Torremolinos 73 / トレモリーノス73 [スペイン映画]
70年代初頭フランコ政権下の‘清く正しい’スペイン。
アルフレドはモントーヤ出版社の百科事典の訪問販売員、キオスクで週刊百科事典などが売り出されるこのご時世では、一軒一軒を訪ねていても売れ行きは芳しくない。貞淑な妻カルメンも美容サロンで脱毛エステティシャンとして働いているが家計は火の車。家賃の滞納も続き、大家さんからは矢の催促である。カルメンは子どもが欲しくて仕方ないのだが、この困窮生活ではとてもとても叶うものではない。
社長は訪問販売部のリストラをほのめかす。社員4名は山荘での‘販売戦略秘密会議’に招かれた。
-アルフレド&カルメン夫婦
-年配のアナサガスティ夫妻
-もうちょっと若いロメラーレス夫妻
-独り者のフアン・ルイス
彼らはそこでフィルムを見せられる。フィルムでは、コペンハーゲン性科学研究所のヨハンセン博士という男が『世界生殖図解事典』なるものを紹介している。世界のさまざまな国や地域の‘生殖習慣’を学べる8mmムービーが毎号毎号付録です、と。
……生殖習慣……の……8mm……ムービー…………? んんんんん?
そこで社長の厳粛なスピーチ:
「この事典は北欧諸国では記録的な売れ行きでした」「我が社は、この事典のスペイン編を編集するパートナーとして見事に選ばれたのです」「そこで皆さんには、この大事典の教材用フィルムとして、それぞれの御自宅でスペイン人の生殖習慣を撮影していただこうと思うのです」「なお、北欧諸国でのみの販売となっています」「なにか質問がある方は?」
社員の一人が―――妻に脇を小突かれて―――おずおずと質問する:
「言い換えますと、我々が…それぞれ自宅で…妻と性行為に及ぶ際に…撮影しろ、ということですか?」
社長:
「学術的に申しますと、そういうことです」 (←「学術的に申しますと」って何がどう)
これはつまり、夫婦の閨事を8ミリで撮影し、百科事典に見せかけたその自家製ポルノ映画を北欧諸国で販売するということだ。アルフレドたち社員はみな思案に暮れる。短編を一本撮れば5万ペセタ、更に売り上げに応じてボーナスというのは大変な報酬である。もしも百科事典の訪問販売で5万ペセタ稼ごうとしたら、154冊も売り上げなければならないのだから。
妊娠を強く望むカルメンの心情を汲み、またリストラの脅威もあり、アルフレドはこの話に乗る。
まずは‘ポルノ映画制作法の短期講習’を受ける。講師は、Ingmar Bergman イングマール・ベルイマンの助手だったと称するエリック・モランダーという男と、その妻のデンマーク人ポルノ女優フリーダ。「すべて科学の進歩のためなのです」と社長はこの講習会(販売戦略会議)をしめくくる。
アルフレドとカルメンの自家製ポルノは大当たり。二人の暮らしは目に見えて豊かになっていく。最新型のテレビを買い、以前自分が働いていた美容サロンへ今は客として行くようになり、毛皮を買い、新車を買い、家具を揃え…。カルメンは本人も知らぬうちに北欧諸国で素人ポルノ業界の大スターとして名を馳せていた。しかし励んでも励んでもカルメンは妊娠できない。不妊治療相談にも夫婦で出かけたが…。
アルフレドはそろろろポルノ短編を撮るのに倦んでいた。ある夜、ベルイマン作品『The Seventh Seal』をテレビで見て感銘を受け、ベルイマンの映画作品に熱中する。そしてついに、カルメンを主役に据えた長編の脚本を書き上げる。『トレモリノス 73』というこの作品には社長も賛同してくれた。
意気揚揚とロケ地トレモリノスに乗り込んだアルフレド。いよいよ『Torremolinos 73』の撮影開始である。
実話に基づく(←実話かよ!)。
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(語句メモなど、コメント欄で)
(スペイン映画/デンマーク)
・Torremolinos 73 (トレモリーノス 73) (のんきな音楽注意)
・Torremolinos 73 @IMDb
脚本・監督: Pablo Berger パブロ・ベルヘール
出演:
Javier Cámara ハビエル・カマラ ... Alfredo アルフレド
Candela Peña カンデラ・ペニャ ... Carmen カルメン
Juan Diego フアン・ディエゴ... Don Carlos 社長(カルロス)
Fernando Tejero フェルナンド・テヘーロ ... Juan Luis フアン・ルイス
Mads Mikkelsen マッヅ・ミケルセン ... Magnus マグナス
・友人monaがFnacで買ってきてくれた(9.95ユーロ)。
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Comments
語句
(1) urbanización = ニュータウン、新都市
(2) entrega inmediata = 即入居可
(3) 子どもは無理だと渋るAlfredoに対しCarmenが「2人も3人もいっしょよ = Donde comen dos, comen tres.」
(4) ejercicio=会計年度; 事業[営業]年度
(5) 「『変革か死か』とよく言うじゃないか、あれだ = Como dice el refrán: "renovarse o morir".」
