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Sunday, December 19, 2004

Bienvenido Mister Marshall [スペイン映画]

Mr. Marshall微笑んでみていられる映画が好きなんだけどと言ったら知人(スペイン人)が薦めてくれた。

タイトルの意味は『マーシャルさんいらっしゃい』とか、『マーシャルさん、ようこそ』『ようこそ、マーシャルさん』といった感じ。マーシャルさんっていったい誰? というと、George Catlett Marshallさん、マーシャル・プランのマーシャルさんですわ。

※ マーシャルプラン / Marshall Plan / European Recovery Program / 欧州経済復興計画についてWikipediaより  

・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆


舞台はVillar del Ríoという村。男たちは床屋でサッカー談義、女たちは小間物屋でcotilleo(=ゴシップ)に花を咲かせる、そういうどこにでもあるような小さな古い田舎の村。

村庁舎の大時計は3:10を指したまま止まってしまっている。修理の予算が捻出できないのだ。助役は頭を抱えている。

小学校もちゃんとあるにはあるが、授業で使う地図にはまだImperio Austro-Húngaro(オーストリアハンガリー帝国; 第一次大戦で崩壊)が載っているくらいだから、備品が整ってるとはいえまい。

近隣のVillar del Campoという町には鉄道が通っているが、このVillar del Ríoにはバスのみ。村長はここにも鉄道を通したいとかねてより願っている。


ある春の朝。

バスが到着する。土曜に映画館で上映するウェスタンもののフィルムが到着(←きっとこの村の数少ない娯楽の一つなんだろう)。それよりも何よりも村長が待ち焦がれていたのは、Carmen Vargasというアンダルシア歌謡のトップスター(と、そのマネージャー兼プロデューサーのManoloという男。この男はけっこう遣り手なのかも)


ちょうどその頃、仰々しくサイレンを鳴らし、中央からお偉いさん一行がやってきた。……ところで、おい、村長はどこへ行った!? ………村長は………歌姫Carmen Vargasにのんびりと村を案内してまわってた……。助役は自転車に飛び乗って村長を探しまわるが、大きな犬が吠え立てながらしつこく追いかけてきて難儀する(※ 犬に追っかけられてるこのシーン、大好き)。


政府高官は、この村が大好きで大好きでとか鉄道を通したいと思ってますなどと調子のいいことを並べるわりには、対談の最初っから最後までずーっと『Villar del Campo』と『Villar del Río』と村名を間違えつづけてる。(※ 中央の人間の地方への無関心っぷりを表わしてるんだろうか)

高官は、近々この村をアメリカ人の一行が訪れるので村をあげて歓待せよと伝えた。「欧州経済復興計画、早い話がマーシャルプランですよ、その使節団の方々ですから失礼の無いように」と。「あぁ、はいはい」と村長は答えてるが、ホントにわかってるのかいささか不安だ。「レモネードでもお出しすればいいんでしょうか」とか言ってるくらいだから。


そこで、Manoloですよ。Carmen Vargsのマネージャーの海千山千の彼の腕の見せ所ですよ。ボストンで15年もショービジネスに携わってたから、アメリカ人の好みなら知り抜いていると自信たっぷり。

Manoloのアドバイスにしたがって、村民総出で村全体をアンダルシア風に偽装するの。村民の服装から、路地の隅々までをアンダルシア風に。アメリカ人にとってのスペインなんて「The アンダルシア」だろー、ということか。とりあえずアンダルシア風味を前面に出しとこうぜ、と。

大学の学園祭でスペイン料理店を作り出す感じです。書割かよ、はりぼてかよ、大道具かよ! なんでそんな祭りの晴れ着で農作業してるんだよ! というツッコミどころ満載なシーンあり。(※ でも、細い路地が見事にSevilla風にしあがったのにはちょっと感動しちゃう…かも…?)

