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Wednesday, May 03, 2006

El Hijo de la Novia / Son of the Bride [アルゼンチン映画]

hijo
子供の頃ラファエルは年上の子らにいじめられると怪傑ゾロになりきって仕返しをした。いじめっ子たちが追いかけて来ると、仲良しのフアン・カルロスが助けてくれた。二人で全力で逃げた。家まであと少しとなったら「ママー!」と叫ぶ。母ノルマは必ず門を開けて待っていてくれ、いじめっ子たちを追っ払ってくれた。

母はフアン・カルロスとラファエルを迎え入れるとこう言った。

クッキーを食べる? 腕白なあなた達のお口に合うかわからないけど」。


ラファエルは父ニーノのレストランを継いでしゃかりきにやってきた。業者への支払いに追われ、電話で怒鳴り散らし、時には仲間を罵り殴り切り捨てもした。この店で出すティラミスはラファエル自身の人生よりも苦い。安いクリームチーズとパウダーシュガーで誤魔化してきたから。マスカルポーネは高くつく。

別れた妻との間にビッキーという娘がいる。仕事に時間を奪われて、ビッキーを学校に迎えに行くのもままならない。食事中にも仕事の電話はひっきりなしで、学校の話を聞いてやることもできなかった。ふてくされたような泣き出しそうな顔で二階に上がって行ったきり、ビッキーはおりてきてくれない。

若い恋人ナティとは踏み込んだ話はせずにいる。縛られたくないだろう、お互いに自由で居ようじゃないか、互いに立ち入らないでやっていこうじゃないか。


母ノルマはアルツハイマーで施設に入っている。見舞いに行ったのはもう一年も前のことだ。父が店にやってきて言う、今日は母の誕生日だと。父さん、お見舞いには行けないよ、今、店が忙しくてしっちゃかめっちゃかなんだ。それに母さんは別に俺に会いたいとも思っていないだろう。

父はラファエルに打ち明ける。「母さんにプレゼントしたいことがある。結婚式を挙げてあげたいんだ。教会式のウェディングを」。父さん、そんな突拍子もないことを。母さんはもう、それの意味もわからなくなってるんだよ。明日また冷静に考えた方がいいよ……。


その夜、ラファエルは心臓発作を起こして病院に担ぎ込まれる。

「俺は何を生きてきたんだろう」。ラファエルは初めて立ち止まった。
_____________________


母モノは私の弱点なので、これは覚悟が要る映画でした。「君は気に入るはず」と薦められていたとおり、たしかに気に入った。そして当たり前のように泣いたよ。いろんな箇所で。

だけど、思っていたほどには泣かないで済んだ。理由は幾つかある:

1) 静穏
大仰なつくりになっていないんだよね。ベッタベタな泣き所を設けていない、静かで穏やかな淡いつくり。

2) 微笑
微笑むという意味での笑いのシーンが用意されているので、そちらで顔がほころんじゃって。

3) ことば
私の超苦手なアルゼンチンのスペイン語なので、そっち(語彙とか音とか活用とか)に気をとられていてストーリーへの集中を削がれたという障壁。

4) フラッシュバック
序盤の30分(ラファエルが倒れるところまで)、ラファエルの、人を人とも思わないような傲岸不遜な高圧的な専制君主的な………幾らでも修飾語を繰り出せるけども、とにかくあれだ、典型的な‘ムカつく上司’的な態度が、過去に仕事で関わった、大大大大大嫌いなporteño(ブエノスアイレスの住民)のことを思い出させるもので、私は、その仕事で心的に負った一生モノと言えるくらいの深傷を今さら抉られるようで、たいへんにストレスフルだったのだ。

このストレスが障害となって、この作品に入り込むのが遅れた。それで、涙量も予想を下回ったのです。

序盤のラファエルは私にとっては本当に嫌な人物でした。ラファエルの醸し出す負のパワーにそこまでゲンナリした観客が地球の裏側にいたなんて知ったら、フアン・ホセ・カンパネラ監督やラファエル役のリカルド・ダリンはさぞ喜ぶだろう。

