Mujeres al Borde de un Ataque de Nervios / 神経衰弱ぎりぎりの女たち [スペイン映画]
ペパは女優・声優。同業のイバンと同棲をしてきたが、彼は家を出て行った。二人で撮った写真には「Te quiero, te necesito, te deseo, tu Iván. (君を愛している、僕には君が必要だ、君が欲しい。君のイバンより)」と書き込んである。そんな時代もあったねと。イバンのくれたプレゼントもそこかしこにある。しかし、イバンは別れを告げるメッセージを留守電に残すのみでペパから去ろうとしている。
このところ泣き濡れる日々が続き不眠症にも苦しんできたペパは、別離に際して顔を合わすことすら避けているかに見えるイバンの口から直にことばを聞きたいという気持ちが募り、徐々に苛立ちを抑えられなくなっている。
こんな時に限って厄介事が続くものである。
イバンを探して方々へ電話をかけている中でビッチ呼ばわりされるは、自宅でボヤを起こすは、電話は使い物にならないは、女友達カンデラが切羽詰った表情で押しかけてくるは、マンションへの入居を希望する若いカップルが訪れるは、キッチンで昏睡する人を発見するは、初対面の女に張り手一発食らわすは………
と・に・か・く・イ・バ・ン・か・ら・電・話・が・欲・し・い。
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先日の『マリアッチ』に続いて、またも「短いやつを」「楽なのを」という理由から選んでしまった作品。何が楽だったって、このDVD、スペイン語字幕があるんだよね。そうなるともう、「あ。今回は頑張らなくてもいいんだ」と。またもリラックスして観ちゃった。
そのせいで、「面白かったですよ」「全ての物の色が可愛らしかったですよ」くらいしか述べられない。埋め草的に鑑賞してしまってアルモドバルには申し訳ないと思う。いっぱいメッセージは詰まっているのだろうから。
でも、だってそういう‘そもさん・せっぱ’は、映画を観たら必ずやらなきゃいけないってわけでもないでしょ? いちいち意味を求めなくても許されるでしょ? 「あぁ、色が綺麗だ」「くすくす。可笑しいね」だけで観終わってもいいよね。
っていう映画として観たんだが。……ダメ?
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(1) タクシーの運転手について
最初の最初に彼が現れたとき、「アルモドバルだね」って思ったんだよね。こないだ、『バッド・エデュケーション』の時に、レオノール・ワトリングはすぐに気づくことができて満足だったのだが、アルモドバルに気づかなかった。「ちっ。やられた」とちょい悔しかったので、今回はシテヤッタリだった………のだが……
しかし、意気込みすぎ。違いました。あのタクシー運転手はアルモドバルでは無かったです。答え合わせしようと思って、IMDbの『神経衰弱~』トリビアを観に行ったら、「Contrary to popular belief, the cab driver is not played by director Pedro Almodóvar, but Guillermo Montesinos.」だって。間違えた人は少なくなかったのだろうな。
(2) 字幕について
イバンがかけたと思われる電話番号のメモを見つけた(というか盗み見た)ペパが、秘書(この建物では外線電話はこの秘書を通さないといけないみたい)に、「この番号にかけてみて」と強く依頼するシーン。
《実際のセリフ》
ペパ: ¿Me pones con este número, por favor?
秘書: No tienes ningún derecho a hacer esto, Pepa.
ペパ: No importa. Márcamelo.
秘書: Te estás poniendo en evidencia, Pepa.
ペパ: Ya me he puesto bastante, un poquito más no importa.
《言ってる内容なるべく直訳》
ペパ: ここに電話してくれる?
秘書: 貴女、こんなことができる立場に無いのよ。
ペパ: いいから。かけて。
秘書: みっともないわよ(=自分で自分の恥を晒しているわよ)。
ペパ: もう十分にみっともないから、ちょっとばかり恥が増えたってかまわないの。
《英語字幕》
ペパ: Call this number, please.
秘書: You have no right, Pepa.
ペパ: Just dial the number.
秘書: You're making a fool of yourself.
ペパ: Well, a little more won't hurt.
《英語音声》
ペパ: Could you dial this number for me?
秘書: No, you have no right to call this number, Pepa.
ペパ: I don't care, just do it.
秘書: You're acting such a fool, Pepa.
