなのだけれども、決壊してしまうときが来たらどうするの? その欲望に素直にしたがって生きるのかどうするのか。そうした先に待ち受けているのは解放という幸福か、崩壊という不幸か。
………なーーーんてムリヤリ小難しく考えずに、まずは楽しんで観たい作品。謎解きなんかをね。まぁ、正直、私、ここまでの数十行でかなりデカいヒントを残しちゃったつもりですけれどもね。
日本のレオノール・ワトリングファンの間で、彼女の可愛らしくセクシーな魅力は、この作品で語られるようであって欲しい。『マルティナは海』よりも。
(つづきをコメント欄で)
監督: Joaquín Oristrell ホアキン・オリストレル
脚本: Dominic Harari ドミニク・アラリ Joaquín Oristrell Teresa Pelegri テレサ・ペレグリ
音楽: Sergio Moure セルヒオ・モウレ
撮影: Jaume Peracaula ジャウメ・ペラカウラ
出演:
Leonor Watling レオノール・ワトリング (Alma アルマ)
Luis Tosar ルイス・トサール (Salvador サルバドール)
Alex Brendemühl アレックス・ブレンデミュール (León レオン)
Mercedes Sampietro メルセデス・サンピエトロ (Sra. Mingarro ミンガロ夫人)
Núria Prims ヌリア・プリムス (Olivia オリビア)
Juanjo Puigcorbé (Dr. Mira ミラ博士)
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Comments
各登場人物の性格はけっこう親切に説明されてるんだと思います。私は普段はあんまりそういうのを考えながら映画を観ていない人間だと思うのですが(←えぇぇそうなの?)、今回は自然とそういうのを考察している自分がいたからね。考察しない私でも考察させられたのは、やはり「考察しろよ」という作りになっていたからではないかと考察。
観ながらそういう人物描写で気づいた点をメモってあったんだが、今読み返すと、わかりきったことしか書き取ってないようなので、ボツ。
Posted by: Reine | Sunday, November 26, 2006 21:59
私は『Eyes Wide Shut』という映画は公開当時のテレビCMしか観ていない。それしか知らない。それしか知らなくて、観た気分でいる。
だから私自身は何とも言えないし、将来わざわざ『アイズ・ワイド・シャット』を観るとも思えないので検証は未来永劫不可能なのですが、この『Inconscientes』には『Eyes Wide Shut』をパロってる部分があるでしょ??? オマージュっていうよりパロディなんじゃないかと感じたのでググってみたら、やっぱり言及している記事が幾つか拾えるようだ。
www.cinencuentro.comとか、hemeroteca.elconfidencial.comとか、個人のブログだと思うけどplaythatmovieagain.blogspot.comとか、その他にもチラホラと。
うむ。ニヤニヤしちゃうよ、まったく。
Posted by: Reine | Sunday, November 26, 2006 22:03
スペイン語を聞く‘教材’という点ではふさわしくない作品かな。聞き取りにくいと思う。私の耳の問題かと思っていたけれども、IMDbのコメント欄でも、マドリード在のユーザー(国籍は不明)が、「The sound, though, was not very good. In part because of the actors (many of them, the young ones, don't vocalize and it gets hard to understand their speeches) 」と書いていた。
しかし、そんな聞き取りづらい中でもよくよく聞いているとどうも「膣が狭い」という文脈で、「Eres estrecha.」とか「(それを受けて) Es que lo soy.」とか、つまり「人 + ser動詞 + estrecha」と言ってるように思えるんだが、そうなのかな? この句でソレを表すもんなのですか。ほほぅ。
こういうのを検索するのはわりと難しいのだが、まぁ、例えばこういう一文を見かけたりはした:
>le tuvieron que hacer cesárea con los dos porque dicen que ella es estrecha. (彼女は膣が狭いので帝王切開しなければならなかった)
他にもやはり「vaginismo(=ワギニスムスか)」の話をしている中で、「人 + ser + estrecha」の表現が用いられている文章を幾つか目にしたので、そうだな、うん、まぁ、それで通じるということなのでしょうな。
……って、この表現を知ってどうするのか>我
いや、待て。
vaginismoか…………。
これ、大事なポイントかもしれないぞ。
性交痛がが女にどういう苦悩をもたらすのか。どれだけ自分の体を呪うか、わかりますか、あなた。勃たないと悩む男と、痛いと悩む女の絶望の度合いってドッコイドッコイだと思うよ。