私の涙量が意外に少なかったのは私の個人的なネガティブな思い出が入り込んだからであって、ふつうに観ればもっとじんわりと感じることのできる作品だと思いますよ。

あのジャケ写で微笑む母ノルマを見ただけでグッと来るはずなんだわ。


(アルゼンチン映画)
(語彙などコメント欄で)

El Hijo de la Novia 公式
(直訳: 花嫁の息子)
(アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品)
El Hijo de la Novia @IMDb

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El Hijo De LA Novia (Rba Literaria) (ハードカバー)

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Comments

娘ビッキーにも恋人ナティにも耳を傾けたことのなかったラファエル。

父たるもの、仕事のことでせわしなくて頭がいっぱいだからと言え、無邪気に話しかける娘に向かって、「hinchapelotas なことはやめてくれ(あー、うるさい、うるさい!)」と言ってしまってはいけないでしょ。

hinchapelotas:
(adj. coloq. vulg. Arg. y Ur.)
Dicho de una persona: Que molesta y fastidia.

Posted by: Reine | Wednesday, May 03, 2006 01:13

恋人ナティに対してもヒドい態度をとってしまっている。心臓発作で病院に運ばれたラファエルのそばにずっと付き添ってくれていたナティに対して、こうですよ(ちょっと長いけど):

「俺の夢、なんだと思う? 20年前にはたくさんあったけど、42歳ともなるとさすがにもう夢なんて一つしか残ってない。一年に一つ実現したとしてももう間に合わないしな。

一つだけ残った夢って言ったら………ここから消えていなくなることだよ。

もう限界だ。何もかもダメだ。何もかもが煩わしい。いったい何になりたくてこんなに働いてきたんだか。

今の俺には誰の役にも立ってないようなあのレストランがあるだけだ。うちのお袋の言ってたことは正しかったよ。

俺は……どこかへ行ってしまいたい……。

どっか遠く……どこだろう……メキシコかな。いつからかわからないけど、メキシコに行きたいと思ってきた。どうしてだろうな。魂だけ持ってメキシコに行ってしまいたい。

寝そべって……業者だ、支払いだ、銀行だ……そういうのが何も無いところで。本でも読むとか。

誰も俺の邪魔をしないところへ行きたいよ。

それが俺の夢だよ」


これ、恋人に話して聞かせちゃいけないでしょ


ナティの奥でふっつりと何かが切れるのがわかります。ナタリア・ベルベケが実に切ない表情を浮かべるのです。

観客の私にだってそのナティの絶望感がわかるってぇのに、鈍感なラファエルは追い討ちをかけるようにナティに質問する。「君の夢は?」って。


観ている私としては「あーーー、ソレ訊いちゃうか!」「今この文脈で聞くか、それを、しかし!」と頭を抱える。そして、「『わからない』って答えるしか無いよな」って同情の目でナティを見るのです。

そしたらやっぱりナティは、「……私の夢……わからないわ……わからない……」と絞り出すように答えるのでした。


大事だと思っている相手からお前は要らないと宣言されてしまった人間が夢を尋ねられたところで、他にどうにも答えようが無い。

Posted by: Reine | Wednesday, May 03, 2006 01:34

ここからネタバレ気味

↓↓↓↓↓

まぁ、ラファエルがあんなだからナティが終止符を打とうと思うに至ったのも無理は無いのです。ある日「あなたを好きだかどうかわからなくなってしまった」とナティは言います。

「あなたはアインシュタインの頭脳も持ってなければ、ビル・ゲイツのような財産もあるわけじゃない。ディック・ワトソンでももちろん無いし。それでもあなたを好きだった。理由なんて無い。好きだった。だけど今はわからなくなってしまったの」


