Entre Tinieblas / バチ当たり修道院の最期 [スペイン映画]
だいたい、映画を観ている間にblogに書く方針が決まってくるようだ。「この映画は語彙が面白いのでとにかくそっちを」「これは罵倒系で」「これはあの実際の事件と絡めて」「これは他のあの作品と並べて」……etc.
しかし、今回の『バチ当たり修道院の最期』は……。どこからどうよじ登っていけばいいのかが全くわからないまま終わっちゃって、あぁどうしようという感じだった。私は禅問答は苦手なのね。映画を鑑賞するセンスは私には無いんだよ。もっと、こう、わかりやすく作ってくれないと困る。
新しい週が始まってしまったのでわからないまま慌てて書き始めたとこ、今。
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ヨランダはかつては理科の教師をしていたが今はナイトクラブの歌手である。歌手なんて続けていてもロクなことはないから教職に戻れと周りは言うが、もともと危なっかしい生き方は嫌いじゃないものでね。
ヨランダが手に入れて来たクスリを打って恋人が死んだ。捜査が迫り切羽詰った彼女は修道院に身を寄せることにした。ヨランダの熱烈なファンである尼僧長が助けになってくれるだろう。
この修道院は閉鎖の危機に直面している。以前は人殺しや麻薬中毒者、売春婦など、救いを求める者で溢れていたこの修道院だが、昨今は駆け込んでくる者も居ない。修道会でただ一人擁護してくれていた修道院長も重篤な状態にある。そこへもってきて、有力な寄進者であった侯爵が亡くなり、遺産を月々寄付するという約束を反故にすると侯爵夫人が言ってのけたのだ。
そんな困窮の修道院へヨランダは駆け込んだのだった。尼僧長の鶴の一声によりヨランダは丁重にもてなされる。
ヨランダの部屋に修道女が入れ替わり立ち代りやって来る。風変わりな女ばかりよく集まったものだ。苦行と屈辱の修行をしているらしい彼女たちには珍妙な名がつけられていた。もっとも卑しむべきものを理解しようという試みらしいが、それにしてもこんな名前をつけなくたって…
◆尼僧長フリア
ヤク中。ヘロイン派。ヨランダへの眼差しなど見るにつけ、どうも懇情の一言では説明できない思いを寄せているようである。
◆シスター堕落
虎の世話をしている(なんでトラ飼ってんのよ)。掃除大好き。
◆シスター毒蛇
神父に裁縫を教えてる。マリア像に着せる服のデザインは新素材をふんだんに用い、都会の夜の街から来たヨランダが「ぶっ飛んでる」と絶賛したほどアバンギャルドなデザイン。
(◇神父
シスター毒蛇に裁縫を教わってる。タバコがやめられない。シスター毒蛇をデイトに誘ったり)
◆シスターどぶ鼠
実はみんなに内緒で官能小説家との二足の草鞋。著書に『¡Largo de aquí, canalla! (とっとと失せな、ロクデナシ!)』など。
◆シスター肥溜め
料理が得意。たまにLSDをやり、サイケデリックな幻覚を見る。人殺しをして駆け込んだときに尼僧長フリアに庇護してもらった恩義を忘れていない。
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『バチ当たり修道院の最期 DVD』のレビューにも、「修道院を舞台に、神をも恐れぬバチ当たりで風変わりな5人の尼僧が起こすハチャメチャな騒動を描くおバカコメディ」などと書いてあるから、ウーピー・ゴールドバーグの『天使にラブ・ソングを…』みたいだな………
(※『天使にラブ・ソングを…』あらすじ:
殺人現場を目撃してしまったクラブ歌手のデロリスは、ギャングに命をねらわれるはめになる。デロリスが身を隠した場所は、お堅い修道院……略……)
……とか思う?