ペパ: (※ここ、私じゃ聞き取れないんだよね)(「be fool」とか「It's not important.」とかはかすかに聞こえる)
《日本語字幕》
ペパ: ここに電話して。
秘書: そんな権利はないわ。
ペパ: いいから。
秘書: 分かってるのよ
ペパ: だったら文句言わないで。
どうでしょうか。
日本語字幕の「分かってるのよ」だけ、「んんん?」ってならないかな。
これ、誤訳だと思うんだよね。「意訳です」「文脈からこのように訳しました」っていう話ではない。この日本語字幕がスペイン語から日本語へ訳したものだと仮定すると、訳者は「ponerse [quedar] en evidencia」という成句を踏まえていないと考えられる。
・poner en evidencia: (人の欠点などを)白日の下にさらす,恥をかかせる
そして、
・ponerse [quedar] en evidencia: (人が)恥をかく,物笑いになる
訳者はその成句をとらえていないでしょ。「evidencia」という単語だけを見て、「evidencia=obviousness,evidence=明白,証拠」で、したがって「分かってるのよ」と訳した。
と、推測します。
※この映画はスペイン語字幕もついてて楽ちんだし、語彙はスペイン語学習者には楽しい。(いくつかコメント欄で)
(スペイン映画)
・Mujeres al borde de un ataque de nervios @IMDb
・Mujeres al borde de un ataque de nervios la película de Pedro Almodóvar @Yahoo! Cine
・神経衰弱ぎりぎりの女たち @みんなのレビュー
・神経衰弱ぎりぎりの女たち @goo映画
・神経衰弱ぎりぎりの女たち@映画生活
・神経衰弱ぎりぎりの女たち@ぽすれん
・神経~@シネマカフェ
・Pedro Almodovar, pagina oficial
監督: ペドロ・アルモドバル Pedro Almodovar
製作: ペドロ・アルモドバル Pedro Almodovar
製作総指揮: アグスティン・アルモドバル Agustin Almodoval
脚本: ペドロ・アルモドバル Pedro Almodovar
撮影: ホセ・ルイス・アルカイネ Jose Luis Alcaine
音楽: ベルナルド・ボネッツィ Bernardo Bonezzi
出演:
カルメン・マウラ Carmen Maura
フェルナンド・ギジェン Fernando Guillen
フリエタ・セラーノ Julieta Serrano
アントニオ・バンデラス Antonio Banderas
ロッシ・デ・パルマ Rossy de Palma
マリア・バランコ Maria Barranco
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Comments
(3) 電話来ないな来ないな、イバンは留守電に「会いたいんだ」などの空々しいコトバを残すだけだし、やっとかかってきたかと思えば不動産屋さんだし………
…ペパが疲れきった表情でガスパッチョをつくり、けっこうな量の睡眠薬をちょっと見つめて、まとめて放り込んで、「もうウンザリ」。
日本語字幕は「もうウンザリ」だが、スペイン語(字幕ももちろん)は「Estoy harta de ser buena.」。なにがウンザリって「もうイイヒトでいるのはウンザリ」なのである。「I'm sick of being good.」なのですよ。
そこ、文字数もそんなにかさばるわけじゃないんだから省かないでちゃんと和訳すればよかったのに。と思うんだ。
ふつうじゃない量の睡眠薬を放り込んで呟くんだよ? しかもこの睡眠薬の件はあとに繋がるんだよ? そして彼女はまたちょっと真情を語るんだよ? それを、「ウンザリ」としか訳さないのと、「イイヒトでいるのはウンザリ」を伝え切るのとでは、感じ方が変わっちゃうと思うけどな。
私はこないだから字幕について重箱の隅をつついているのではないですよ。鬼の首とったような気持ちでいるわけでもない。そうじゃなくて、「知っている者は知っていない者の利益を考え、また不利益をできるだけ減らしてあげた方がいい」と思っているだけです。
(続きはまた今度)(今日はもう寝る)
Posted by: Reine | Wednesday, January 11, 2006 00:11
語句メモ
※昨夜気づいたことが一つある※
私はなぜ今までこの「語句メモ」をわざわざ日本語で説明してたんだろうか。スペ語のままでいいじゃないか。行っても英語までで。だって、「語句メモ」に目を通す人はスペイン語を知っているよね。だったらもう西西のままでいいじゃないか、と。これからはそうしようと気づいた。
・no pegar ojo: not to sleep a wink
・acabar + 現在分詞 / acabar + por + 不定詞: とうとう[最後に, ついに]~~する
・chiita.
1. Perteneciente o relativo al chiismo.
2. Partidario del chiismo.
・chiismo: Rama de la religión islámica que considera a Alí, sucesor de Mahoma, y a sus descendientes, únicos imanes legítimos.
・por cuenta propia.
1. Dicho de una persona: Que trabaja como no asalariada o que tiene su propio negocio.
例) Trabajadores por cuenta propia. / Decidió establecerse por cuenta propia.
2. Con independencia, sin contar con nadie.
例) Está decidido a obrar por cuenta propia.
・costar los ojos / costar un ojo de la cara: Ser excesivo su precio, o mucho el gasto que se ha tenido en ello.
・borde: Esquinado, impertinente, antipático
・tirar: (心を)引きつける,興味をそそる
・cantar: 白状する,吐く Descubrir o confesar, generalmente bajo presión.
例) El detenido lo ha cantado todo.
・papeleta: 厄介,面倒. Asunto difícil de resolver
・perder alguien los estribos: Impacientarse mucho.
・mal pensado: Propenso a desestimar o interpretar desfavorablemente las acciones, intenciones o palabras ajenas.