こんな大事な局面でラファエルはついつい「ディック・ワトソンって………誰?」 と質問してしまうのですが、それは観客の我々もおなじ。

「ディック・ワトソンって………誰?」 というはてなマークはラファエルと我々の頭の隅にいつまでも残る。ズンドコベロンチョ状態。

※エンド・クレジットを見続けていれば謎が解かれる

Posted by: Reine | Wednesday, May 03, 2006 09:51

老妻のために教会で結婚式を挙げてあげたいというニーノの願いは簡単に叶わない。なんか、教会側がNGを出してくるという障壁が待ち受けていたよ。

「結婚は契約の一つだ。すべての契約がそうであるように結婚も3つの条件を満たさなければならない:

1. discernimiento (識見)
2. intención no espuria (真正)
3. libertad (自由)」

妻ノルマがアルツハイマーなので、条件1.にひっかかってしまうんだとさ。

その辺、どうなのか、日本だったらもっと簡単にOKが出るものではないのかな。

Posted by: Reine | Wednesday, May 03, 2006 09:58

語句メモなど

1) 元妻に、「俺、メキシコに行くとかして……んーー、馬でも育ててみるとか……」と言ってみたところ、「あーた、馬の何を知ってるっていうわけ? 『ミスター・エド』(お馬のエドくん)以外でよ」


2) 「彼は何百万の民に喜びを与えたというのに、こんどはその民が猛り狂ったかのように彼を十字架まで追い立てたんだ」

と話をしている人がいたので、神父ごっこはやめてくれよ(キリストの話はやめにしてくれ)とツッコんだところ、

「(゚Д゚)はぁ? 俺はマラドーナの話をしてるんだ」。

Posted by: Reine | Wednesday, May 03, 2006 10:11

parrillita
→ parrilla
4. f. Restaurante donde principalmente se preparan asados, de ordinario a la vista de los clientes.
5. f. Restaurante o bar especiales dentro de un hotel o de algún otro local.

malabarista: 曲芸[軽業]師,手品[奇術]師

aggiornar: (italianismo) Remozar, actualizar.
aggiornamento: 《宗教》(教理などの)現代化

guita: coloq. Dinero contante.

laburar Río de la Plata. Currar, trabajar.
laburo Río de la Plata. Trabajo. Lugar de trabajo.

atorrante:
1. despect. Arg. y Ur. vago (holgazán).
2. despect. Arg. y Ur. Persona desfachatada, desvergonzada.

paladín: m. Defensor denodado de alguien o algo.
paladín de la justicia: 正義の守り神

defraudación: 詐欺,(支払いの)ごまかし

cateo:
→ catear: …の身体検査をする,所持品をチェックする;家宅捜索する

geriátrico: Hospital o clínica donde se trata a ancianos enfermos.

manija:
6. f. coloq. Arg. y Ur. Poder que tiene y ejercita alguien en razón de su situación social, profesional o jerárquica.
7. f. coloq. Arg. y Ur. Influencia que alguien intenta ejercer sobre otra persona para incitarla a pensar o a actuar de cierta manera.

pibe: Arg., Bol. y Ur. chaval.

Me tengo que levantar retemprano.
re-: 接頭辞 Con adjetivos o adverbios, puede reforzarse el valor de intensificación añadiendo a re- las sílabas -te o -quete. Retebueno. Requetebién.

dar el pecho: Dar de mamar.

orto: Salida o aparición del Sol o de otro astro por el horizonte.

che: interj. Val., Arg., Bol., Par. y Ur. U. para llamar, detener o pedir atención a alguien, o para denotar asombro o sorpresa.

pulovercito
→ pulóver
→ pullover
→ プルオーバー(頭からかぶって着るセーター・シャツ)

purrete: coloq. Ur. Niño de corta edad

en carne viva: adj. Dicho de una parte del cuerpo animal: Accidentalmente despojada de epidermis.

boicotear: Impedir o entorpecer la realización de un acto o de un proceso como medio de presión para conseguir algo.

tano, na: Río de la Plata Italiano (persona o idioma).