違うんだよね。
もしもほんとに「ハチャメチャおバカコメディ」だったならば、私だって、こんなに考え込まなかったよ。この『バチ当たり~』を観終わってから何時間、何日が経ったのだ。ずっと手が出せなかったのは、『バチ当たり~』が私には難しすぎたからですよ。
※私はもともと映画鑑賞眼が無いので、そんな人間の言う‘難しさ’だと思ってこの先を読んでって。
この『バチ当たり~』は、先述のDVDのもう一点のレビューにあるような「カトリックを痛烈に揶揄したブラック・コメディ」から、‘コメディ’をマイナスしたくらいに考えて手に取った方がいいんじゃないかと思う。IMDbのコメント欄で、「DVD BOXにはfunnyって書いてあったけど、The film is more of a thought provoking film that explores social and religious issues. Labelling it funny doesn't do it justice.である」という人がいたけど、私もそう思うんだよね。
(かなり早送りしながら)見直して、たぶんこの辺に答えがあるのだろうと思うとこを2つ:
(1) 侯爵夫人が亡き夫の話をしつつ寄進打ち切りを宣告するシーン。
尼僧長: Era un buen siervo de Dios. (侯爵は敬虔な方でした)
侯爵夫人: Da igual. Como marido y como padre era un monstruo. (そんなこと関係ないわ。夫として父としてはヒトデナシでした)
尼: Tal vez era demasiado recto. (直情すぎたのかもしれませんね)
侯: Era un fascista. Desde que murió me siento liberada. Al fin, mi vida es mía. (あれはファシストよ。あの人が死んでから私は解放された気分だわ。やっと私の人生が私のものになったのよ)
……略……
侯: ¿Por qué no se enfrentan con la realidad y se van a Albacete? (現実に目を向けて田舎に引っ込めばいいじゃない)
尼: La juventud nos necesita. (若者には私たちが必要なんです)
侯: ¿Qué juventud? La juventud quiere que la dejemos en paz. La cuestión es que no tengo dinero. No sé si desde aquí habrá oído hablar de la crisis económica. (若者っていったいどこの? 若い人はほっといてくれって思ってるわよ。とにかく私はお金が無いの。あなた方はここに篭ってるから世間が不景気だってことを聞いたことがないのかもしれないけど)
尼: Pero si usted es millonaria. (だけど貴女は億万長者じゃありませんか)
侯: Para sobrevivir hoy día hay que serlo. Y yo no sólo quiero sobrevivir. Quiero VIVIR, ahora que nadie me controla. (今の世の中、生き抜くためには億万長者じゃなきゃね。で、私は生き抜きたいだけじゃないの、私は生きたいの。もう私を抑えつける人間も居なくなったんですから)
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(2) シスターどぶネズミが妹に、還俗するかどうかという迷いを打ち明ける。
「今さら姉さんに何ができるというのか」と妹が冷たく却下する。「だって時代が変わって生活もずいぶん変わったんでしょう?」とシスターがたずねる。妹は(※実はこの妹はシスターどぶネズミに俗世間に出られては困るちょっとした事情を抱えてるんだが、おそらくそのために)、強い調子でこう言い含める:
「世間が変わったなんて修道女の抱く幻想に過ぎないの。姉さんたちは表に出ないからわからないのよ。世間はなーーーーーんにも変わっちゃいません! 昔とまーーったく一緒。」
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1975年にフランコが死んでからこの映画(1983年)までのスペイン現代史を踏まえて観たら、いろいろなぞらえるパーツが多くて楽しめて、また理解も深まるんじゃないの? そういう気がしました。勘だけど。ムリヤリだけど。
なんか、こう、ずっと長いこと目隠しされてきた者の被る損失というか、外の世界から隔絶してきた悲哀というか、見ざる言わざる聞かざるで発酵する悪というか。
フランコがまだ居た頃のスペインと、居なくなってから数年間のスペインの変わり方と変わらなさと。(あと、アルモドバルって信仰心はとっくの昔に捨てちゃってたんだっけ? っていうのとか、映画学校に進みたかったのにそこをフランコが閉校しちゃったんだっけ?とか)その辺の知識があればきっとこの映画を ――好きになるかどうかは別として―― 褒めることができるのかもね。などとなんとなく思ったんだけど、そこまで。
これ以上のことは私、考えても何も思いつかない。これが鍵なのだろうと感じるんだけれども、調べようとしたらきっと莫大なので、ここで放り投げることにする。無責任な形で投了。(語句メモなどはコメント欄で)
(スペイン映画)
・Entre Tinieblas @IMDb (英題は『Dark Habits』)
・バチ当たり修道院の最期 @goo
・バチ当たり修道院の最期 @CinemaScape
・バチ当たり修道院の最期 @映画生活
・バチ当たり修道院の最期@ぽすれん
・バチ~@シネマカフェ
監督: ペドロ・アルモドバル Pedro Almodovar
製作: ルイス・カルボ
脚本: ペドロ・アルモドバル Pedro Almodovar
撮影: アンヘル=ルイス・フェルナンデス
音楽: カム・エスパーニャ
出演:
クリスティーナ・サンチェス・パスクァル
フリエタ・セラーノ Julieta Serrano
カルメン・マウラ Carmen Maura
マリサ・パレーデス Marisa Paredes
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Comments
tiniebla.(Del lat. tenĕbrae, -ārum).
1. f. Falta de luz. U. m. en pl. con el mismo significado que en sing.
2. f. pl. Suma ignorancia y confusión, por falta de conocimientos.
3. f. pl. Oscuridad, falta de luz en lo abstracto o en lo moral.
tiniebla: テネブレ(暗闇の朝課; 聖週間最後の3日間に唱えられる朝課と賛歌)
※googleで調べたけどなんだかよくわからない
Posted by: Reine | Monday, January 16, 2006 21:36
語句メモなど
・gordo: Muy grande, fuera de lo corriente. Ha tenido un accidente gordo.