私も今回この事項を調べるまでは、「Vaginismo/ワギニスムス」などという語は知らず、「性交が苦痛である」というのは肉体の構造の問題だろうと思っていたのですが、どうも精神的な問題でもあるらしいじゃないすか。
「膣が狭い」と苦悩しつづけてきた女が、苦痛が実は精神から来てるかもしれないと気づいてしまった時、いったい彼女はその後どこに向かうだろうね。
と、その辺を考察してみるのも、この作品を鑑賞していくのにはちょっと役に立つかもよ。
Posted by: Reine | Sunday, November 26, 2006 22:32
舞台はバルセロナなんだよね。でも、ほとんどが室内シーンなので、ぜんぶセットだろうと思っていた。
しかし、終盤でホテル・グラン・ビアというのが映る。「ん? これ…ロケじゃん?」と思った。ホテル玄関や内装に見覚えがあるような無いような……。そのシーンを巻き戻して見た。玄関の様子はwww.barcelona-tourist-guide.comの写真と比べても、ホントおんなじだと思う。やっぱりロケをしたと思う。
ここ、両親がスペインに来るという時に、ガイドブックをめくってたら、「リッツ・ホテルよりも格は落ちるが、内装はクラシックで、同じように落ち着いている。設備は古いが、それだけ値段も手ごろ。熟年の夫婦づれの旅行には最適。」と書いてあったので泊まったんだわ。90年代後半のこと。
他にも写真を探してみる
・www.ciao.es
・www.123france.com
実際に泊まった私としては、こんなに美しかったという記憶は残念ながら無い ――まったく無い―― のですが。写真のマジックに感嘆しているわけですが。館内で母が迷子になったとか、そういうのは覚えてます。
そして、2005年の旅行でもそこに泊まった。体調が悪かったしバタバタとしていたので印象が薄いんだけども。今度バルセロナに行く時にもう一度泊まってみるよ。皆さんも是非。
ちなみに、受付のおじさんは私は二人見かけたのですが、親切な人といぢわるな人がいたように記憶しております。
Posted by: Reine | Sunday, November 26, 2006 22:45
↑そのホテルの内装にもわくわくしますが、この作品はおしゃれです。
始まって4、5分で、「なんて素敵♥」とウットリしちゃってた。洋服が可愛いだとか、当時の流行がうかがえてどうのこうのとか、インテリアにわくわくするとか、そういうことはこれまでほとんどコメントしていないが、『Inconscientes』では否が応でもそれに目が行くのでした。
時代考証はどうなのかわかんない。鮮やかなパステルカラーのピッカピカのテロテロの着物を着ている時代劇みたいなもんかもしれないよね、実は。
でも目を奪われますよ。たしかに。私が「映画の中のおしゃれ」を褒めるなんて滅多にないことなので我ながら小さくビックリ。
Posted by: Reine | Sunday, November 26, 2006 22:51
以下、ネタバラシ気味
私、この作品はきちんと聞き取れたと感じていないです。そのせいで話の細部もまだ理解しきっていない。あと2回は観ないとわかんないと思う。なので、ちょっと疑問点をメモしておきますが:
女は自分の産んだ赤ちゃんを手放せるものなんだろうか?
そこの辺りがまだどうも腑に落ちていないのです。でもなんか私が理解を誤ってるのかも。
もう一点、これは別に疑問ではなくて。
親が子を抱き寄せて庇って護る姿にシンミリ。
Posted by: Reine | Sunday, November 26, 2006 23:03
・ciático, ca: 坐骨神経痛
2. m. Anat. nervio ciático.
3. f. Med. Neuralgia del nervio ciático.
「Es una celosa enfermiza.」
・falo: pene
・miembro: pene
・estar alguien al pie del cañón: coloq. No desatender ni por un momento un deber, una ocupación, etc. 責務を果たしている
・メアリー・シェリ
・Estás de nueve meses. = Estás embarazada de nueve meses / Estás preñada de nueve meses. = 臨月である
・ama de cría = ama de leche: 乳母
・romper aguas: Sufrir la rotura de la bolsa que envuelve al feto y derramarse por la vagina y la vulva el líquido amniótico.
・confidente, ta:
2. m. y f. Persona a quien otra fía sus secretos o le encarga la ejecución de cosas reservadas.