"Nunca te di bola"
→ dar bola a alguien: coloq. Am. Mer., Col., Guat., Hond., Nic. y Ven. Prestarle atención

とにかく、なんだその……、アルゼンチンのスペイン語は別の言語だな。まったく。

たとえばこないだの『Aunque tú no lo sepas』、あれなどはマドリードの言葉でしょ? あのDVDは字幕が無かったんだけど、私は9割強ディクテーションができる自信がある。9割方ストーリーがわかる……とかじゃぁない、コンマの一つに至るまで完璧にディクテーションをしてみせると言うておるのです。それくらいハッキリと聞こえる。

しかし、アルゼンチンのスペイン語はダメだ。私はダメ。字幕があっても辛い。負担が尋常じゃない。(※たぶん、先述のトラウマのせいで私はアルゼンチンのスペイン語に対しては耳も心も閉ざしているのだ)


※要調査
・psicología de café
・"Te doy un imancito. Llevas todos los teléfonos ahí".


老ニーノが「世界中の男が抱きしめたいと願った絶世の美女」と評したのはジーナ・ロロブリジーダだろうか。

Gina Lollobrigida
「The World's Most Beautiful Woman」
Lollobrigidaイメージ検索

Posted by: Reine | Wednesday, May 03, 2006 10:17

「... hasta que la muerte los separe? (死が二人を分かつまでこの女を愛しますか)」ときかれたニーノが、

「Y después también. (その後も)」と答える。

老父ニーノは、どんなに老いても、妻がじきに自分のことを誰とも認識できなくなろうとも、何があってもいつまでも妻のことが大好きなのでした。

そしてラファエルの恋人ナティは、「私が願っているのはああいう姿なの」と呟いた。


私も昨日激しい心臓の痛みに襲われて、「私の最期を看取ってくれる人がいるんだろうか」と思って、生命保険のデカいのを一つ組むことを決意しました。

Posted by: Reine | Wednesday, May 03, 2006 10:25

監督: Juan José Campanella フアン・ホセ・カンパネラ

出演
Ricardo Darín リカルド・ダリン
Héctor Alterio エクトル・アウテリオ
Norma Aleandro ノルマ・アレアンドロ
Eduardo Blanco エドゥアルド・ブランコ
Natalia Verbeke ナタリア・ベルベケ

Posted by: Reine | Wednesday, May 03, 2006 15:31

セルバンテスでスペイン語のクラスをとっている友人いわく、授業中にこの作品の話になったらしい。(映画自体の評価はとても高かったが)アルゼンチンのスペイン語が聞き取りづらいという文脈で例に出されたとのこと。

ボリビア人、スペイン人、ベネズエラ人の先生仲間でこの作品を観たとき、

>彼らでも完全には分からなかったらしいよ。
>ベネズエラ人は20パーセント、
>スペイン人で80パーセント程度だったとか。


私見ですが、リカルド・ダリンとエドゥアルド・ブランコは特に聞き取りづらいと思う。その二人の掛け合いは更に何割か増しで。

Posted by: Reine | Sunday, December 28, 2008 10:23

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» El camino de San Diego [アルゼンチン映画] [Reino de Reine]
映画冒頭のテロップより 2004年4月17日、ディエゴ・アルマンド・マラドーナは重篤な心臓疾患のためブエノス・アイレスのスイソ・アルヘンティーナ病院に収容された。それからの数日間というもの、マラドーナの容態はアルゼンチン国民にとって関心事となった。民衆に喜びを与えてくれた偶像が生死の境を彷徨っているこの時にできるだけそばにいたい、力づけたいと、何百何千もの人が遠く離れた地から何百キロも移動して駆けつけたものである。 タティ・ベニテスもそんな一人であったのだろう。 ([E:dange... [Read More]

Tracked on Saturday, May 16, 2009 00:52

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