村民は、さらに、アメリカについて勉強します。学校で地図を見ながらアメリカの国勢を学び、映画館ではニュースフィルムを見て、マーシャルプランが他国にもたらした恩恵を知ることとなります。そう、ホントだったら週末に西部劇を観るはずだった鄙びた映画館が、勉強会のために満席になってるの。

歓迎セレモニーの予行演習にも余念が無い。「アメリカのみなさん、よろこんでおむかえしますとも♪」みたいな歌まで作っちゃって。みんな真剣。なぜなら………


アメリカ人を丁重にもてなせばこの村にドルを落としてもらえるようだから。‘ミスター・マーシャル’は望みをかなえてくれるのか、‘マーシャルさん’に何をリクエストしようか…。村民一人一人が期待を膨らませていく。一人につき一つだけ願い事を記帳するために村人(1642人)は行列を成します。


アメリカ人一行はもうすぐそこまでやって来てるらしい………。

・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆


(語句メモなどはコメント欄で)
(スペイン映画)

Bienvenido Mister Marshall @IMDb
Luis García Berlanga(ルイス・ガルシア・ベルランガ)監督

DVDGO.comで購入 (9.98ユーロ) ⇒ 割引で8.6ユーロ

監督: Luis García Berlanga ルイス・ガルシア・ベルランガ
脚本: Juan Antonio Bardem フアン・アントニオ・バルデム Luis García Berlanga  Miguel Mihura ミゲル・ミウラ

出演:
José Isbert ホセ・イスベルト ... Don Pablo, el alcalde ドン・パブロ、市長
Lolita Sevilla ロリータ・セビージャ ... Carmen Vargas カルメン・バルガス
Alberto Romea アルベルト・ロメア ... Don Luis, el caballero ドン・ルイス
Manolo Morán マノーロ・モラン ... Manolo マノーロ
Luis Pérez de León ルイス・ペレス・デ・レオン ... Don Cosme, el cura ドン・コスメ、司祭

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Comments

成句など
(1) todo quisqui = それぞれ、めいめい

(2) cruzarse de brazos = 腕組みする; 何もしない
con los brazos cruzados = 腕組みして; 手をこまぬいて

(3) ¿A qué viene ...? = …とはどういうことか?

(4) no pegar (el, un) ojo [los ojos] = まんじりともしない、一睡もしない (※ 高官の来訪以来、私は一睡もしてない、とか)

(5) humor del demonio = たいへん機嫌が悪い (※ 村長さんを待ちかねてあちらの方は御機嫌斜めですよ、とか)

(6) ¿Qué tripa se le ha roto a usted? = 一体どうしたというのです?

(7) sin rechistar = 文句一つ言わずに、黙って

(8) de sol al sol = 日の出から日没まで

Posted by: Reine | Sunday, December 19, 2004 20:01

(1) 中央から派遣されてきた政府係官が村長に待たされすぎてイライラし、やっと現れた村長を叱り飛ばすようなシーンがある。「あなた、今日明日にもアメリカの使節団が到着してしまうというのに、いったい何をボヤボヤしてるんですか。歓迎の準備なんて全くできてないじゃないですか! ちょっと窓からごらんなさい!」と。

係官にしてみれば何の準備もできていないこの村の凡庸さを自覚して、もっと何かしろ、もっと焦って臨めという苛立ちが最高潮だったわけだが、村長は「見なさいって言われてもぉ……なんかマズいですかぁ?」という具合で。

そうやって窓から通りを眺めてるうちに知り合いを見つけた村長さんが、「あ! Rafaelだ! おーーーいRafaeeeeel!」と大声で話しかけちゃうサマは、小村の平和(悪くいえば呑気・愚鈍)っぷりと、中央のお偉方の過度な緊張との対比がアカラサマでクスクス笑える。


(2) ‘マーシャルさん’にリクエストする事柄を村民一人一人がじっくり考えるわけです。そして夢に見たり、悪夢にうなされたりするの。そこのところで、各人のキャラクターが強調されるので大事そうなシーンなんだけど、まぁ、ここでは割愛ね。

畑で農作業中に飛行機が上空を旋回/USAとかいた荷箱を投下/パラシュートが落ちてくる/USAの文字/トラクター/家族で喜んで運転して畑を駆け回る……という一農民の夢がグッと来る。

Posted by: Reine | Sunday, December 19, 2004 20:25

(3)
Secretos del Corazónの時に物語の始まりと終わりの決まり文句について書きましたが、この映画も最初と(途中と)最後にナレーションが入り、やっぱり「Érase una vez ...」で始まり、「Y colorín colorado este cuento se ha acabado」で締めている。