・a rienda suelta:
1. Con violencia o celeridad.
2. Sin sujeción y con toda libertad.
・「un San Jorge rescatándome del dragón (ドラゴンから俺を救ってくれる聖ホルヘ)」というのは、ゲオルギウスの竜の奇跡を踏まえての発言なんだろう。
父ミラ博士が医学生たちに向かって、「諸君、女性も男性と同様に知的なのだよ」と言うシーンがあるが、http://es.catholic.net/escritoresactuales/422/403/articulo.php?id=19175によれば1913年頃というのはアルフォンソ13世が女性の大学進学を認めた時代ですと。
Posted by: Reine | Sunday, November 26, 2006 23:09
・Inconscientes @IMDb
(英題: Unconscious)
・Inonscientes @Yahoo! Cine
(友人Carlesがスペインから遊びに来る時に買ってきてくれたので値段は知らない)
・Inconscientes(←これがサントラではないだろうかと思うのだが自信なし)(注: 「レーベル: Karonte」)
・http://www.comohacercine.com/bso_ficha.php?id=166 ←ここをみると「Distribuidora: Karonte」だから、やっぱりあれ↑で正解なんじゃないかな)
Posted by: Reine | Sunday, November 26, 2006 23:12
>親が子を抱き寄せて庇って護る姿にシンミリ。
↑
いや、寝る前に思い出してみたんだけど、これは要再考かもしれない。あのシーンをよくよく見直す必要がある。「庇って護った」のではなかったのかもしれぬ。逆だったかもしれないじゃない。逆とはつまり、親が子を逃すまいと抱え込み、そのままいっしょに死のうとしたかもしれないじゃない、ということです。
というメモをして、寝ます。
Posted by: Reine | Monday, November 27, 2006 01:37
当blogに遊びに来ていただき、ありがとうございました。
"Inconscientes"、すっかり忘れておりました(殴)。Reino de Reineさんのレビューを拝見する限りでは、スペイン語映画にありがちな、人間の暗部をさらけ出す、陰鬱な空気が流れていそうな作品のようですね。。。そこが好きなんですが。日本で公開してくれることを願います。
Posted by: さるくま | Monday, November 27, 2006 21:36
さるくまさん、こんばんは。コメントありがとうございます。
いや、それがですね、人間の暗部といえばたしかに暗部なのですが、それをポップに描いちゃってるから楽しめるのです。陰鬱じゃないのです。おしゃれとすら感じるくらい。可愛らしい作品だと感じましたよ。テーマは重いはずなんですけども。
日本で公開……。どうかなぁ……私は難しいとみているのです。レオノールの魅力だけでは日本まで運ばれて来ないと思うのです。‘男ペネロペ’的な、たとえばガエル~とかそういう美男子くんでも絡んでくればまだ実現可能かもしれないと思いますが。難しいですねぇ。
来ないだろうなぁと考えなきゃいけないのが口惜しいですなぁ。
Posted by: Reine | Monday, November 27, 2006 21:52
こんばんは、TB&コメントありがとうございました。
私はあらすじも知らずにこの作品を見たのですが、
なんとなく、フロイトの学説が物語に関係していることだけはわかりました。
こちらの記事を拝見して、あらすじがやっと飲み込めたぐらいです。
それはさておいても、レオノール・ワトリングの魅力が引き出されていた作品でしたね。
『トーク・トゥ・ハー』はため息が出るほど美しかったのですが、
こちらは表情で魅せてくれました。
Posted by: 丞相 | Monday, November 27, 2006 23:18
丞相さん、お返事遅くなりました、コメントありがとうございます。これは、けっこうストーリーがわかりづらくなかったですか? 細かい箇所について、「そういえばあの伏線はエンディングまでに回収されたんだっけ? どうだったっけ? 何と説明されてたっけ???」と振り返って思い出さなきゃいけないシーンがけっこうあったように感じます。私、もう1,2度見直さないと本当にはわかることができないような気がしています。
でも、とにかくレオノール・ワトリングが、そう、表情が可愛らしくて良かったです。あとSalvador役のLuis Tosarのレオノール・ワトリングに振り回される、その振り回され方が可笑しくて可笑しくて。
楽しい作品なんですけどねぇ……、やっぱり、んーーーー、ああいう「オチ」ではやはり日本公開は無理っぽいなぁと感じるのでありました。
Posted by: Reine | Friday, December 01, 2006 13:01