・dar crédito: creer
・encubridor, -dora: 隠匿者
・amuermar: Causar aburrimiento o tedio.
・estar, o vivir, en las nubes: Ser despistado, soñador, no apercibirse de la realidad.
・dar la cara: Responder de los propios actos y afrontar las consecuencias
・pelos y señales: Pormenores y circunstancias de algo.
例) Contar un suceso con todos sus pelos y señales.
・atar cabos: Reunir o tener en cuenta datos, premisas o antecedentes para sacar una consecuencia.
・reliquia: Persona muy vieja o cosa antigua.
例) Ese coche es una reliquia.
Posted by: Reine | Wednesday, January 11, 2006 20:10
昨夜、「ponerse en evidencia」のところが誤訳であろうと述べるにあたり、何か論拠となるようなサイトでもないかと探した。「"ponerse en evidencia" fool」で検索した。
その時に見かけたサイト。
別にちょうどいい説明が見つかったわけではないのですけど、この映画に出てきた成句がリストアップされていたので、ちょっと見といた。
http://www.brynmawrschool.org/homeという学校のサイトの中にあったのかなぁ……? 「Mujeres al borde de un ataque de nervios Vocabulario no.1 y 2」という文書ファイル
( http://207.239.98.140/UpperSchool/FL/GrayJ/files/spacine/vocab/mujeresalborde_vocab1y2.doc )
Posted by: Reine | Wednesday, January 11, 2006 20:20
厄介なことに巻き込まれたか、女友達カンデラが混乱した様子でペパのところに押しかけてきた。
他人の相談事など聞いてあげられる精神状態では無いペパが「あんた、今日はウザいわね」と言い放つと、「No me digas pesá, que estoy mu sensible. 『ウザい』なんて言わないで、今あたしピリピリしてるの!」ってカンデラが抗議する。
「感じやすい,敏感な; デリケートな」は英語だとsensitiveでしょ? だけど、スペイン語では「sensitivo, va」ではなくて、sensibleです。
英語のsensitiveとsensible、スペイン語のsensitivoとsensible、それぞれの意味をきちんと区別しておくようにと習った記憶があります。これもfalso amigoの一例なのかな。
Posted by: Reine | Wednesday, January 11, 2006 20:24
あとは……なんか書いとくことあるかな…。
・「( ドコソコ )に連絡してください。私はそこに住んでいるの」というセリフは、胃の腑を突然にムギュッと掴まれたような体感だったな。ぼんやりと観てきていたのに、あそこでハッとしたというか。
・スペインのゴミ収集車は夜中に働く。
・なぜマンションのルーフバルコニーでニワトリを飼うのか。『Los Peores Años de Nuestra Vida』でも飼っていたぞ。飼い馴らしていた。(というのは、前にもちょっとだけ触れましたが)
・アントニオ・バンデラスが、若干の言語障害を持った(というか、ストレスフルな状況下ではその兆候がちょっと出る、という感じの)青年として出演してます。なんというか、気弱というか、ヒステリックな女というのに昔から接触してきたせいで、おどおどが五臓六腑に染み渡っちゃったという感じの青年。
全く話は逸れますが。
スペイン時代の日本人女友達(当時20代後半)が、日本人女性(30代)と日本男子学生(23歳くらい)とルームシェアしてたんだよね。
この30代女性が、何かというと男子学生に向かって「あなた男の子なんだから」という枕詞でモノを言いつけていた。「あなた男の子なんだからジャガイモを大きな袋で買って来てよ」「あなた男の子なんだから8リットルのミネラルウォーター運んでよ」「あなた男の子なんだから洗面所の棚を直してよ」……etc.
私の友人(20代女性)はそれを聞いていて居心地悪かったと。「あまり言いたくないセリフだ」と。
なんていうか、この映画のアントニオ・バンデラスを観ていて、「あなた男の子なんだから」のジョーカー的セリフでいろんなことを押し付けられていたあの男子学生を思い出しました。
そしてアントニオ・バンデラスといえば:
スペインに住んでいた時のこと。午後、普段なら人通りも別にないような時間帯に表が落ち着かなくて。ベランダに出て通りを見下ろした。
なんかパパラッチ的な人々がそこら辺にいた。階下のファミリーの娘達もベランダに出て通りを観ている。「たぶんもうすぐアントニオ・バンデラスが出てくる」と彼女たちが言う。
私たちのマンションは、ちょっと小奇麗な某施設の係員通用口を見下ろせる位置にあったんだよね。で、ホントにしばらくしたらカメラマンたちが一気に動いて。殺到した先を目で追ったら、アントニオ・バンデラスとメラニーが手ぇつないで車に駆け込むところだった。
なんかお忍びで来てたらしい。
なんで私、あんな余裕かましてたんだろう。写真とか撮ればよかったのに。階下の娘達とも「見た?」「見た」「ほんものだったねー」「ね」で終わり。
「またいつでも見られる」ような気がしてたんだよな。
なんでだよ。
Posted by: Reine | Wednesday, January 11, 2006 20:47