(4)
ちなみにロケ地はMadridから60kmくらいに在るらしいGuadalix de la Sierraって。ここの住民がエキストラとして出演。

(4')
ちなみにGuadalix ~ は、TV番組『El Gran Hermano(=数年前に各国で盛り上がったらしいBig Brotherのスペイン版)』で出演者が暮らす家があったのもここ……じゃないかな……たぶん……自信ないけど。


(5)
教室で児童が罰として立たされてるが、「Sigerico(=415年にたった7日間だけ西ゴートの王位に就いた人物)を殺したのは誰ですか?」との問いに答えられなかったかららしい。

Posted by: Reine | Sunday, December 19, 2004 21:01

(6) ネタバレ
↓↓↓
「Mucha atención al delirante discurso que Don Pablo, un impagable Pepe Isbert, ofrece desde el balcón del ayuntamiento. (村長が庁舎バルコニーから村民に語りかけた熱烈な演説に注目)」と紹介しているサイトがあった。

……へ? ……そんな名演説あったっけ……? と一瞬kyotonlyな私。そのシーンを見てみた。

その演説とは、「“Yo, como alcalde vuestro que soy, os debo una explicación y esa explicación que os debo, os la voy a pagar…que como alcalde vuestro que soy, os debo una explicación y esa explicación os la voy a pagar…que como alcalde vuestro que soy…”」を延々繰り返してるだけなの。

「わたくし村長は、みなさんの村長としてご説明いたします、私が村長であるからして、説明する義務は村長としての責務でして、みなさんにご説明いたします、村長から一言説明申し上げたいと思うのは責務であるからして……」ばっかりで全然話が始まらないの。

で、ためしに「os debo una explicación」で検索をかけると、「映画の名フレーズ」として挙げている人も多く、また、その名フレーズにさまざまな現代の政情をあてはめて(?)皮肉っているような(?)文章が散見されるような(?)気がします。

(リンク先を全部読みにいったわけではないので、あくまでも‘たぶん’なんですけど)

Posted by: Reine | Sunday, December 19, 2004 21:03

(7) ネタバレ

この映画はゲラゲラ笑っていられる映画でもないんだよね。すごく面白いのは面白いんだよ。面白いんだけど。

世界史の教科書の最後の方、第二次大戦後とかその辺をよく考えながら観たらより一層楽しめそうな映画。

http://www.historiasiglo20.org/GLOS/planmarshall.htmの最後の部分:
La España de Franco, que no cumplía ningún requisito democrático, fue excluida del Plan lo que hizo aún más duro el lento proceso de recuperación de nuestro país tras la guerra civil. (フランコ政権下のスペインは、民主的要件を満たしていないとしてマーシャルプランからは除外されたため、内戦後の復興は遅々として進まなかった)

http://www.mailxmail.com/curso/excelencia/guerra_fria/capitulo5.htmには:
La excepción a esta regla fue la España de Franco, a la que se negó la ayuda por el carácter fascista de su régimen político. (例外はフランコ政権のスペインで、その政体がファシスト的であるとして適用外とされた)


そういうつもりで観るとこの映画の言いたいことがよくわかるんだと思う。それでこそ最後の3分間のナレーションが沁みるわけですよ、きっと。そして、辣腕マネージャーManoloがそうであったように、観てるこっちもVillar del Río村がencariñarse(=いとおしくなる、好きになる)のですよ。

Posted by: Reine | Sunday, December 19, 2004 21:12

lindos !

pena não saber ler japonês...adoro blogs.
A foto da "reine" é super.

SAUUUDDAADDEESS
(tuas)

Posted by: | Thursday, December 23, 2004 22:49

この夏以降だろうか、この映画タイトルでの検索結果によってこのblogに辿り着く人が増えていて、この2~3週間はなんだか急増中といった感じである。

なんだろう? なぜいま? この映画はなんかどこか(の映画祭かなにか)で大々的に扱われて注目でもされてるのですか? なんでこんなにみんなこの映画で検索かけてるのでしょうか。

Posted by: Reine | Wednesday, September 21, 2005 09:37

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