・camerino: Aposento individual o colectivo, donde los artistas se visten, maquillan o preparan para actuar.
・pirarse: Fugarse, irse. Manolo se piró de casa.
・pasma: Cuerpo policial.
・sanguijuela: Persona que va poco a poco sacando a alguien el dinero, alhajas y otras cosas.
・Hoy te has levantado de mal humor.
・この修道院があると設定されてるのはPez Volador 5ね。修道院の連絡先カードにそう印刷されてた。
Posted by: Reine | Monday, January 16, 2006 21:41
字幕にケチつけるのは簡単なことなんだわ。他人のやったことを後から見てならば、誰でも何でも何とでも言える。それは校正とかでも同じことだよね。他人の文章のアラは(幾らでも)検出できる。
でも、検出できるのは検出する人が知っていることだけ、ね。気づく人は自分が気づくことしか気づけない。
私が気づかなかった(知らなかった/聞き取れなかった、etc.)ことは私は指摘することはできないわけで、そんな私が見逃したことを後から指摘する人がよそにいるはずであってね。
まぁ、そういった自覚のもと、字幕について幾つかコメントしておこうと思うのであります。
↓↓↓↓
Posted by: Reine | Tuesday, January 17, 2006 21:48
(1) シスター肥溜めって人は、自虐的というか、過去に犯した殺人の罪を償いたいという願いから、「苦行(肉体にきびしい苦痛を与え、それに耐えることによって悟りを得ようとする修行。断食・不眠など)」をしてる人なのかな。mortificador, dora(修行で肉体を苦しめる,痛めつける)
なんか、北の某国の軍隊とかがやってそうなすげぇトレーニングみたいな痛そうなことさえやってたぞ。
そんなシスター肥溜めが特大の刃物で料理にとりかかる。危なっかしいと見たか、シスター堕落が小さいナイフを薦めるシーン:
《直訳》
堕落: このナイフの方がそれよりもいいわよ。指を切っちゃうわよ
肥溜: ¿Qué más da? (だったらどうだと言うのよ,かまわないわ)
堕落: どうしてそんなに己を痛めつけるの? ある程度なら忍耐するというのも善い行いだとは思うわ。だけど健康状態も…
肥溜: 私は人を殺したんですから
《字幕》
「このナイフを使いなさい」
「他に何を?」
「罰はもう十分。なぜ自分をいじめるの? 体も大切よ」
「私は人殺し」
「¿Qué más da? (それがどうしたというのだ、なに構うものか)」というフレーズは、難易度の高くない、ありふれた成句だと思うのよ。「他に何を?」と訳すなんて、ありえない、信じられない。この訳者は何語から和訳したんだろう?
参考:
「¿Qué más da? を英語でいうとだいたいどんな意味?」という掲示板があった
http://www.wordreference.com/es/en/translation.asp?spen=que+mas+da&dict=esen の一番下の方に、「Forum discussions with the word(s) 'que mas da' in the title:」とあって、
・que significa "que mas da"?
・Que mas me da
・"¿Qué más da?"
とあるのがそれ。
Posted by: Reine | Tuesday, January 17, 2006 22:10
(2) 別にストーリーを理解するのにはたいした障害じゃないんだけれども。
この駆け込み寺が閉鎖されてしまうという。「じゃぁ、ここは売却するのかしら?」と問う侯爵夫人に対し、「Sí, claro. Hay una inmobiliaria interesada.」と。
直訳すると「興味を示している不動産屋が一軒ある」だと思うんだけど、字幕は「えぇ、もちろんです。不動産屋が面白がるでしょうね」。
「面白がる」て……。
意味は通らなくもないから別にいいんだけども、やっぱり、たぶんだけど、これは「interesado, da (興味を持った,関心を寄せている)」という形容詞をわかってなさそうな和訳ではないかい? 正直、驚いた。
Posted by: Reine | Tuesday, January 17, 2006 22:19
字幕に付いてのコメント面白いですね!
実際、その部分を聞いてないし映画自体みてないけど、
その部分は通訳や翻訳の勉強をしてない俺でも
さすがにそういう風には訳さないかな・・・
「私は人殺し」って所もなんだか淡々としててちょっといや。
せめて「私は人殺しなのよ!」ぐらいにしてほしいぞ。。。
Posted by: シャチ | Friday, January 20, 2006 18:42
「私は人殺し」って、ほんと、体言止めされちゃうとポエムみたいでしたよ。
でも、字幕は本当に難しい作業だろうとは思っています。苦労は察します。文字数とかそういうのについては、ほんとそう思います。
でも、「語句」の無理解から来る誤訳はやっぱりちょっくらあげつらっちゃおうかな、と。そういう気持ちが。
Posted by: Reine | Friday, January 20, 2006 23:17