(6) 「~にあなたも是非ご出席ください = considérese invitado a ~ .」
(7) plus=ボーナス
(8) quedarse con ~ = (釣り銭などを)受け取っておく、手放さない。「お釣りはけっこうです = Quédese con el cambio.」
Posted by: Reine | Saturday, February 05, 2005 22:13
(1) アルフレドの会社の廊下には、ジュール・ヴェルヌ(八十日間世界一周の人)のポスターが貼ってある。
(2) カルメンは勤め先の美容サロンの女経営者とうまく行っていないのか? そしてクビになったのかな、たぶん。「Tu finiquito.」と渡されたお金は、あれは退職金だったんだろう。
(3) エステサロンにて、太った中年客がカルメンに『ラスト・タンゴ・イン・パリ(1972年)』を説明している。曰く:
「Marlon Brando se levanta, ni corto ni perezoso, se va a la cocina. …略… Y empieza a untar la mantequilla a las nalgas como si fuera una tostada. Y luego, le mete así sin avisar. …略… Dale que te pego, dale que te pego. Claro, ella grita.(= マーロン・ブランドがすたすたキッチンに行ってさ ……略…… で、お尻にバターを塗り始めるわけよ、トーストじゃあるまいし。それでいきなりソウニゥするのよ! …略… だらだらだらだらだらだらだらだら続けるの。もちろん彼女は泣き叫んでさ」
……あの映画はそのシーンだよなぁ、やっぱり(やっぱり?)。あたしもそこしか覚えてない(←えぇぇ)。
(3') 客は続ける:
『ラストタンゴインパリ』っていうからミュージカル映画だと思って行ったのよ。そしたらあんなイヤラシイ映画! ああいう映画はスペインではありえないわね。
その当時のスペイン(まだフランコ政権下)だったら裸・セックスはありえなかったんでしょ。検閲とかあったんだよね。
ただ、
当時のスペインは外貨獲得を観光に頼っていたので、北欧などからの観光客を多く受け容れていた南スペインでは、ちょっとその辺が鷹揚だった、ヌーディストビーチとまではいかなくても、浜辺でビキニを外しておつぱいポロリンで背中を焼く外国人の姿などは見られたのではなかろうか、そしてまた当局もあまり厳しく取り締まれずにいたのではなかろうか、しかししかし、同じ頃の北スペインでそんなおつぱいポロリンなんてやったらたいへん破廉恥な行為とみなされたわけで、厳しく罰せられたんだよ、そこの違いはよく理解しといてくれよ……
みたいなことを授業で先生がしゃべっていたような気がするんだが、当時の私はスペイン語初心者だったので、この↑ヒアリングはまったく自信ない。
(3") しかし、授業で先生がここ↑までしゃべったときに、男子学生が大声で、「でもそれってオッパイ次第なんじゃない?」と叫んで、先生が腹抱えて笑っていたような記憶もあるので、たぶんあんなようなことをしゃべっていたんだと思うのです。
Posted by: Reine | Saturday, February 05, 2005 22:23
(4) アルフレドとカルメンが久々のおデイトで観に行った映画は『Adiós, cigüeña, Adiós』
(5) 不妊治療にいった。精子採取の個室には女の写真が貼ってあるが、どれもよくて水着姿までといった具合で露出はゼロと言ってもいいくらい。ピンクには厳しい時代だったんだなぁと思わせるシーン。
(6) ヤケを起こしたカルメンが爆音で聴くのは、Mocedadesの『Eres Tú』という曲。実は私、この曲がけっこう好きで、歌いながら泣いちゃったりする。なんでだ。
(7) 独身のフアン・ルイスの動向に注目。
Posted by: Reine | Saturday, February 05, 2005 22:45
(8) 愛だね、愛。
身体ではなくて心ですわ。
ファインダーごしに見えたのは、自分が愛している人が自分を愛してくれているという事実。
(9) ネタバレかも
↓↓↓↓
最後の最後のテロップより:
「"Torremolinos 73" fue la única película dirigida por Alfredo López. Se estrenó, calificada "S", en 1977 con el título de "LAS AVENTURAS Y DESVENTURAS DE UNA VIUDA MUY CACHONDA".La vieron 1373 espectadores en España y fue un éxito en toda escandinavia.
『Torremolinos 73』はAlfredo Lópezが監督した唯一の作品である。1977年に『火照った未亡人のアヴァンチュールと不幸』というタイトルでX指定で上映され、スペインでは1373人が観たとされる。北欧では大ヒットであった」
Posted by: Reine | Saturday, February 05, 2005 22:51